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日本ではあまり知られない世界レベルの選手。「カヌーポロを知ってほしい」木村亮太

日本ではあまり知られていない競技である。しかし、ヨーロッパでは人気を博し、ワールドゲームズの種目としても知られている。そして彼は海外選手にも注目される存在なのだ。(雑誌『ターザン』の人気連載「Here Comes Tarzan」、No.816〈2021年8月5日発売号〉より全文掲載)

19世紀ヨーロッパで生まれた“水上の格闘技”。

コートの片端に1チーム、もう一方に1チームが陣取っている。試合はコートの中央に審判がボールを投げ込むことで始まる。両端にいた選手は、カヌーで飛び出して、持てる力でパドルを漕いでボールへ向かっていく。まずは自分たちがボールをキープするためだ。

その迫力には驚かされる。正反対から走ってきた2艇のカヌーが、ボールを奪うために激突、正面衝突ということもある。カヌーの舳先は、ときには相手に真正面から当たるときもあり、肋骨が折れることもあるらしい。

カヌーポロ・木村亮太

カヌーポロは19世紀のヨーロッパで生まれ、現地では多くの人が川や湖でレジャーとして楽しんでいる。水上の格闘技とも呼ばれていて、実際に見てみれば、この競技の激しさや、面白さは一目瞭然である。読んで字のごとく、カヌーに乗って行うポロのような競技なのだが、ルールは以下に記した。

これで、凄さはわかってもらえるだろうか。ただ、日本ではあまり知られていないのが実情。そんな中で海外からも注目されるのが、この木村亮太なのだ。

カヌーポロ

水上のコートは縦約35m、横約23m。水上2mに縦1m、横1.5mのゴールが設置される。1チーム8人で、コートに入れるのは5人。選手交代は自由にできる。審判がコート中央にボールを投げ込み、それを奪い合うことからプレイが始まる。

試合時間は10分ハーフの20分。ハーフタイムは3分。相手ゴールにボールを入れれば1点。相手のカラダやユニフォーム、艇や相手を捕まえる行為、パドルで相手を叩いたり、横から相手の艇にぶつかるのは反則。

それ以外、ボールを持つ相手を押したり、体当たりして倒したり、斜めから敵同士がぶつかるのはOK。この激しさ、水上の格闘技と言われる所以である。

直近の世界ランキングを見ると、日本は16位である。ところが、木村は世界大会で得点王に3回も輝いている。たとえば2018年の大会では、彼は43点を奪っており、2位のイタリア選手は26点。1.5倍以上の点数を稼ぎ出しているのだ。

これで、注目されないわけがない。日本の5番(木村のナンバー)はとくに注意しろというのが、多くの選手が口にする言葉なのである。木村も、「イギリスの選手に、お前のプレイは好きだと言われたこともありました。世界中に友達やライバルがいるのは本当に楽しいんですよ」と言う。

カヌーポロ・木村亮太
木村亮太(きむら・りょうた)/168cm、72kg。2009年、U-21日本代表としてアジア選手権優勝、13年にフル代表となり、15年と19年のアジア選手権を制す。18年に開催されたアジア競技大会で優勝。日本選手権では6度の優勝を飾って、3度の最優秀選手賞を獲得。世界大会では3度の得点王に輝く。佐倉インヴァースカヌーポロチーム所属。

はっきり言って、カヌーポロという競技において、木村亮太は世界のトップ選手の一人なのだ。それは、練習を見ているだけでもわかる。この競技は、水面の2m上方にあるゴールに、ボールを投げ込むことで得点となるのだが、多くの選手のシュートは、敵のパドルによって叩き落とされてしまう。

ところが、木村のシュートだけは、その防御を潜り抜け、まるで手品のようにゴールへと吸い込まれていくのだ。だが、この手品は簡単に習得したものではない。幼少のころにカヌーポロと出合い、一心に打ち込み続けてきた彼だからこそできる、究極の技なのである。

水球で覚えたことが、カヌーポロに活きた。

千葉県君津市にある25mの温水プールで、水泳とカヌーポロを始めたのが7歳のとき。練習していくうちに自由にカヌーを操れるようになっていった。それが楽しかった。

カヌーポロには狭いプールなんです。だから、仲間と入るとイッパイで、それが逆に技術向上に繫がったのかもしれません。それと、温水なので冬でも練習できましたから

練習中の木村を見ていると、カヌーをまるでカラダの一部のように動かす。前進、細かいターン、そしてバックまで。さまざまなテクニックの素地は小、中学校のカヌー漬けの日々で身につけたのであろう。そして、彼が面白いのは高校では水球にも取り組むようになったことである。

