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自由に走る視覚障害の選手たち。ブラサカで「本当に見えてないの?」を体感せよ!

フィールドプレイヤーが完全に視覚を遮断した状態で行われる「ブラインドサッカー」。東京パラリンピックに向けて、その日本チームが急成長している。「え、本当に見えてないの?」というスーパープレーと、日本の2つの武器である「守備システム」「攻撃システム」に注目だ。

パラリンピックのサッカーは5人制。4人の視覚障害フィールドプレーヤーと、目が見えるゴールキーパーの5人で戦う。通称ブラインドサッカー、「ブラサカ」と呼ばれている。

特有のルールとテクニック。

4人のフィールドプレーヤーは、全員アイマスクを着用し視覚を完全に遮断した状態でプレーする。転がすとシャカシャカと音がするボールを使い、守備側のゴールキーパーと、相手ゴール裏に待機するガイド、ベンチの監督の3人が状況やボールの位置などを声で指示。ボールの音、声による指示によって、4人は自由にピッチを動き回ってプレーする。

ブラインドサッカー

見えない4人同士がピッチ上で対戦するため、ブラサカには特有のルールがある。ボールを保持する選手に近づく際には「ボイ!」と声を出さなくてはいけない。「ボイ」はスペイン語で「行く」という意味。オラオラ、近づくぞ、近づくぞ、と相手チームに自分の存在を知らせなければ、反則となる。

また、ピッチ両サイドには高さ約1mのフェンスが設置されている。フェンスがあることでボールがサイドラインを割ることなくプレーが続行し、選手選手や自分の位置、向きなどを把握することができる。フェンスにボールをぶつけて、その跳ね返りを利用したパスは、ブラサカならではのテクニックでもある。

ブラサカは、2004年アテネパラリンピックから正式競技となった。アテネから2016年のリオパラリンピックまで、ブラジルが怒涛の4連覇を達成している。ブラジル、アルゼンチン、スペインなど、ブラサカ強豪の勢力図は、一般のサッカー同様だ。

ブラインドサッカー

残念ながら、日本代表はこれまで一度もパラリンピック出場が果たせていない。にもかかわらず、日本でのブラサカ人気は高い。そして、東京パラリンピックに向けて、日本チームが急成長している。その背景にあるのが、「え、本当に見えてないの?」というスーパープレーなのだ。

あっという間のダイヤモンド陣形。

日本チームの武器は、鉄壁の守備と抜群の連携。それを象徴するのが、1−2−1ダイヤモンド陣形の守備システムと、ゴールキーパーへのバックパスから生まれる攻撃システムだ。

まずは、ダイヤモンド陣形の守備システムについて。

アイマスクを着用した選手たちはピッチを自由に動き回っているが、相手にボールを取られると、あっという間に自陣に戻り、ダイヤモンドを形成する。割って入ってこようと目論む相手選手に、切り込ませるスキを与えない。

ブラインドサッカー
青のユニフォームが日本。ダイヤモンドのトップは11番FWの黒田智成、サイドを固めるのは、日本の10番主将の川村怜と3番佐々木ロベルト泉。佐々木は、ブラジル出身の日本人で幼い頃からブラジル仕込みのサッカーを経験している。奥で守っているのが7番田中章仁。さらにその奥、イエローのユニフォームがGK佐藤大介。

2016年以降就任した高田敏志監督は、このコンパクトな守備を徹底してきた。

「ボールを保持する相手チームの選手の走行速度が時速20kmを超え、守備の選手との距離が3m以上離れてしまうと、突破のチャンスを与えてしまう。それを阻止するのが、この守備です」

合宿では、守備の選手同士を3mの長さのチューブでつなぎ、3m以上離れるとカラダが引っ張られて距離(スペース)ができることを体感するトレーニングを行ってきた。チューブを巻いたまま全力疾走し、ボールが左に移動すれば、3人(または4人)揃って左に動くというように、前後左右走りながらスライドさせる。このトレーニングによって、ボールを保持する選手や味方との距離感を、カラダに覚え込ませた。

