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「筋肥大」都市伝説のウソ、ホント。EMSって効くの? 寝る子は本当に育つ?

筋トレと筋肥大にまつわるさまざまな理屈とまことしやかな噂の数々。実は意外な勘違い(!?)が紛れていた。7つの“都市伝説”を理学博士の山田茂先生とともに検証した。

1.「高強度の筋トレを行うと、成長ホルモンが分泌され、それが筋肥大を引き起こす」?

成長ホルモンとは191個のアミノ酸でできたペプチド。強度の高い筋トレ後には、傷んだ筋肉の修復のために分泌が起こり、たくましいカラダづくりを助けるもの、のはずだが、「成長ホルモンと筋肥大はストレートにはつながっていません」と明かすのは、長らく筋肉の研究を続けている山田茂教授(実践女子大学)だ。

「筋肥大を起こさせるトレーニングとは、強度の高いものだと言われます。また、成長ホルモンやテストステロンがいかにも肥大の主因のように言われますが、研究が大幅に進み、これらのホルモンは筋肥大に必須でないことが明らかになっていますし、運動強度が高くなるにつれて、テストステロンの分泌量は低下します」。

成長ホルモンを分泌できなくした下の実験でも、運動によって筋肥大は明らかに起きた。もちろん、成長ホルモンの分泌はカラダに変化をもたらす。だが、「筋トレ後の筋肉に作用するのは成長ホルモンよりもIGF(インスリン様成長因子)やMGF(メカノ成長因子)、FGF(線維芽細胞増殖因子)だろうというのが定説です」。

筋肥大伝説がまずひとつ崩れた!

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成長ホルモンが出ないときも筋肥大は起こることがある。
C、Hとも成長ホルモンを分泌できないよう処置したマウス。Cは運動なし。Hには運動させたところ、成長ホルモンがないにもかかわらず、運動後には筋肥大を生じた。成長ホルモンが筋肥大に役立つとしても、分泌が必須の条件ではないことが分かる。なお、ヒラメ筋には遅筋が多く、足底筋には速筋が多い。どちらにも当てはまった。
出典:『骨格筋肥大と成長因子』山田 茂/運動性化学15-38Vol 1989

2.「筋肉細胞は、伸張する動きで大きく破壊される」?

アームカールでウェイトを上げる動作はコンセントリック(短縮性伸縮)。一方、ゆっくり下ろす動作はエキセントリック(伸張性伸縮)。一般的にはより重い負荷を扱えるエキセントリックの方が、より強い刺激を筋肉に与えられると考えられているが、いずれにしても筋線維の100%を動員できているわけではない。

「筋肉は長い細胞の両端を腱で束ねたものではなく、非常に小さく、細かい細胞が無数に集まったものです。そのうちの何%かが縮もうとすれば、隣り合った細胞は必然的に引き伸ばされます」と山田教授。

「縮もうとして頑張る筋細胞が運動後に肥大するのではなく、つられて引き伸ばされた筋細胞により多くの刺激と損傷を生じるから、肥大するのはこちらの筋細胞です。細胞レベルで見ると運動強度が高くなるほど、筋細胞同士の引っ張り合いで多くの損傷を招くことになります」。

ウェイトを上げる、下げるという動作の向きのことではない。「筋細胞は引き伸ばされるから壊され、筋肥大も起きるんです」。真相は結果的に「正しい」が、エクササイズの動きの話とは違うので要注意。

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縮もうとする筋細胞は、隣り合った細胞を引き伸ばそうとする。これはウェイトを上げるときも、下げるときも同じだ。

3.「筋肉の肥大には、日々の十分なタンパク質摂取が非常に重要」?

