ランが続かないなら…。モチベーションアップの8つのアイディア
いざ走り始めても、なかなか習慣化が難しい。そんなランナーに向けた、駅伝常勝チームのメンタルを支える中野ジェームズ修一さんに直伝の、ランニングを無理なく続けるための8つのアイディアを紹介。
取材・文/井上健二 イラストレーション/Adrian Hogan
初出『Tarzan』No.820・2021年10月7日発売
中野ジェームズ修一さん
教えてくれた人
なかの・じぇーむず・しゅういち/PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー、スポーツモチベーション最高技術責任者。2014年から青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化も担当。
目次
① 予定を家族と共有「走る環境作り」を
シングルなら自由時間は好きに使えるが、パートナーや家族がいるとそうもいかない。走るのが好きな人なら一緒に走ればいいが、そういうタイプばかりではない。周囲の理解を得ながら、ストレスなく走り続けるには、どうしたらいいのか。
「急に“いまから走ってくる”と言い出すから、軋轢が生じる。日曜の午前中は2時間ほど走りたいといった自らの予定をパートナーや家族と共有し、承諾を得ておきましょう」(中野さん)
大切なのは、自分の予定ばかりを優先しないこと。ギブ・アンド・テイクの精神で、相手の予定も尊重することが求められる。
「私のラン友には、まだ小さな子どもがいて、奥さんは産後ヨガにハマっているそうです。毎週のヨガ教室の時間割は決まっているので、その時間帯は子どものケアを彼が担当し、彼が走りたい時間帯は奥さんが子どもを見るようにしているようです」(中野さん)
互いに運動好きなら、そうした融通は利きそうだが、運動に理解のない相手はどうしたらいい?
「観劇したい、お茶したいなど、運動以外にもそれぞれやりたいことがあるはず。そこを尊重すると相手も走る時間を認めてくれるでしょう」(中野さん)
② 距離信仰を捨て、最小限の練習に
ランナーの間には、月間走行距離が長く、フルマラソンのベストタイムが良いほどエラいという、“民間信仰”のようなものがある。
「トップ選手は別ですが、市民ランナーは長く走るほど強くなれるわけではない。障害予防のためには、市民ランナーは月間200km以内に留めるのが無難。たとえ月間100kmでも、フルマラソンに出て自己ベストを更新することは可能です」(中野さん)
ミニマムな距離で走力を引き上げるために大事なのは、弱点を見つけ、それを克服する努力をすること。
「呼吸は余裕なのに、脚が持たないタイプは筋持久力に弱点がある。一度に長い距離を走る練習の機会を、増やすように心掛けましょう」(中野さん)
1回5km×週5回で月間100kmなら、10〜15km×週2〜3回と頻度を落とし、1回当たりの走行距離を延ばすと筋持久力はアップする。
「逆に脚は大丈夫なのに、呼吸が持たないタイプは、心肺機能に問題アリ。心肺を鍛えるスピード練習を週1回ほど取り入れましょう」(中野さん)
心肺を強くするなら、息が上がるペースで200〜400m走り、2〜3分休憩して5〜6本繰り返すインターバル走などが有効である。
ランニング障害を防ぐための走行距離の目安
- 中学生/1日5~10km(月間200km以内)
- 高校生/1日15km(月間400km以内)
- 大学・実業団/1日30km(月間700km以内)
- 中高年/月間200km以内
ランナーの大敵であるランニング障害は、走行距離が長くなるほど発症リスクが高まる。年代やレベルに応じて、走行距離の目安を知ろう。
③「1か0」ではなく、0.3の日も設ける
市民ランナーには、一度に10km以上走る強者も多い。着替えやシャワーなどの時間を入れると、所要時間は1時間以上。仕事や家事で忙しいと、「走る時間がない!」と焦り、サボってしまう日もあるだろう。
でも、毎回10km以上走っているという理由で、その時間がない→走れないという発想は見直すべき。
「合宿中、30km走をすることもザラにある青学生の練習日誌を見ても、オフ期には3kmしか走らない日もある。市民ランナーも、スケジュールや体調に応じて、短距離・短時間で終える柔軟性を持ちましょう。3kmなら、20分あれば走れるはずです」(中野さん)
走るなら10km以上と固執する。それは「1か0」という考えに囚われていないか。10km以上が走れたら1、走れなかったら0ではない。2kmなら0.2、3kmなら0.3だと見方を変えてみると、「仕事の息抜きに、今日は20分だけ走ってみるか」という前向きな気持ちになれる。
「私にはプライベートで夜一緒に走るラン友が何人かいますが、定番コースの途中で“今日はここで帰るね”と抜ける仲間が1人はいます。選手ではないのですから、肩の力を抜いてランと向き合いましょう」(中野さん)
④ 雨天はチャンス!天候変化を楽しもう
ランニングは、一種のアウトドアスポーツ。当然、天候の影響を受ける。暑い日や寒い日は走るのを躊躇しそうだが、それは日本ならではの贅沢な悩みなのかもしれない。
「海外のランナーと話していると、“日本には四季があっていいね”と必ず言われます。気候に変化があり、いつもの公園の周回コースでも、木々の紅葉や新緑、花々の開花などがあって飽きが来ないのは、日本で走るメリットだと私は思います」(中野さん)