試合中、相手陣営に走り込んでいても、ひとたび敵にボールを奪われると、4人はダッシュで自陣に戻りダイヤモンドを形成して、ボール保持するプレーヤーを取り囲む。攻める、戻る、取り囲む、を繰り返す。

バックパスからの攻撃。

もう一つの、ゴールキーパーへのバックパスによる攻撃のシステムについて。ブラサカのゴールキーパーは、目が見える選手が担う。だから、ピンポイントでフィールドプレーヤーにゴールスローを出せる。

自陣ゴール前でボールを奪ったら、選手はすかさずゴールキーパーにバックパスする。それを受け取ったキーパーが、相手陣営深くのサイドフェンス沿いに走り込んでいるフィールドプレーヤーにロングパスを送る。

相手チームは、ボールが地面を転がるか、サイドフェンスにぶつかって音が出るまで、どこにボールが投げられたかを正確に把握することができない。フォワードは、足元にピンポイントで投げられたボールをトラップすると、速攻を仕掛けていくのだ。

アイマスクを着用しているフィールドプレーヤーにとっては、後ろを振り返ってキーパーの位置を確認する必要がない。ヒールでちょんとキックすると、キーパーの真正面にボールが渡る。走り込んだフォワードは、目が見えているキーパーからのロングスローを、前を向いた状態で受け取ることができる。まさに、効果的な攻撃の起点となるのだ。

ブラサカでは、フィールドプレーヤーはボールを見失わないよう、両足の間にボールを保持したままドリブルする。ロングスローを活用すれば、一気に相手陣営に攻め込める。時間短縮できる効率のいい攻撃が、このシステムで実現するのだ。

強豪国にシステムで立ち向かう。

日本チームの主軸となるのは、主将でFWの川村怜黒田智成、DF佐々木ロベルト泉田中章仁、GKの佐藤大介。見事なバックパスを見せるのは、DF田中で、黒田と川村が両サイドに走る。佐々木はDFの位置からチャンスを狙って相手陣営に切り込む。4人が走り、戻り、ダイヤモンドを形成したかと思えば、バックパスで佐藤にボールを送り、そこからロングスローで攻撃を仕掛けていく。

システムでプレーする日本に対して、パラリンピック4連覇のブラジル、世界ランキング1位のアルゼンチンなどの強豪国は、選手の“個”の力を発揮して、ゴールへと突進する。

音が出ないループパスを蹴り出して、ボールの落下地点へといち早く走りこむ。ループパスによるフェンスからフェンスへのロングパスも成功させる。まさに、3D戦法。何より、ドリブルのスピードが違う。アイマスクを着用して見えていないからこそ、相手の位置や存在を気にすることなく全力で突破してくるパワーがある。

ブラインドサッカー

徹底した連携による日本のシステムが、世界の強力なパワーにどう立ち向かうのか。日本にとって初めてのパラリンピックである東京大会で、その真価が発揮される。

ブラサカの会場では、観客はプレー中の声援禁止というルールがある。選手は音を頼りにプレーしているからだ。ダイヤモンド陣形に驚いても、バックパスに目を見張っても、ボールが動いている間は「おおっ!」と声を出してはいけない。

しかしながら、パラリンピックも無観客試合となったら。テレビの前で、好きなだけ大声を出して観戦しよう。

「ええ? 本当に見えてないのかよ!」と。

東京パラ・ブラサカのココに注目!
  1. 「ボイ!」というかけ声のためにボイストレーニングまでした日本代表の声。
  2. 東京パラリンピックでは、8月29日(日)9時〜、予選リーグキックオフ。日本はフランスと対戦。決勝は9月4日(土)
  3. ブラジル「10番」リカルド・アウベスの個のプレーも見どころ!

取材・文/宮崎恵理 撮影/吉村もと

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