呼吸が浅いと毛細血管が減る!? 深い呼吸を身につける超簡単トレーニング

取材・文/廣松正浩 イラストレーション/加納徳博 取材協力/田中幸夫(東京農工大学大学院工学研究院先端健康科学部門教授)

(初出『Tarzan』No.752・2018年10月25日発売)

人は安静に過ごしているとき1分間に12〜15回ぐらい呼吸をしている。肺の容量はおよそ5〜6リットルであり、肺活量としては男性が4.5リットルぐらい、女性は3リットルぐらいというのが一般的な数値。では、せめて肺活量の半分ぐらいは、ひと呼吸のたびに換気しているかといったら、とんだ大間違い。

「普通の人はかなり浅い呼吸をしていて、1回でせいぜい500mlぐらいしか換気していませんし、気管と気管支の中には肺まで入らない空気が150mlぐらい残ります」と語るのは呼吸法を研究してきた田中幸夫教授(東京農工大学)だ。

「ゆっくりと深い呼吸を心がければ、一回でたくさん入るから、回数は少なくても効率がいいんです」

酸素は生命活動の根源だから、深い呼吸でたっぷり取り込みたいものだ。また、現代人に増えつつある浅い呼吸の背景には、運動不足や不活発な生活が隠れていることが多い。

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呼吸法と簡単な体操で速度が向上。
健康な男子大学生7名で呼吸法を8分、カラダをねじる軽い体操を12分実施したところ、脳内の情報処理、神経の調整がよくなったのか反応時間が短縮した。高齢者も同様の改善を見た。
出典/『簡易版操体呼吸法の生理的・心理的コンディションに与える影響』
(田中幸夫、金子直嗣、石濱慎司ほか)

「こうした生活を長く続けると、うつ気味になる人が現れます」

また、カラダを動かさないと酸素への欲求が乏しくなり、末梢の血流は低下し、毛細血管自体が減る可能性も指摘されている。

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交感神経の緊張が緩み、血管が拡張。
上述のグラフと同じく健康な男子大学生7名で呼吸法と軽い体操を実施後に測定。血管が拡張したことから、交感神経の緊張が緩和されたことが推測される。深い呼吸は自律神経の調整に役立つといえるだろう。
出典/『簡易版操体呼吸法の生理的・心理的コンディションに与える影響』(田中幸夫、金子直嗣、石濱慎司ほか)

一日のどのタイミングでもいい。職場で、自宅で意識的に深い呼吸を行ってみよう。下の図のように鼻で吸って口で吐く。ルーティン化すればいつか自然と呼吸は変わる。呼吸をコントロールするカラダのプログラムは書き換え可能だと期待しよう。

「一般の方々を指導するときには“息方”を変えませんか? と尋ねてみます。呼吸の仕方を変えることは、生き方を変えることにつながってくるからです」

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深い呼吸を身につける簡単トレーニング。
(1)頭の中で5拍数えながら吐き、(2)3〜4拍かけて吸ったら、(3)1〜2拍止めて肺を空気で満たす。着座で行うのがお勧め。(1)から(3)を繰り返しながら8分ほど続ける。自分のリズム、タイミングが大切だ。