きょうは筋トレをやる日だから、体重×1.2gぐらいはタンパク質が必要だね。よし、運動後は30分以内にプロテインを飲むとするか。「運動終了後30分以内では多分もう遅いんです。運動が刺激になって動き出すタンパク質の合成系は反応がとにかく速い」。つまり、トレーニング開始前に筋肉の中がアミノ酸でぱんぱんに満たされているイメージが理想的。筋トレの時間が迫ったから、より多く入れておこうではない。

「摂取タイミングを細かく考えるのはあまり意味がありません。日頃から体内に素材が十分に用意されていれば筋肉はちゃんと回復します。そもそも運動の真っ最中に破壊と再生が同時に起こっているんですから」。そのうえタンパク質の摂りすぎには、デメリットもある。

「排出の際に肝臓や腎臓に重い負担となりますし、タンパク質の過剰摂取は体臭を強くする可能性があります。体重1㎏当たり2g以上になると多すぎでしょう」。運動後や1回の食事だけで摂ろうとせず、日々不足しないよう心がけるべきなのだ。

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筋肥大のゴールデンタイムを逃すまいと、一刻を争って糖とタンパク源を流し込むトレーニーは数え切れないが……。

4.「テストステロンの分泌が、筋肥大に大きく関係する」?

強度の高い筋トレに励むとテストステロンの分泌が高まる。あるいは、マッチョな男はテストステロンのレベルが高い、みたいなイメージを誰もが漠然と抱き、テストステロンは筋肥大を後押しすると思うところだが、「最初に言った通りで、運動強度が高くなるとテストステロンは出にくくなるんです。ただし、筋肥大のためには高負荷の運動で筋肉に破壊をもたらさなければならないから、やはり筋トレは必要なんです」。

強度の高い筋トレは、筋線維だけでなく周囲を取り巻く組織、細胞外マトリックスにも損傷を及ぼす。

「すると、細胞外マトリックスの中に結合しているさまざまな成長因子が流れ出てきます」。

損傷がひどければマクロファージがやってきて、そこを貪食しつつ、FGFなども分泌する。テストステロン自体ではなく、主としてこれら成長因子がものをいうのだ。

「細胞膜と基底膜の間にはサテライト細胞(筋前駆細胞)があり、成長因子の働きかけを受けると活性化し、損傷個所に融合するように修復します。元の筋線維が太くなるのではなく、サテライト細胞がくっついたり、サテライト細胞同士が結合して新しい筋線維ができるんです」。

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テストステロンはなしでも運動後、筋肥大は起こった。
Nは正常群で、テストステロンを分泌できるマウス。Cは睾丸を除去処置し、テストステロンを分泌しないようにした群。運動後、テストステロンのない方が骨格筋重量の増加率は高かった!筋肥大には成長ホルモンと同じく、テストステロンもまた必須ではないことがはっきりと分かる。予想はあっさり覆された!
出典:『骨格筋肥大と成長因子』山田茂/運動性化学15-38Vol 1989

5.「運動後、48〜72時間の休息が、筋肥大を促進する『超回復』となる」?

がっちり追い込んだ筋トレ後は48~72時間の完全休養を確保すると、トレーニング前よりも筋量がわずかに増える。ここで次の筋トレを行って休めば、また筋量が微増する。こうして超回復を繰り返すことで、筋肉は次第に肥大していくというのが通説。

「旧ソ連の学者が言い始めた理屈ですが、理論的な根拠はまったくありません。超回復が起こっていることを証明するデータはありません」。

48~72時間という数字にも裏付けはないそうだ。

「細胞外マトリックスの頑丈さは人それぞれで、筋トレによる損傷の起こりやすい人と、そうでない人がいますから、回復にかかる時間だって、その人によってさまざまです。痛みがあるなら休めばいいんです」。

規定時間が過ぎたから運動再開、ではないのである。また、細胞外マトリックスが頑丈だと、スクラップ&ビルドは起こりにくい。つまり、筋肥大しにくくなる。

「幼児期に脆弱だった細胞外マトリックスは高校生ぐらいにほぼ完成します。筋肥大のしやすさは、体質のようなもので、その物理的性質を後天的に変えることは不可能ですね」。

6.「マッサージやEMSなど、他動的な刺激は筋肥大にあまり有効ではない」?

