どうも頑張りがきかない…。それ、噂の「副腎疲労」かも?
腎臓の上にある小さな臓器、副腎。ここで作られるホルモンがあなたの回復力を左右する! 「副腎疲労」の原因と、対策を紹介。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/安ヶ平正哉 取材協力/上符正志(銀座上符メディカルクリニック院長)
(初出『Tarzan』No.774・2019年10月10日発売)
「年をとった」と諦めるのは早すぎる。
以前はまあまあ耐えられた徹夜ができなくなった。ちょっと増えても簡単に落とせていた体重のリカバリーが難しくなった。一晩眠ればリフレッシュできていたのに疲れが全然取れなくなった。
すべて仕方がない。だって歳だもの。昔できたことができなくなるのは加齢の宿命。などと言いながら黄昏れているアラフォー男性諸君、それは諦めがよすぎる。いや実はそれ、単なる言い訳にすぎない。
「老化は自然現象だから抗うことができないと多くの人は思っています。でも、老化には“自然老化”と“病的老化”があります。とくに40歳を過ぎてからガクッと体力が落ちるのは“病的老化”ともいえる現象です」と言うのは予防医学の専門家、上符正志さんだ。
もしかすると病的老化かも?当てはまる項目にチェックを。
- 慢性的に疲れている。
- 眠っても疲れが解消されない。
- 仕事の効率が以前より悪くなった。
- 急かされたり、プレッシャーをかけられると思考が混乱する。
- 緊張すると、胃もたれや胃痛を起こしやすい。
- ここ数年、原因不明の恐怖や不安を抱えている。
- 座ったり横になった姿勢から急に立ち上がると、立ちくらみやめまいがする。
- プレッシャーやストレスを受けたあとは、ぐったりして横になりたくなる。
- 他人に対して以前よりもイライラするようになった。
- 性欲が以前より著しく低下している。
ジェームズ・L・ウィルソン著、本間良子訳、本間龍介監修『医者も知らないアドレナル・ファティーグ』(中央アート出版社)より抜粋
「予防医学の世界では、健康を左右する重要な条件をホルモンと捉えています。臓器の老化の前に細胞の老化があって、細胞の老化のきっかけはホルモン分泌量の低下にある。老化の結果、ホルモンが低下するのではなく、ホルモンの低下が先にあるという考え方です」
体内では100種類以上のホルモンが作られ、それぞれが連携して働き、あらゆる生命活動を促している。たとえば汗をたくさんかいて細胞のミネラル濃度が高くなると、体内の水分をできるだけ出さないよう尿の量を減らす。あるいは血液中の糖が減りすぎてカラダの機能低下を招いたり、逆に増えすぎて血管に負担をかけたりしないよう常に一定レベルを保つ。筋肉に一定以上の負荷をかけると以前よりも太く逞しくなる。こうした働きはすべてホルモンによる作用。
「カラダを家にたとえると、ホルモンは家を作る大工さんに当たります。20代、30代では家が多少壊れても大工さんがたくさんいるので、修復できるし増築も可能です。ところが40代以降になると大工さんの数が減るので、増築どころか修復もままならない。以前できたことができなくなるのは年齢のせいというより、ホルモンの分泌量が減ることによる生理機能の低下と捉えるべきなのです」
上のチェックテストの項目にひとつでも当てはまるという人、ホルモン分泌低下による病的老化に陥っている可能性が大だ。
ストレス過多で陥るホルモン低下と副腎疲労。
病的老化か否かの指標のひとつとなるホルモンの名をDHEAという。青魚に含まれているDHAではなくDHEA、正式名称はデヒドロエピアンドロステロン。
これは腎臓の上にベレー帽のようにちょこんと乗っている副腎という臓器で作られるホルモンで、ストレスに対抗するという大事な役割を果たしている。もうひとつ、ストレスがかかったときに対抗措置として分泌されるホルモンにコルチゾールがある。こちらの製造分泌元もやはり副腎だ。
「DHEAとコルチゾールは常にセットで働きます。ストレスを受けるとカラダはその対処のために副腎からコルチゾールを分泌させて血糖値や血圧を上昇させます。外敵から襲われて戦うか逃げるかというときに必要なエネルギーを確保するためです。
ところがコルチゾールが分泌されるとカラダを傷つける活性酸素が大量に発生します。この活性酸素を打ち消すためにDHEAが分泌され、同時にコルチゾールの正常化にも働きます」
仕事で膨大なノルマをこなすとき、スポーツでシビアに勝敗を競うとき、ディベートで相手を論破しようとするとき、コルチゾールとDHEAはバンバン分泌されている。
