ランナーに高確率で発症するアキレス腱障害
トレーニングをしていると耳にする「コンディショニング」という言葉を、詳しく紐解いていく「コンディショニングのひみつ」連載。第20回は、ランナーに高確率で発症するアキレス腱障害について。
取材・文/黒澤祐美 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.827・2022年2月10日発売
長距離・短距離ともに起こりやすい障害
同じランニング動作であっても、長距離走の選手と短距離走の選手では、故障しやすい部位が異なる。短距離走選手は足首の内側、外側、背側など足関節周辺で障害が起こりやすいのに対し、長距離走選手は足底腱膜、腸脛靱帯、そしてアキレス腱が多い。
今回はこの故障しやすい部位の中でも、長距離・短距離ともにワーストワンである「アキレス腱」に起こるランニング障害について考えていくとしよう。
アキレス腱とは、腓腹筋の内側頭、外側頭、ヒラメ筋で構成された下腿三頭筋(ふくらはぎ)の腱。人体最大の腱であり、腓腹筋やヒラメ筋の力を踵へ伝えることで歩行やジャンプ、爪先立ちなどの動きを支えている。
アキレス腱は歩行時に約265kg、ランニング時にはなんと約918kg(60kgの人。体重の約15倍)もの強大な負荷がかかるといわれており、さらに一度損傷すると修復しづらい解剖学的構造でもある。そのため、もしも障害が起きた場合は適切な判断とアプローチが不可欠になることを覚えておきたい。
アキレス腱障害の2つの特徴
適切なアプローチをするためには、2種類あるアキレス腱障害の特徴を正しく知る必要がある。まず1つ目が、踵骨の付着部から約2cmの幅に起こる「アキレス腱症」。もう1つがそれ以上離れた場所で起こる「アキレス腱付着部症」だ。
アキレス腱障害のうち約60〜70%は「アキレス腱症」、約20〜30%は「アキレス腱付着部症」が占めており、35〜45歳で発症しやすい。このことから、症状を誘発する内的要因として遺伝的要因、基礎疾患の有無、肥満などと併せて加齢もその一部であると考えられている。
一方外的要因として考えられるのは、ウォーミングアップ・クールダウン不足、崩れたランニングフォーム、走行距離や強度などの急激なトレーニング内容の変更など。これらを踏まえたうえで、予防と治療について考えてみよう。
一に病院、二に保存。最後にストレッチ
アキレス腱症
アキレス腱は、踵骨の付着部から約2〜6cm付近の血流が非常に悪いということがわかっている。血液供給が乏しい=自然治癒しにくいということ。修復が不完全なうちに損傷を繰り返すと、アキレス腱は細かい断裂、細胞や血管の増殖、細胞外基質の変化などが起こり、疼痛に繋がるという仕組みだ。
アキレス腱付着部症
踵付着部の障害と、踵骨後部滑液包に起こる踵骨後部骨包炎の2つが合併している確率が高い。これはランニングやジャンプ動作により強い牽引力と圧迫力がかかることが原因。
いずれの障害も、痛みが発生したら触診に加えMRI、X線、超音波などで診断を仰ぐために病院へ。治療は保存治療が最優先。アイシング、外用薬、度合いによってはブロック注射や手術などが選択されることもある。痛みがなくなった段階でストレッチに移ること。
ストレッチとトレーニングの例
復習クイズ
答え:2cm