水虫とはいうものの、これは寄生虫による感染症ではない。犯人は白癬菌(はくせんきん)と呼ばれる10種類ほどのカビ(真菌)。細かくなって恐縮だが、症例のほとんどはこの10種類のうち、トリコフィトン・ルブルムとトリコフィトン・メンタグロファイティスという菌で占める。
また、2000年代になってからは、格闘技の国際交流試合を通じて上陸したトリコフィトン・トンスランスという新顔が、競技者の頭皮で猛威を振るったのも有名な事実。こういった菌に感染すると白癬という病名をいただくことになる。
水虫の感染経路
白癬菌は環境からもヒト(感染者)からも、動物からも容易に伝播し、感染が広がる。高温多湿の環境を好むので風呂上がりの足拭きマットや温水プールのプールサイドは絶好の温床。不特定多数の客が素足で履く飲食店のスリッパなども怪しい。
むき出しの素肌で外界と接触しやすいのは足だから、白癬では足の水虫=足白癬が最も多く、日本人の10人に1人は感染しているという。足の他には手、爪、カラダ、頭皮など感染場所により俗称は変わるが、医学的にはすべて白癬だ。
白癬は圧倒的に足に発生!
このうち爪に感染する爪白癬は患部に治療薬を届けるのが難しく、手ごわい相手。他の部分の白癬が治っても、居座る菌が爪から供給され続け、足白癬が鳴りを潜める最晩年でも爪白癬は牙をむく。
最晩年まで累計有病率は増え続ける。
どこにでも存在し、10人に1人が持っているありふれた菌なら、それはもう常在菌ではないかというと、そうではない。これはあくまでも病原菌という他者だ。
他者は免疫が排除するはずだが、白癬菌が棲みつくのは皮膚の最外縁、表皮細胞の死んだ後に残るタンパク質、ケラチンでできている角層。ここには神経も血管も通っていないから、免疫も攻撃しにくい。
菌自体ではなく産生する物質がかゆみをもたらす。
また、白癬菌は細胞壁の構成成分としてマンナンを持つ。これにはリンパ球の増殖を抑えたり、マクロファージの貪食抑制作用があるなど、自身を免疫の攻撃から守る仕組みを備えている。まるで忍者のような菌だ。
症状が進み、患部をかきむしり始めると、皮膚を傷つける人が現れる。こうした人は傷口からブドウ球菌や大腸菌など病原菌の侵入を招き、二次感染の危険性も生じる。この二次感染が恐ろしい。高齢者や免疫抑制剤を使っている人、糖尿病の患者などは免疫力が低下しがちだ。
このため広範な皮下組織に炎症の広がる蜂窩織炎や生命の危機に関わる敗血症、壊死性筋膜炎などの重大疾患に発展することがあるからだ。
地道に抗真菌薬を使い医師と二人三脚で治す。
さて、水虫の疑いを抱いた人の多くは、自己判断で市販薬を手にするだろう。だが、金属アレルギーや接触性皮膚炎など、水虫に似た症状の皮膚病は多い。水虫のような症状を訴えて皮膚科を受診する患者の3割ぐらいは水虫“ではない”という。
水虫ではない足に水虫の薬を塗ったら、どうなるか。往々にしてかぶれ、症状が急激に悪化することもある。素人判断で勝手に診断し、薬を使うのは非常に危険な行為だ。まずは皮膚科の受診が第1選択肢。
似た皮膚病が多いということは、医師にとっても診断が難しいということになる。専門医なら患部から採取したサンプルを顕微鏡で確認するだろう。顕微鏡の用意がないような医療機関は避けた方が無難だ。
治療では主に抗真菌剤を処方されるが、患部の炎症が強かったり、びらんなどがあれば、白癬の治療からではなく、ステロイド剤や抗生剤含有軟膏で患部の状態を落ち着かせてからになることもある。
外用薬では爪の奥まで有効成分を届けるのが難しいため、以前は爪白癬の治療は内服薬がメインだったが、いまではよく効く外用薬(エフィナコナゾール)が開発されたので、選択肢が広がった。外用薬なので副作用の心配が少ないのも朗報だ。
外用薬を処方されたら、指示通りに使うことが最も重要だ。1か月で使い切るべき量を処方、提供されたのに、面倒くさがって使ったり使わなかったりで3か月もかけてようやく使い切るようでは根治は難しい。保険適用に期間の制限が伴うこともあるから、長期化すると保険適用から外れてしまう可能性も生じる。
足白癬なら外用薬は症状のある箇所だけでなく、病変周囲に広く使用するべきだし、触れ合う可能性の高い反対側の足も予防的に塗るのが望ましい。
医師任せにせず、患者も当事者意識を持って治療と向き合うべし。