カヌーポロと水球は使うボールが一緒だったんです。だから、ボールの扱い方も上手くなれるだろうし、スイミングもずっとやっていたんで、できるんじゃないかと思った。自分は競技者としてはカラダが大きくない。だから、みんなと同じことをしていてもダメなんです。

ゲームの中で、いかに自分が有利な状況を作れるかが肝心になる。だから、他の人が想像できないことを考えてやっていくというのは、子供のころから当たり前に身についていましたね

カヌーポロ・木村亮太

他の競技のいい部分を、自分の競技に取り入れるという発想はある。だが、多くの場合はいいところを限定的に吸収することで終わる。当たり前だが、2種目に全力で取り組むことは難しいからだ。

だが、木村はその道を選んだ。そして、すごいのは水球の千葉県選抜のキャプテンにまでなったことだ。ただ、彼の目的は、あくまでボールの扱い方だった。

水球はずっと泳いでいるので、片手でしかボールを扱えない。カヌーポロだけをやっている選手だと、ボールは両手で取りにいくんです。すると取ってから、投げるまでに時間がかかる。片手に持ち替えなければならないからです。なるべくすばやくボールを動かせたほうがいいので、水球をやったのはよかったんです

カヌーポロのほうも実力が上がり、高校2年生で早くもU―21の代表に選ばれる。そして、駿河台大学に進学。カヌー部が強いことで知られ、スラロームとポロの2種目で活動を行っている。東京オリンピック・スラローム代表の矢澤亜季と木村は同級生。本当に全国の精鋭たちが集まってくるのである。

といっても、競技人口が少ないのでポロのほうの部員は入部当初5人しかいませんでした。ただ、練習環境は最高でサポートもしていただいたから、十分練習できました。今の僕のチーム(佐倉インヴァースカヌーポロチーム)でも、駿河台大学のメンバーが多いんです

カヌーポロ・木村亮太

大学には日本代表など錚々たる顔ぶれの選手がいた。だが、木村は戸惑いもなく、部活に順応していく。彼らとのレベルの差を感じる部分もそれほどなかった。ただ、ひとつ。尊敬する先輩が語った言葉だけは、今も木村の胸に響いている。

その先輩は“圧倒的に強くなりたい”と、言っていたんです。どんな競技でも、技術のファウルみたいなのがあるじゃないですか。サッカーで、審判の見えない部分で服を引っ張るとか。カヌーポロでも、そういうのはあるんです。パドルをわざと絡めてきたりとか。実際、ヨーロッパの大会とかでもよくやられるんですよ。

だけど、先輩はまったくクリーンに戦って、圧倒的な強さを発揮できるようにしたいと言う。一番の実力があった先輩だったので、まわりの選手は自分たちもそういうこと(反則)はできないと思ったし、実際に今のクラブチームでも、クリーンなプレイをするようにしています。まあ、当たり前の話なんですけど

週4回のウェイトトレ、土日は練習が5時間。

さて現在、木村はどのような生活を送っているのか。そう尋ねると「僕ほどカヌーポロに時間を費やしている人はいないです」と、笑う。

週に4日間、ジムに行ってトレーニングをしています。上半身を鍛えるのが目的です。懸垂やベンチプレス、それにケーブルを使った何種類かのメニュー。強度はその日によって、低負荷高回数だったり逆だったり。

あとは、週2日の水泳。筋トレをすると、肩まわりが硬くなるので、柔軟性を上げるためです。クロールで3000mぐらいですね。さらに週4日整体に通って、土日はカヌーポロの練習が4時間ずつです

ここまで競技と向き合う木村は、カヌーポロが日本でメジャーになることを心底願っている。だが、それが相当に難しいということは、ある体験を通して理解もしている。

2005年のワールドゲームズで女子チームが3位。18年にはアジア競技大会で僕ら男子チームが優勝したのですが、まったく盛り上がらなかった。同じ大会で金メダルを獲って、一躍人気が出たeスポーツとは大違いです。このままではマズイということで、昨年からSNSでカヌーポロについて発信しているんです。

そのおかげか、少しずつですけどメディアに取り上げてもらっています。次の世界大会は来年、フランスで開催される予定。どうにか順位を上げて、少しでも多くの人に知ってもらうようにがんばりたいです

さらに木村はこう続けた。

とにかく僕としては、この競技を見てもらいたい。19年に江戸川区の新左近川親水公園に専用のカヌーポロ場ができて、毎週土日の午前中に練習しています。近所の散歩コースだから、あの辺りの人はカヌーポロを見て楽しんでくれたりする。

それだけでもやりがいにもなるんですが、みなさんにも一度でいいから来てほしい。日本代表の選手たちが、日本最高のプレイを見せていますよ

取材・文/鈴木一朗 撮影/藤尾真琴

初出『Tarzan』No.816・2021年8月5日発売

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