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“スリップインするだけ™”じゃない!《スケッチャーズ スリップ・インズ》快適学。
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世界で活躍するテニスプレーヤー・錦織圭も在籍していた、最高峰のスポーツ教育機関「IMGアカデミー」。そのアジアトップを務める田丸尚稔氏が、アメリカで実際に見た、聞いたスポーツの現場から、日本の未来を変えるヒントを考える。第9回は、プロテニス選手・マリア・シャラポワのツアーに帯同したフィジカルトレーナー、中村豊へのインタビューをお届けする。
フィジカルトレーナーの中村豊をご存じだろうか? 2018年までプロテニス選手のマリア・シャラポワに8年以上にわたりツアー帯同し、身体的な側面から支えた人物と言えば分かりやすいかもしれない。
現在はIMGアカデミーに拠点を置き、フィジカル・コンディショニングの分野でヘッドを務めている。今回は彼の経験から見えてきた、日本人が世界で戦うためのヒントをインタビュー形式でお届けする。
——海外を目指したきっかけは何でしたか?
日本で少年野球をやっていたのですが、坊主頭で練習中は水もろくに飲めず、苦い思い出しかありませんでした。もっと楽しめて自分を確立できるようなスポーツを探していた時に、姉が始めていたこともあってテニスに出会いました。自宅から遠くない場所にいいクラブがあったりして…ハマりましたね、テニスに。
——それはどうして?
大きく違ったのは野球が“教えられる”もので、テニスは自分から“学ぶ”ものだったこと。自由度が大きいというか、自分でラケットを選んで、ガットの硬さを決めて、プレースタイルもさまざまあった。
もう一つ、コーチと交わす話題が(当時、世界のトップで活躍した)ジョン・マッケンローやジミー・コナーズなど、視界が日本ではなく“世界”に開けたのは大きかった。
高校生になって所属した湘南のテニスクラブでは世界で活躍する同年代の日本人選手がいて“日本人が海外に行く”ということが目の前にありました。自分が選手としてそこまでのレベルに達してはいなかったのですが…。
——それでも海外に出た理由は?
今思えば、根拠のない自信があった(笑)。でも、それが大事だったとも思います。もう少し上のレベルで中途半端に海外を経験していたら“どうせ通用しない”と諦めたかもしれません。かえって見えない方がいいこともあるかもしれない。“自分が求める景色”を勝手に作って、想像する。それが原動力になりました。
——成長の余地もあるし、その時点で限界を決める必要もない。
はい。それからテニスの技術だけではなく、外国人とのカラダの違いに興味を持っていました。パワーやスピードはなぜ異なるのか。それを純粋に知りたいという思いもありました。
——渡米してみていかがでした?
大学の前に、当時のハリー・ホップマン・テニスアカデミーに行きました。フィジカルトレーナーやメンタルコーチと接する機会もあって、具体的にスポーツサイエンスの分野を勉強する意欲が生まれたのもこの時期でした。
——アスレチックトレーナーを選ばなかったのはどうしてでしょう? フィジカルトレーニング、いわゆる“筋トレ”の分野は、日本人よりカラダが大きなエキスパートたちが多くいる印象です。
ケアよりもカラダを動かすことが好きだったのもありますし、ストレングスの常識が変わりつつあったのも一つの理由です。パワー系のトレーニングでカラダを大きくして出力を高めるだけではなく、ファンクショナル系、つまりカラダの機能を上げて、パフォーマンスの効率性を求めるようにシフトしている時代だった。
トレーニングもムーヴメント=動きを重視したものが増えていたので、ある種の“日本人の丁寧さ”が、僕が他よりも評価される要因になると思ったのも確かです。
——トレーニングにおいて、米国と日本で違いはありますか?
アメリカの良さは“一つの答え”を求めないことです。つまり日本人が考えそうな“アメリカ流”のようなものがない。基礎的な理論はあるけれど、やり方は個々を尊重します。
さらに言えば、一つの正解を定めるほど、人間のカラダはまだまだ解明されていないと思っています。たとえばマリア・シャラポワとは既存のトレーニングを実施したのではなく、やりながら作り上げていくことも多かった。
さらに、そのメソッドは他の選手に同じようには使えません。カラダの大きさや動きなどが違えばコピー&ペーストはできません。日本と比べると海外の指導者は、より選手ありきで考えます。コーチのメソッドを押し付ける前に、選手を見ないといけない。
——選手の特徴として違いはありますか?
一概には言えませんが、出力が高いのは海外の選手で、細かさのようなものはない。反対に、日本人選手は身体の機能をうまく使うことはできるけど、パワーが弱かったりする。
——そのギャップを埋めることが重要ですね。
ただ“どのくらい違うのか”を日本にいながら実感するのは難しい。錦織圭選手にしても、IMGアカデミーで世界中の選手に囲まれたからこそ、必要なトレーニングを行えたのだと思います。
これはアスリートだけでなく、ビジネスマンでも同じではないですか? やり方もマナーも違うことは分かるけど、海外に出ないと実感を伴って理解はしづらい。
——指導者も選手も海外経験が必要ですね。
日本人の能力は高い。勉強熱心で、丁寧で、器用。さまざまな面で勝負できます。ただ、それを知らないから勇気が出ない。海外に出た指導者として、日本人には戦えるチャンスがあることをまずは気づいてもらうように、その環境を作っていきたいと考えています。
田丸尚稔(たまる・なおとし)
出版社でスポーツ誌等の編集職を経て渡米。フロリダ州立大学教育学部にてスポーツマネジメント修士課程を修了。2015年からスポーツ教育機関、IMGアカデミーのフロリダ現地にてアジア・日本地区代表を務める。
文/田丸尚稔
(初出『Tarzan』No.767・2019年6月27日発売)