“パイロット”が遠隔で操作。
テーブル上のロボットが注文を聞いて、オーダーした飲み物をロボットが届けてくれる…。そう聞くと、いまや珍しくなくなったロボットカフェを想像するけれど、このカフェは、ひと味違う。ロボットを操作して接客を担うのは、遠隔地にいるパイロットと呼ばれる人たちであり、ロボットはいわば分身。そんな〈分身ロボットカフェDAWN ver.β〉は、構想から5年を経て、2021年6月に東京・日本橋に常設実験店を開いた。
パイロットを務めるのは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)や脊髄損傷などによる寝たきりなどで、外出困難な人たち。彼らの自宅や病院とロボットをITでつなぎ、遠隔での勤務と顧客とのつながりを実現する。
ロボットを作り、このカフェを構想したロボットコミュニケーターの吉藤オリィさんは、「身体至上主義からの脱却」を掲げる。
「いまの社会は、仕事も遊びもその場にカラダを運ぶことを前提にしています。でも、コロナ禍で実感したように、テクノロジーを使えばその前提は変えられる。寝たきりの方々だって、分身ロボットを活用すれば、テレワークによる肉体労働さえ可能だと示したいのです」
「孤独の解消」にも有効か。
カラダに障害がなくても、外出が困難になることもある。分身ロボットは、そうした外出困難者の孤独も解消できる、と吉藤さんは語る。
「私自身、小中で3年半の不登校の時期があり、家から出られず、毎日天井だけを眺めながら焦燥感と無力感しかない孤独な日々を過ごした経験があります。以来、孤独の解消をライフワークにしています。
外出できないと出会いや発見が乏しく、社会参加のチャンスも奪われるので、孤独は深まります。スマホでつながれるという意見もありますが、分身役のロボットを操作するとリアルに近い出会いや発見、交流ができるため、孤独の解消に、より有効です」
そしてパイロット役の外出困難者を、吉藤さんは敬意を込めて「寝たきりの先輩」と呼ぶ。
「平均寿命と健康寿命には10歳ほどの差があり、人生の終盤に多くの人は何らかの障害を抱えます。コロナ禍が明けたらどこへ行こう、定年退職したら何をしようといった夢を語りがちですが、それはカラダが自由に動くことが前提。
寝たきりにならない努力は大切ですが、寝たきりになっても社会から孤立せず、“これから何をしよう”と明るく語れる未来が理想です。メガネで近視も老眼も解決するように、分身ロボットのようなコミュニケーターが、社会参加や友達を作る手助けができる未来を、“寝たきりの先輩”と一緒に実証実験を通して模索したいのです」
東京オリ・パラが終わった後、分身ロボットは新たなスポーツの形を作るポテンシャルも秘めている。
「オリ・パラには健常者とカラダが動く障害者が参加しますが、分身ロボットを介して競える種目が考案できたら、動けない障害者も含めた外出困難者が、そうでない人たちと等しく楽しめるスポーツ大会の開催も夢ではないと私は思っています」
分身ロボットのさまざまな可能性を、一度自分の目で確かめてほしい。
INFORMATION
分身ロボットカフェ DAWN ver.β
DAWNは「新たな夜明け」、ver.βは「試行錯誤して変化・成長を続ける」という意味を込めて命名。分身ロボットが活躍するエリアは前日17時までの要予約で約75分の入れ替え制。2,500円でフードorスイーツプレート+1ドリンク付き。