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コロナとインフルエンザの防護策を知る|②医療福祉マネジメントの観点から

高橋泰(たかはし・たい)/1959年生まれ。国際医療福祉大学赤坂心理・医療福祉マネジメント学部学部長・教授。医学博士。金沢大学医学部卒。東大病院研修医、同大学院医学系研究科修了。国際医療福祉大学教授を経て2018年現職に。

3人の専門家に聞いたコロナ&インフルエンザの最新状況。前回の宮坂昌之先生(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授)による「免疫学」の観点からの解説に引き続き、今回は、医学博士の高橋泰先生に「医療福祉マネジメント」の観点から教えてもらう。


高橋先生の見解まとめ

  1. 日本人の約98%は、新型コロナは無症状か軽症で済む
  2. 日本人全員が新型コロナウイルスに暴露すると死者は最大約3,800人
  3. 新型コロナは血管疾患でもあり、高齢者や高血圧の人は重症化しやすい
  4. 規制・自粛によるデメリットを踏まえて、開かれた社会へ戻すことも考えるべき

日本人の被害が少ない理由は大きく3つある。

── 7月17日に『東洋経済オンライン』が掲載した高橋先生の「新型コロナ7段階モデル」が、ネット上で話題になりました。新型コロナに暴露した人の98%が自然免疫の対処でほぼ無症状で終わるという、このモデルの成り立ちを教えてください。

7月中旬は第2波がまだピークアウトしておらず、『Go Toキャンペーン』などで感染が広がると最悪10万人が死ぬという予測を立てる専門家もいました。

しかしそれは、新型コロナをインフルエンザと同じように解釈したために生じた誤りだと私は考えました。

7段階モデルを最初に披露したのは6月21日の専門誌『社会保険旬報』ですが、誤った解釈で不安が広がらないように、改めてネットで公表したのです。私のモデルによると、日本国民全員が新型コロナに暴露したとしても、死亡者は3,800人前後に留まります。

── 新型コロナとインフルエンザは、どのように違うのですか?

インフルエンザは、ウイルス自体の毒性が強く、感染すると全員が高熱などの明らかな症状が出て発症します。すぐに獲得免疫が立ち上がり、抗体で対抗するため1週間から10日で大半は治ります。抗体検査では、ほぼ全員が陽性になります。

新型コロナは、ウイルスの毒性が弱く、抗体を作るほどの強敵ではないため、大半は自然免疫で処理できます。

この段階では無症状か、風邪のような症状であり、新型コロナに感染している自覚がない人もいます。ウイルスは体内にいるので、PCR検査を行えば“陽性”ですが、抗体はできないので抗体検査では“陰性”です。新型コロナは毒性と感染力は低いので、その弱点を補うために暴露力が高いのが特徴なのです。

── 感染と暴露の違いとは?

暴露”とは、体内にウイルスが入り込むこと。入り込んだウイルスが、上気道(鼻から咽頭まで)などの細胞の表面にあるACE2受容体に結合するのが“感染”です。

新型コロナウイルスの大きさをゴルフボールとするなら、細胞は遥か先にある直径6〜7mのグリーンのようなもの。そこにACE2受容体というカップが開いています。そこへホールインワンさせるために、新型コロナは“下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる”でボールを大量に打つ、つまり大量暴露の必要がある。感染したら細胞内でウイルスは増殖しますが、インフルエンザと比べて新型コロナの増殖力は弱く、伝染力はインフルの約100分の1です。

── なるほど。改めて7段階モデルの解説をお願いします。

ステージ0は新型コロナに暴露されない段階で、ステージ1はウイルスに暴露されても細胞と結合せず、感染が成立しない状況。

ステージ2では感染が成立して細胞内で増殖したウイルスが外に出て、自然免疫が発動します。自然免疫の前線で戦うマクロファージが、司令本部のリンパ節に“自然免疫だけで処理できるので抗体の出動は不要”との情報を送ります。日本人の98%はこの段階までで終わり、ほぼ無症状か上気道に風邪のような症状が起こります。

新型コロナ7段階モデルver2
新型コロナ7段階モデルver2:98%はステージ2まで。重症化を招くサイトカイン・ストームが起こるのはステージ5以降。PCR検査はステージ1までが陰性で、以後は陽性に。抗体検査はステージ2までが陰性、以後は陽性となる。
出典/『新型コロナ7段階モデルver2について』(高橋泰)