暑い日に走り大汗をかくと気持ちいいし(熱中症対策は万全に!)、頑張って走り込むと走力は確実に上がる。寒い時期は走りやすいし、ウェアの重ね着だって楽しめる。ならば、雨の日はどうする? 大雨は別として小雨なら走るべきか。
「レースは雨天でも行われます。レースで走るのが好きな人は、濡れても快適な防寒具を見つけるために、あえて雨天に走ってみるのもいいでしょう。足が濡れて皮膚がふやけるとマメができやすいので、マメができにくいシューズとソックスのベストな組み合わせを探すために、雨天でも青学生は普通に走ります。ちなみに私は、雨天は“神様が休めと言っている”と捉えて休養します(笑)」(中野さん)
⑤ 50/50で成功体験を重ねよう
練習プランを立てたのはいいが、それがこなせないと凹んでしまう。
「その場合、悪いのはあなたではなく、トレーニングプラン。実力以上の高いレベルに設定しているのです。毎回こなせないと失敗体験になり、走るモチベーションが落ちます」(中野さん)
かといって、簡単にこなせる練習では走力は上がらない。最適の練習プランを立てるコツは、できるかできないかの確率がちょうど半分、つまりフィフティフィフティ(50/50)に設定することだ。
50/50の考え方
「50/50レベルなら走力の向上が望めるし、“できないかもしれない”と思っていたのにこなせたら、大きな達成感が得られて成功体験となり、ランに意欲的になれる。走力が上がったら練習の量と質を上げ、いつも50/50レベルで走りましょう」(中野さん)
一人だと踏ん張れないなら、ランニングクラブに入会するのもいい。
「青学生の練習でも、先輩が“いくぞ!”と声をかけると、その背中を追いかけて後輩たちは速くなる。目の前に明確な目標があると、頑張れるもの。走力別に練習できるランクラに入り、コーチや上級者の後を追って走るうちに、いつの間にかランナーとして成長できるでしょう」(中野さん)
⑥ 不安な気持ちは“宿題”で抑えよ
故障が治らず、まだ走ってはダメなのに、フライングする人は多い。そういう選手に、中野さんはあえて多くの“宿題”を出すという。
「故障しているのに、走りたくなる一因は、やることがなくて不安になるから。故障の解消につながる動的&静的ストレッチ、体幹トレなどのメニューを渡すと、走る以外に積極的に取り組めるものができるので、フライングが未然に防げます。
思い当たるなら、パーソナルトレーナーにメニューを作ってもらいましょう。地道な補強トレに励んだおかげで、復帰後はむしろランナーとして成長できるケースも少なくありません」(中野さん)
リハビリ中に走力が落ちるのが心配なら、他にもやっておきたいトレーニングがある。
「心肺機能を保ちたいなら、ランのような着地衝撃がないバイクや水泳を試してみましょう。筋持久力を維持するなら、やはり着地衝撃がない片脚スクワットなどを反復するレイヤートレーニングが有効です」(中野さん)
両脚でジャンプして、痛みや違和感があるうちは、走るのは論外。一般論だが、故障した脚で片脚ケンケンを繰り返し、痛みも違和感もゼロでようやく、ゆっくり走り出せる。
⑦ レースが中止ならバーチャルを楽しもう
リアルな大会は軒並み中止になっているが、代わりに増えてきたのが、バーチャルなオンラインレース。
「私のクライアントでも、オンラインで大会に出る人は多い。好きなタイミング、好きな場所で走れるし、一人で走っても、仲間と走ってもいい。リアルな大会にない魅力があるという声も聞かれます。大会中止の連続で落ち込んだ人は、気分転換に一度トライしてみましょう」(中野さん)
オンラインマラソンは、GPSと連携する機器とアプリを活用。1回または複数回での累積走行距離で、フルまたはハーフなどの決まった距離をクリアする仕組みだ。
参加費は、リアル大会の半額程度。参加メダルや完走Tシャツといった記念品も貰える。オンラインなら、途中で辛くなってリタイアしても、日を改めてまた走り出せばいいから、初心者でも参加のハードルは限りなく低い。
近い将来、日常が戻り、リアルなマラソン大会が安全に開かれるようになったら、オンラインマラソンは廃れることも考えられる。
「私自身はまだ参加した経験はありませんが、コロナ下だからこその新たな体験として、近いうちに一度出てみたいと思っています」(中野さん)
⑧ タイム伸び悩みは新たな自分に出会う好機
伸び代満載の初心者時代は、走れば走るほど、面白いようにマラソンなどのレースタイムが伸びる。だが、いつの日かガラスの天井にぶつかり、タイムが伸び悩む日が来る。
「これはランナーなら誰もがいずれ直面する問題。タイムが永遠に伸びることはあり得ませんから、タイムにこだわらない、ランとの付き合い方を見つける必要が出てきます」(中野さん)
ロードからトレイルへ環境を変える、距離を延ばしてウルトラマラソンへ移行する、スイムとバイクをマスターしてトライアスロンにチャレンジする…。マラソンを完走できる体力があれば、選択肢は広がる。
「私自身、ずっとサブ3を狙っていましたが、スピード練習が好きになれないこともあり、クリアできませんでした。その時期は、好きだったランが嫌いになりそうでしたが、ウルトラマラソンに出てみたらすごく楽しくなり、再びランとポジティブに向き合えるようになりました」(中野さん)
人生は短いのだから、タイムに縛られたランだけを延々と続けるのは、もったいない。ランを出発点に、いろいろなスポーツに挑戦すると自分自身に意外な発見もあり、人生がより豊かになる。違いますか?