弓矢には、選手の個性や思いが直に宿ります(アーチェリー選手・武藤弘樹)
雑誌『ターザン』の人気連載〈It's My Buddy!〉より。
text: Kai Tokuhara photo: Yuichi Sugita illustration: Shinji Abe
(初出『Tarzan』No.771・2019年8月29日発売)
五輪競技としておなじみのアーチェリー。しかし70m先の的を矢で射抜く、この競技の象徴である“弓”に関しては、そのギア的側面があまり知られていないのが現状だ。そこで、今回は日本のアーチェリー界で今最も将来が期待されている武藤選手に自身の“パートナー”について語ってもらった。
「中央の赤い金属パーツがハンドル、弦を直接掛ける上下の黒いパーツがリム。リムの材質はウッドもありますが、僕はより柔らかく、しなりがいいカーボンタイプを使用しています。
ハンドルから前に突き出しているバーはスタビライザーという名称で、先端につけたウェイトと合わせて矢を放つ際の振動を抑える役割を果たします。そのように多くのパーツを練習や試合のたびに組み立て、弦も弦糸という繊維を束ねながら自分で一本の弦に仕上げるので、同じに見えて実は選手ひとりひとりが全く異なる弓を使っています。
弓を力強く引くための体幹の強さや何事にも動じない精神力はもちろん、いかに自分に合った弓を作り上げられるかも勝敗を分けるポイントですね」
武藤選手は現在、誰よりも長い時間を共に過ごしているこの弓矢で、東京五輪という“的”にしっかり照準を定めている。
「五輪を意識し始めたのは最近のこと。昨年のワールドカップで2度、団体戦のメダルを獲れたことをきっかけにさらに大きな舞台で戦ってみたいという思いが自然と芽生えました。最終的に出場できるのは3人。まずはそこに入るために、“彼ら”と一緒にチャレンジしていきたいですね」