新型コロナは生体から攻撃されないように、静かに目立たないように増えます。そうやって自然免疫をすり抜けたウイルスが増殖したのが、ステージ3です。マクロファージがリンパ節に獲得免疫の出動を依頼し、リンパ節からサイトカインが指令を伝えて抗体が合成されます。この抗体でウイルスは殲滅されますが、サイトカインにより発熱や倦怠感、血液の凝固異常などの症状が出ます。

ステージ3までは戦場はほぼ上気道に限られますが、ステージ4では生き残ったウイルスがカラダ全体に拡散し、症状軽めの肺炎、嗅覚・味覚障害などが表れます。これらは新型コロナが血管の内皮細胞に取り込まれる際、血管を傷つけて生じます。傷ついた血管を治すために血小板が集まり、血の固まりである血栓ができると症状が出るのです。ステージ2から4へ至ることもあります。

ステージ5では新型コロナ対応に不慣れなリンパ節の司令部が、過剰なサイトカインを分泌し、重篤化します。余剰なサイトカインで血液の凝固系が異常に活性化し、サイトカイン・ストームにより全身で微小血栓が発生し、ステージ6の死に至ることもあります。血液を凝固させる血小板が血栓で浪費されると、末期がんのように全身で出血傾向が強まり、多臓器不全が起こるのです。

── 日本人の死亡率は10万人に約1人。欧米諸国の50分の1以下です。理由はどこにあるとお考えですか?

要因は3つあると思います。第1に重症化しやすい高齢者の隔離がしっかりできていること。第2にBCGなどの要因で日本人の自然免疫が高いこと。第3に、重症化の引き金となる血液凝固系が欧米人と比べて弱く、血栓ができにくいことです。

── 60歳以上が重篤化しやすく、死亡率が増えるのはなぜですか?

新型コロナには血管疾患としての側面もあります。新型コロナが血管を傷つけると、血栓ができます。加齢で血管は弱くなるので、60歳以上は重症化しやすいのでしょう。

逆に子どもの感染例が少ないのは、感染の足がかりとなるACE2受容体が少ないため。この受容体は高血圧を緩和する働きがあり、高血圧が少ない若年層では発現しにくいのです。

新型コロナで初期に血栓が発生する仕組み
新型コロナで初期に血栓が発生する仕組み。/6月以降、新型コロナ感染症の後遺症の報告が相次いだ。初期に起こる味覚・嗅覚障害などの軽度から中度の後遺症の多くは血栓に由来する。ウイルスが血管内皮細胞を傷つけると、血管を修復するために血小板が集まり、凝固系が活性化して血栓が生じる。
出典/『新型コロナ7段階モデルver2について』(高橋泰)

規制や自粛によるデメリットは大きい。

── 今後のウィズコロナ時代の課題はどこにあるとお考えですか?

コロナは感染しても人にうつすようになることが少ない感染症です。無症状の感染者がハイリスクの高齢者にうつすリスクはありますが、もっと規制を緩めて社会を開いていいと私は思っています。

自由に飲食できないし、学校の対面授業もできないし、お祭りだって開けない…。そんな状況を続けるのは困難です。現在、新型コロナで1日平均6人亡くなっています。規制を緩めると死亡率が3倍になり、最大1日18人まで増えることも考えられます。

── 医療崩壊が心配です。

急性期の入院治療を要する人向けの急性期病床は全国約90万床。その20%の18万床の空きがあります。コロナ感染ピーク時に埋まったのは、うち1万8,000床。患者が集中する地域は大変ですが、日本全体で見ると規制の緩和で医療崩壊が即座に起こる状況ではありません。

── 死亡者が3倍になる状況を社会は受け入れられるのでしょうか。

自粛でがん検診受診者が減ったり、治療が遅れたりすると、がんで死ぬ人が増える恐れがある。景気が冷え込むと自殺が増えることも考えられます。コロナだけに囚われず、社会全体の被害を最小化するには何が有効かを議論すべきだと思います。

取材・文/井上健二 イラストレーション/阿部伸二

初出『Tarzan』No.799・2020年11月5日発売

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