ヒトも犬も猫も救われる? 「人工血液」研究の現在

手術を始め、命に関わるシーンで欠かせないのが輸血。輸血用血液の不足問題が進んでいる今、実用化を期待されるのが人工血液。40年以上前から世界中で研究され、未だ実現に至っていない人工血液だが、世界をリードする研究が日本で行われている。

取材・文/石井良

初出『Tarzan』No.834・2022年5月26日発売

人工血液

小松晃之さん

小松晃之さん

教えてくれた人

こまつ・てるゆき/中央大学理工学部応用化学科教授。早稲田大学在学中から20年以上にわたり人工血液の研究に取り組む。

長期保存可能な人工血液で広がる可能性

少子高齢化に伴い、深刻化する輸血用血液の不足問題。その救世主として一刻も早い実用化が期待されているのが人工血液だ。

世界中の科学者たちが40年以上前から研究を進めているものの、未だ実用化には至っていない。そんななか、世界を一歩リードするのが中央大学の小松晃之教授による「ヘモアクト」である。

「ご存じの通り、血液の主成分は赤血球です。酸素を運搬する大切な役割がありますが、ヘモアクトはそれを代わりに担うもの。言い換えると、人工酸素運搬体ですね」(小松教授)

ヘモアクトは、血液中に含まれる2大タンパク質であるヘモグロビンとアルブミンから作られる。血液型を決める物質を含まないため誰にでも使用でき、約2年間の長期保存も可能。手術のほか、臓器の保存液などとしての利用が期待される。

輸血用の血液が3週間しか保存できないことを考えると、まさに夢のような発明と言えるだろう。

人工血液はどうやって作られるのか

まず血液から血球と血漿に分離。血球(赤血球)から「ヘモグロビン」を、血漿から「アルブミン」を取り出す。ヘモグロビンに架橋材を混ぜ合わせ、アルブミンと配合させるというのが主な流れ。

ヘモアクトが出来るまで

赤血球はヘモグロビンという酸素を運ぶタンパク質が袋詰めにされたもの。その袋の違いが血液型となる。

小松教授は、これからヘモグロビンだけを取り出し、袋の代わりに血漿の中にある血清タンパク質アルブミンで包み込むアイデアを考案した。

イヌ・ネコも救う! 人工血液でできること

輸血用の血液製剤として活用が期待される ヘモアクト

長期保存可能で血液型を問わないため、輸血用の血液製剤としてだけでなく、さまざまな用途に活用できる。特に画期的なのが、救急車内での処置や大規模災害時に常備しておけること。

移植用の臓器の保存液として使えば、ヘモグロビンの酸素運搬機能によって長く安全に臓器を運ぶこともできる。

さらに小松教授は、イヌとネコ向けの人工血液も開発しており、こちらはすでに副作用がないことが認められている。実用化まであと一歩だ。イヌ・ネコ用途では、そもそも献血のシステムがないため、これまで諦めざるを得なかった命を救うことが可能になるのだ。

「ヒト用も5年以内に実用化をしていきたい」と小松教授。その未来に大いに期待したい。