登山と滑空が融合したレース「X-Alps 2019」を見たか
過酷なレースは数あれど、2週間弱で6か国を踏破するレースは類を見ないだろう。「Red Bull X-Alps」。オーストリアはザルツブルクからアルプス山脈を越え、地中海のモナコまで、1,138kmを縦走する。13のターンポイントさえ通り、規定内ならルートは自由。観客と協賛メーカーで各ポイントはお祭り騒ぎだ。
取材・文/木戸智士(本誌) 取材協力/小貝哲夫 イラストレーション/高橋潤
(初出『Tarzan』No.769・2019年7月25日発売)
走って、“飛んで”、ゴールを目指す。
競技の特徴はなんといっても“飛べる”こと。パラグライダーで飛行し、地上に降りては次の飛行ポイントまで自らの足で移動する。通常ゆっくり降下しながら飛ぶパラグライダーだが、ひとたび上昇気流に乗れば高度を確保でき、100kmのロングフライトも不可能じゃない。
巡航速度は時速30〜50kmほど。どんな俊足ランナーも到底及ばない速度だが、パイロットには地形はもちろん、“風を読む”力が求められる。
『X-Alps』のもう一つの魅力は、世界中でレースを観戦できること。支給されたGPS機器と携帯電話で、毎分ごとに各選手の移動経路や状況が大会公式サイトに反映される。
Google Earthと連動した3Dトラッキングで、選手の今を立体的に把握できるのだ。自ら更新するFacebook等のSNSで、選手の個性やドラマを垣間見るのも楽しい。
今年、日本からは2007年大会5位入賞の扇澤郁が、大会最年長の59歳で参加。が、思い通りのコース選びやフライトができず、25位と悔しい結果に。
「60歳になるこの年に出場したい気持ちがありましたが、全然納得いってないです。“最後”と囁かれているけど、まだまだ挑戦したい」
女性は過去最多の2人。ニュージーランドのキンガ・マスタレシュは通過地点7つ目付近で敗退したが、飛びもコース選びも男勝りだった。
「性が私たちの可能性を狭める理由にはならない。妊娠に耐え、生命を授かるくらいタフなんだから!」
優勝はスイスのクリスチャン・マウラー。カラダを鍛え上げ、飛行技術も高めて臨み6連覇を果たした。
「チャンピオンでいつづけるのは簡単じゃないけど、できることは何でもやってます。ランニング、クライミング、パラグライディング、チーム作り、道具選び…。でもやっぱり、肝はパラグライディングだね」