その肩の痛み「腱」が原因かも…。腱板損傷のメカニズム
トレーニングをしていると耳にする「コンディショニング」という言葉を、詳しく紐解いていく「コンディショニングのひみつ」連載。第27回は、加齢、またはスポーツで多発! 肩関節の痛みの原因について。
取材・文/黒澤祐美 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.834・2022年5月26日発売
加齢や肩の使いすぎで起こる「腱板損傷」
スポーツ障害のコンディショニング、今回のテーマは肩の「腱板損傷」。知っての通り、筋肉は赤みを帯びた伸び縮みする組織だが、筋肉と骨のつなぎ目にあたる腱は、筋肉の収縮の力を骨に効率よく伝えるために硬めかつ白っぽいスジ(線維)のようになっている。
「腱板」とはこのスジが集まった板状の組織のこと。棘下筋(きょっかきん)、棘上筋(きょくじょうきん)、肩甲下筋(けんこうかきん)、小円筋(しょうえんきん)と呼ばれる4つの筋肉の腱から構成され、複雑に動く肩関節の安定性を高める役割を担っている。
今回のテーマである「腱板損傷」とは、この腱板に炎症や断裂といった損傷が生じる疾患のこと。交通事故のように外傷をきっかけに生じるもののほかに、加齢によって発症するものや、スポーツでの肩の使いすぎ(オーバーユース)が主な原因として挙げられる。それぞれの特徴について見ていこう。
「加齢に伴う変化」が原因の場合
50代に好発する、いわゆる“五十肩”。加齢に伴い肩関節を構成する靱帯や骨、腱などが老化し、腱板に炎症が起きることが主な原因。腕を上げる動作で関節の痛みが生じる。
似て非なる疾患として、60歳前後のとくに男性に好発しやすいのが「肩腱板断裂」だ。五十肩との違いは、挙上が可能な点。運動痛や寝ている間に痛みを生じるが、関節の制限は少ない。
「オーバートレーニング」が原因の場合
野球のピッチャーのように投球動作を繰り返したり、バレーボール選手のようにスパイクやブロックで腕を上げる動作を繰り返したりすることで起きるのが「インピンジメント症候群」だ。
腕を上げる際に、上腕骨と肩峰がぶつかり合い、腱板の一部が挟み込まれることで痛みが生じる。腕を上げる途中の動作(60〜120度程度)で強い痛みを感じ、上げ切ったところでは痛みを感じないという特徴がある。
「不良姿勢」が原因の場合
スポーツのほかにインピンジメントの誘因となるのが、姿勢不良だ。頭部が前に倒れた姿勢や、肩を丸める姿勢(脊柱後彎姿勢)は上腕骨の内旋と巻き肩を起こし、背部は弱化、胸部は硬化する。これらが上腕骨の挙上動作の完全な妨げとなり、痛みの引き金になる。
「腱板損傷」治療と予防
炎症や部分断裂の場合は手術なしで治癒することも多く見られるが、消炎鎮痛剤の内服や痛み止めの注射、リハビリテーションなどが必要であるため、医療機関を受診すること。
インピンジメント症候群の予防や再発防止としては、医療機関の指示に従いながら肩関節を安定させる筋肉、つまり前途したインナーマッスルの棘下筋、棘上筋、肩甲下筋、小円筋(これら筋肉の総称をローテーターカフという)を鍛えることが重要となる。
具体的には、下のイラストのような低負荷・高回数で行うエクササイズ。強度が低く「効いていないかも?」と感じるかもしれないが、それが正解。肩関節から動かすイメージで行おう。
予防エクササイズ①
テーブルや椅子に片手を置き、上体を前に倒す。逆の手を床に伸ばし、肩から円を描く。左右繰り返したら、逆の手も。
予防エクササイズ②
バンドの中心を踏み、両端を持つ。親指を下に向け、30〜45度の中で小刻みに両腕を上げ下げする。20回以上3〜4セット。
復習クイズ
答え:大円筋