• 進化する国枝慎吾のバックハンド。右肘故障からの復活テクを目撃せよ!
COLUMN
2021.08.17

進化する国枝慎吾のバックハンド。右肘故障からの復活テクを目撃せよ!

国枝慎吾選手

車いすテニス・男子シングルス世界ランキング1位の国枝慎吾選手が、東京パラリンピックに出場する。代名詞とも言える「バックハンド」は決して常勝の技ではなかった。敗北を経てさらに磨きがかかった“進化したバックハンド”に注目だ。

国枝慎吾。その名前を聞けば、「ああ、車いすテニスの…」と誰もが思い浮かべることができるだろう。1984年、東京都生まれの37歳。2021年7月19日(東京オリンピック・パラリピック開催直前)現在、男子シングルス世界ランキング1位の王者である。

国枝慎吾選手
国枝慎吾(くにえだ・しんご)/1984年東京都生まれ。ユニクロ所属。麗澤大学2年の時パラリンピックに初出場(アテネ大会)。斎田悟司とのダブルスで金メダルを獲得。2008年北京パラリンピックシングルで金、12年ロンドン大会で2連覇を達成。2021年7月現在、男子シングルス世界ランキング1位。身長173cm、体重65kg。

東京大会直前の世界王者。

初出場した2004年アテネパラリンピック男子ダブルスで金メダルを獲得。2006年にアジア人初となる世界ランキング1位に輝いた。2007年に世界王者となり、2008年北京パラリンピックではシングルスで金メダル。2009年にプロ活動を宣言し、ユニクロと契約した。

2012年ロンドンパラリンピックで2連覇を達成。グランドスラムでのシングルス優勝回数は28勝! 年間グランドスラムは5回! …偉業を並べていると、紙幅がいくらあっても足りない。

男子テニス界でATP世界ランキング1位に君臨する34歳のノバク・ジョコビッチ(セルビア)は、年末最終ランキング1位を2020年までに過去6度達成している。国枝はというと、2020年まで達成9度だ。

国枝慎吾選手
東京オリンピック・パラリンピック会場となる有明テニスの森で開催された楽天ジャパン車いすテニスチャンピオンシップス2019での国枝慎吾。自宅にいる時やフライト中には、もっぱらゲームに没頭するのだそう。

ジョコビッチは、車いすに乗って国枝とプレーしたことがある。ジョコビッチをして「車いすテニスの選手たちは、真のヒーローだ。彼らは、自分の障害をアドバンテージに変えてプレーし、我々に勇気を与えているのだから」と、言わしめる。

車いすテニスへの関心は非常に高く、母国でも普及させたいと語っている。それに対して国枝は、「いつでも呼んでほしい。セルビアの車いすテニス発展の力になりたい」と、呼応した。

進化する車いすテニスのバックハンド。

バックハンドのトップスピンは、国枝慎吾の代名詞である。車いすテニスでは、かつてバックハンドのトップスピンは不可能だという定説があった。ラケットを持った手で、車いすのホイールを操作しボールの落下地点へと全力疾走する。

2バウンドまで認められている車いすテニス特有のルールはあっても、正確にパワーのあるバックハンドのトップスピンを実現することはできないと思われていたのだ。

それをひっくり返したのが、国枝だった。

北京パラリンピックに向かう4年間、3万球を超えるドリル練習を重ねて、トップスピンをマスター。北京大会の決勝戦、バックハンドのトップスピンによるダウンザライン(サイドラインギリギリに叩きつける)が勝負を決した。続く、ロンドンパラリンピックで2連覇を達成した原動力にもなっている。

国枝慎吾選手

そんな国枝にとって、2016年は敗北のシーズンだった。1月に行われた全豪オープンで、国枝はイギリスの若手選手相手に1回戦敗退。2012年ロンドンパラリンピック前に手術した右肘の故障が、再び悲鳴を上げていた。4月に再手術を受けたものの、9月に開催されたリオパラリンピックでは、シングルスで準々決勝敗退を喫した。

勝ったことではなく、負けたことがニュースになる。それが、国枝だ

国枝の背中を追ってきたイギリスの若手選手たちは、車いすに乗った状態で、高い位置から鋭い弾道で放つ、新しいバックハンドを身につけていた。

一般のテニスで繰り広げられていたテクニックを、若い選手たちは、かつて国枝がトップスピンをマスターしたように体得した。2016年、リオパラリンピックで国枝が敗北した背景には、国枝の右肘故障だけでなく、世界の車いすテニスの進化もあったのだ。

バックハンドからのフォアが売り!

リオパラリンピックでの屈辱の後、長い休暇を経て国枝が取り組んだのは、新しいバックハンドだ。グリップを変えて、回転量の多いトップスピンからフラット系のショットへとフォームを改造。対戦相手に時間を与えない攻撃力を身につけた。

野球選手がピッチングフォームを変えるように、国枝は己のテクニックを一度解体し、グリップからテイクバック、フォロースルーに至るまで、再構築に臨んだのだった。

そうして、王者は復活する。2018年1月、全豪オープン1回戦で、2年前に1回戦で敗れたイギリス人選手を相手に6−1、6−3で圧勝。その勢いのままに優勝し、2018年の世界王者に返り咲いた。

バックハンドは今でも国枝の武器ではあるが、本人は、「バックハンドからのフォアハンドこそ、自分の1番の売り!」と言い切る。バックハンドで鋭くクロスのコースに打ち込み、コート外側に追い出されながら返球してきた相手のショットを、フォアで叩く。

国枝慎吾選手

一方、ダウンザラインも、国枝を象徴するウイナーとして健在だ。

帰ってきた国枝が、東京パラリンピック・有明テニスの森で、バックハンドからのフォアハンドを炸裂させる。低く、ドスのきいた国枝の雄叫びが、センターコートに響き渡る。

国枝慎吾のスーパーショットを、見逃すな!

東京パラ・車いすテニスのココに注目!
  1. 国枝の進化したバックハンド!
  2. 東京パラリンピックの車いすテニスは8月27日(金)〜9月4日(土)。男子シングルス決勝は、9月4日。
  3. 世界の選手が使うユニークな車いす!

取材・文/宮崎恵理 撮影/吉村もと

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