身近で要注意! 「5類感染症」の傾向と対策

一年中、いつだって脅威はすぐそこに。見えない相手の正体を知り、リスク回避を。

取材・文/廣松正浩 イラストレーション/徳永明子 参考文献/『ウイルス・細菌の図鑑』(技術評論社)

初出『Tarzan』No.788・2020年5月28日発売

感染症や食中毒、アレルギーには多発する”シーズン”はあるのか? 国内での感染症の流行状況として最も信頼できる情報源は、感染症法に基づく「感染症発生動向調査」だ。

また、食中毒に関しては食品衛生法に基づく「食中毒統計調査」がある。アレルゲンは鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会がデータを出している。今回はこれらを参考にした。

まるで生物のように温暖な季節にリスクの増すウイルスがいたり、冬場も用心が必要な細菌もいる。一方、花粉は明確にシーズンが存在する。アレルギー患者なら傾向を知っておこう。

1. 身近で要注意なのは「5類感染症」。

染症法は感染症を1~5類に分類する。1類は感染力、致死率とも高く原則的に強制入院だ。2類は1類より危険性が低いが、状況により強制入院を命じられる。3類は食中毒疾患が主で、罹患者は調理業務などに携わることが制限される。4類は動物や物を介し感染するので、感染源となる生物の駆除や物品の搬送を制限されることがある。5類に行動の制限はないが発生動向を国が調査、結果を発表、感染拡大の防止を目指す。

第1〜5類感染症

2. 接触あるところ、感染ありと思うべし。

感染症予防の初手は感染経路を塞ぐこと。下表の通り経路は実に多様だが、基本的に感染源に直接触れることがリスクを高める。空気感染する病原体は長時間空中を漂い、密閉空間では特に感染が広がりやすい。飛沫感染はくしゃみや咳による飛沫で広がる。マスクや、人と人の距離を空けることが有効だ。空気感染する病原体も飛沫感染する病原体も接触感染する。こまめな手洗いが予防に有効だ。

感染経路一覧
他人や媒介者によるのは水平感染。母親由来が垂直感染。胎盤を突破するウイルスもいる。

3. 5類感染症の具体例・用語解説。

インフルエンザ

インフルエンザ

冬季に流行するインフルエンザは、温湿度の低い環境下で大気中を飛散しやすく、高い感染力を発揮する。A型、B型、C型の3種類があるが、C型は大多数の人が子どものころにかかる。成人は主にA型とB型で、A型は呼吸器に症状が強く、B型は消化器に表れるが、A型よりは軽症が多い。飛沫感染、接触感染し、人から人へ広がる。

マイコプラズマ肺炎

感染のピークは7~8歳だが、近年は高齢者にも多い。2011~12年にかけての流行では耐性菌の割合が高く問題となった。以前は4年周期でオリンピックの年に流行し、オリンピック病と呼ばれたが、近年はその傾向はあまり見られない。細胞壁を持たないため、細胞壁の合成を阻害する抗菌薬が効かない。痰は少ないが、咳が続く。

RSウイルス感染症

例年は温湿度の低い冬場に流行る。近年は秋ごろに多いが、その原因は不明。呼吸器を通じて感染し、母乳由来の抗体では感染を防げない。1歳前後の感染が多く、3歳までにほぼ全員が罹患して抗体を得る。ただし、この抗体は必ずしも持続せず、繰り返し罹患する人がいる。乳幼児だけでなく、成人も感染することがあり、要注意!

プール熱(咽頭結膜熱)

プール熱

俗称が表すように、夏場プールの水やタオル、水着などを介し、アデノウイルスが感染して起こることが多い。発熱、喉の痛み、目の発赤が多く見られるが、ウイルスの型の種類が多く、消化器に症状を表して水のような下痢、嘔吐を伴うこともあり、脱水症状に陥る子どももいる。近年は冬季にも流行が起きている。

手足口病

手足口病

手、足と口の中にだけ限定的に水疱状の発疹が現れる。夏季に多く、乳幼児のうち特に2歳以下に多発する。コクサッキーウイルス、エンテロウイルスと2種類のウイルスが原因なのは、これらのウイルスが近縁種だから。起こす症状も同じ。なお、enteroの意味は腸管。下痢、嘔吐を伴う急性胃腸炎になることがある。

ヘルパンギーナ

手足口病と並ぶ典型的な夏カゼ。90%以上の患者が5歳以下で、小児科定点把握疾患として統計が取られている。大人も感染することがあるが、統計調査は行われていない。飛沫感染、接触感染し、発熱したり、口の中に発疹ができ、口の痛みから食欲の落ちる人がいる。非常にまれに無菌性髄膜炎や急性心筋炎などに重篤化することがある。

溶連菌性咽頭炎

溶連菌性咽頭炎

原因菌は上気道の常在菌として通常はごく少量存在している。免疫機能の低下などで異常増殖すると、咽頭炎を引き起こす。合併症にはリウマチ熱や急性糸球体腎炎などがある。A群溶血性レンサ球菌は劇症型感染症を起こすことがある。劇症型は通称”人食いバクテリア”。急激な経過で死に至る恐ろしい感染症だ。

感染症胃腸炎

経口感染による消化器感染症で下痢や嘔吐を伴う。小児科で診断されると5類感染症として統計調査される。いわゆる「お腹に来るカゼ」。原因はノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなど。ノロウイルスは冬季に流行するが、アデノウイルスには季節性がない。ロタウイルスによるものはロタウイルス性胃腸炎として別項目で扱う。

ロタウイルス性胃腸炎

ロタウイルス性胃腸炎

ウイルス性の胃腸炎は冬場に多く、ノロウイルスのピークが終わると、それに続くようにしてロタウイルスのピークとなる傾向がある。感染力が非常に強く、ほぼ全員が5歳までに一度は感染するとされるが、種類が多いため、完治後も感染を繰り返す人もいる。下痢、嘔吐、発熱、腹痛などの症状が表れる。


季節によって感染症の顔ぶれは変わる。

インフルエンザが冬季に出現するのは、シベリアから避寒にやって来る渡り鳥が運んでくるため。ウイルスは湿度が低い方が大気中を飛散しやすいことともあいまって、毎冬の流行をもたらす。

年間を通じて存在するウイルス、病原菌は環境と人の活動と密接に関わる。夏季に多い夏カゼのうち、アデノウイルスはプール熱の原因となる。同時期に子どもに流行る手足口病やヘルパンギーナは成人がかかると重症化することがあるので、注意が必要だ。