精力的に頑張れるレベルならばそれで何も問題はないが、問題は両者がしょっちゅう分泌されることで副腎が疲れ切ってしまうこと。やがてDHEAが枯渇して妙に疲れを感じやすくなり、遂にはコルチゾールも枯渇して文字通りカラダが動かなくなる。こうした状態が「副腎疲労症候群」だ。
「加齢によってDHEAが平均的に減っていくのは仕方がありません。でも、急激に低下するのはコルチゾールの過剰分泌が原因です。DHEAはストレスという火を消す消火器のようなもの。消火器がなくなった状態でストレスの火が燃え続けたら大火事になります。
主な原因は食事の不摂生、アルコールの過剰摂取、タバコ、人間関係のトラブルなど。猛暑によるストレスの影響が出てくる今の時期にも、副腎疲労は起こりやすいと考えられます」
食事の選び方・食べ方、運動で副腎をいたわる。
たとえば食事であれば、血糖値を急上昇させるような食べ物や食べ方が副腎疲労を促す。血糖値が急激に上がると、カラダの中で余分な糖がタンパク質と結びついてキャラメルのような糖化タンパク(AGE)が産生される。
こうした「糖化」は病的な老化を促す原因のひとつ。それだけではなく酸化ストレスが引き起こされやすくなることが分かっている。精製された真っ白なパン、砂糖を大量に使ったスイーツ、早食いなどが糖化を促す原因になるということを理解しておきたい。
「また、副腎疲労が進むと十分な量のコルチゾールが出なくなるので、血糖値を自分で上げることができません。このため甘いものを欲するようになります。甘いものを食べないとイライラして、しょっちゅうチョコレートを口にしている人は要注意。チョコを食べるなら食事の前に。ハイカカオのチョコを5gくらい口にすると、脳が落ち着いて過食を防ぐ効果が期待できます」
主食の選択肢があるなら精製されたものより玄米やライ麦パンなど未精製のものを。さらに、肉、魚、卵などに含まれるコレステロールはDHEAをはじめとするホルモンの原材料。適正量を毎食しっかり口にすることが望ましい。
一方、運動も副腎疲労を予防する有効な手段だという。
「運動した後に分泌される成長ホルモンはコルチゾールを下げる働きがあります。イライラしたときにバッティングセンターなどに行ってひと汗かくと気分がスッキリするのはこのため。また、筋トレなどをすると運動後の筋肉の合成に男性ホルモンが必要になります。DHEAは男性ホルモンの材料になる大もとのホルモン。男性ホルモンがたくさん必要となればDHEAの産生が増えるというメリットも」
さらに、運動負荷は精神的な負荷を軽減させる。というのは、カラダは精神的ストレスより命に関わる肉体的ストレスの回復を優先させるから。運動すればカラダは休息モードになるので、嫌なことがあってもそこそこ眠れる。そうこうするうちにメンタルストレスも徐々に薄れていくというわけ。
精神的な疲労ばかりに向き合うのではなく、運動を取り入れてカラダの疲労回復とともにメンタルヘルスを取り戻すのが得策なのだ。
質のいい睡眠の確保とビタミンCのすすめ。
そして副腎疲労回復の最後の手段は睡眠。
入眠直後、睡眠の深度が深いほど心身の回復に繫がる。というのは、成長ホルモンの分泌は深い睡眠時にピークとなるからだ。睡眠深度は一晩4〜5サイクルで深くなったり浅くなったりを繰り返すが、最も深い睡眠が得られるのが入眠直後。
「最初の睡眠サイクルが睡眠の質の約8割を決定します。睡眠の質が悪いとコルチゾールの分泌量が高いままなので、副腎疲労にも繫がります。眠っている間、夢ばかり見て起床後に疲れが取れないのはこのためです」
睡眠の質を上げるためには部屋を真っ暗にしたり、快適な室温を保って、うたた寝ではなくしっかり寝ることが重要。さらに、寝る前にはビタミンCを摂取することが副腎の疲労回復に繫がるという。
「実は副腎は人体の中で最もビタミンCを消費する臓器です。血中濃度を1としたとき、脳はその20倍、白血球が80倍消費するのに対し、副腎は150倍のビタミンCを消費します。DHEAを作り出すときにビタミンCが必須。だから、カラダの組織が修復される睡眠時にビタミンCはより多く消費されます」
柑橘類などのフルーツでもよし、サプリメントでもよし。眠る前にビタミンCを補給してみてほしい。翌朝はスッキリ起きられるはず。
副腎疲労によるDHEAの分泌低下は40代以降、まるで崖下り。生活習慣次第ではさらに低下して重大な体調不良を引き起こすことも。副腎をいたわり、その年齢でのベストコンディションを目指すべし。