着けてるだけでシックスパック。キレイにシェイプされたカラダを手にできます!と謳うEMSのCMを見ながら、“そんなワケないだろ。運動は自力でするから効くのだ”、多くの人が内心そう思っているだろう。

「自分の意思で動かすのではなくても、筋肉を機械的に動かすだけでも筋細胞は伸張し、細胞外マトリックスが壊れて成長因子が現れれば、結果的に肥大は起きますよ」実験で採取した筋のサンプルをただ伸縮させるだけで大きくなったと山田教授は言う。

「血液由来の栄養成分やホルモンなども介さずに成長は起きるんです。ただ動かすこと自体が原因で筋肥大は起きますから、例えば、要介護の人がストレッチ的なマッサージを受けても筋肥大効果は期待できます」。

上記2で説明したように、収縮する筋細胞がではなく、それに引っ張られて伸びた隣の筋細胞が壊され、肥大するのだ。引っ張っているのが運動による刺激なのか、電気刺激なのか、そもそも細胞には区別できない。ならば、EMSにも効果は期待できそうだ。

「もちろん期待できるでしょう。ただし、電気刺激ですから筋肉以外の臓器にも影響するはずです。市販品は電気刺激を控えめに設定している場合が多いので、効果は軽い負荷の筋トレ程度でしょう。単に物理的な筋量を増やすだけなら効果はありますが、各種スポーツなど、運動機能に応じたファンクショナルな筋肉は育てにくいと思います」。

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伸張刺激のみでも筋肥大は起こる。
マウスの骨格筋筋芽細胞を採取し、プレート上で最長15%の機械的伸展刺激を与えた。グラフ右はプレート外周部に置いた筋管細胞が、周囲から核を取り込んで成長した様子。引っ張られただけで変化した。
出典:『骨格筋細胞に対する機械的伸展刺激の影響に関する研究』戸塚実・千葉美麗・三谷英夫(東北大学歯学部歯科矯正学講座)

7.「成長ホルモンは睡眠中に多く分泌され、筋肥大のメカニズムに関わる」?

成長ホルモンの分泌はサーカディアンリズムの影響下にあって、多く分泌される時間は限られる。特にゴールデンタイムの最初のノンレム睡眠中に最大量の分泌が起きるから、筋トレをやった日は早寝が一番。

「それは正しいと思います。中高生が部活などで昼間カラダをたくさん動かすと、筋肉の細胞に損傷を生じ、夜間の就寝時に成長が起こります」。

かくして寝る子は育つの図式が完成する。だが、このときに成長ホルモンが主役となって、筋肉の修復や肥大が起こっているのではない。

「成長ホルモンが働きかけるのは、筋よりもむしろ骨です。成長期までは長骨の両端の骨端線の付近に骨芽細胞がたくさん存在していて、これを増殖させているんです」。

だから、成長期には骨が伸び、引っ張られて筋肉の付け根が痛む。いわゆる成長痛だ。

「既にお話しした通りで、筋細胞は引っ張られることで損傷し、成長因子やホルモンの受け入れ態勢が整うものです。つまり、骨が伸びるから、筋肉も育つんです」。

ただし、年を重ねるほど、細胞外マトリックスは徐々に丈夫になっていくから、そんなに簡単には損傷しなくなる。成長ホルモンの分泌量も成長期ほどの高レベルではなくなるし、サテライト細胞も減っていく。

当然ながらトレーニング効果は若いうちの方が高いもの。けれど、筋肉を大きく育てたい人には日々の積み重ねも大事だ。よく運動して、よく眠る。この習慣を忘れずに。

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何時に床についても、最初の深い睡眠時に中途覚醒などなく、成長ホルモンをしっかり分泌できるよう環境を整えよう。

取材・文/廣松正浩 イラストレーション/藤田 翔 取材協力/山田 茂(実践女子大学生活科学部食生活科学科 スポーツ栄養学研究室教授、理学博士)

(初出・『Tarzan』No.727・2017年9月28日発売)

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