顔は燃やすな! ランナーの肌対策12のQ&A
走るのに夢中で、つい忘れがちなスキンケア。日焼け止めで皮膚呼吸が止まって苦しくなるってホント? ほとんどの日焼け止めの塗り方って間違ってる? ランナーの肌にまつわる12のウワサの本当のトコロをお教えします。
取材・文/黒澤祐美 イラストレーション/林田秀一 取材協力/吉木伸子(よしき皮膚科クリニック銀座)
(初出『Tarzan』No.689・2016年2月10日発売)
目次
1. 日焼けすると疲れる気がするのだけど、気のせい?
陽の当たる場所に長時間いたのちに帰宅すると、カラダがずどんと重く感じることがある。これは日焼けそのものが疲労を引き起こしているのではなく、紫外線を浴びることで増える活性酸素が体内で悪さをしているせい。
悪さ、というと語弊があるかもしれない。
活性酸素は本来、カラダの細胞を外部の有害物質から守るために作られているもので、紫外線という名の有害物質からカラダを守ろうとしてくれているのだ。問題は、量の増え過ぎ。威力の強い活性酸素は、自身の細胞をも傷つけ、錆びつかせることがある。その結果、栄養をスムーズに燃やすことができず、エネルギーが十分に作られなくなり、疲労に繫がる。正しい紫外線対策が疲労予防に肝心だ。
2. ランナーズフェイスってどんな顔?
ランナーズフェイス。肌は焼けて乾燥し、頰がこけ、顔の筋肉が垂れ下がったいわゆる“老け顔”のことを、ランニング大国アメリカでは皮肉交じりにこう呼ぶ。長い時間紫外線を浴び続けるランナーの顔は老けて見えやすいというのは日本でもまことしやかに囁かれている噂だけれど、実際どうなんでしょ?
「ランナーズフェイスは医学的な言葉ではないので、明確な定義はありません。ランニングに伴って老ける原因があるとしたら、紫外線によるコラーゲン破壊、上下の振動によるたるみ、活性酸素発生による老化などが考えられます」(吉木先生)
予防には適切な紫外線対策が必須。たるみは、ランニングの選手ほど走り込まない限りは問題ないとか。
3. 日焼け止めで皮膚呼吸が止まって苦しくなるってホント?
これは真っ赤な噓。ご存知肺呼吸の我々人間は、日焼け止めを塗ったからといって呼吸が苦しくなることはまずない。ランナーにおいても、日焼け止めを塗ることでいつもより心拍数が上がったり、走っている最中に呼吸がしにくくなるなんてことはあり得ないのでご安心を。
ただし走り終わったあとも日焼け止めを落とさずにいると、肌が乾燥したり、毛穴が詰まったりと肌トラブルに繫がる危険性はある。
「荒れた肌は紫外線を吸収しやすく、紫外線の影響をダイレクトに受けることになります。日焼け止めに表示されている落とし方できちんと落としましょう」(吉木先生)
4. ほとんどの日焼け止めの塗り方って間違ってるってホント?
SPF50を選んでおけば、間違いないでしょ。ゴワゴワするのが嫌だから、もちろん薄づけで! 多くの人が勘違いしやすい落とし穴がここにある。日焼け止めの強さを表すSPFだが、これは1平方センチメートル当たりに2mgの日焼け止めを塗った時の数値を表している。A4サイズほどの人間の顔の表面積で言えば、500円玉ぐらいの量だ。
薄く塗りたいからと、必要な量の4分の1程度しか使用しない場合は効果が16分の1になり、SPF50だった日焼け止めはなんとSPF4ほどの効果しか発揮しない。しかも、表示通りの効果は2時間おきの塗り直しが必要。効果を期待するならきちんと塗ろう。
5. 白くなる日焼け止めとそうじゃないものの違いって?
日焼け止めには、「紫外線吸収剤」を使用したケミカルタイプと、「紫外線散乱剤」を使用したノンケミカルタイプの2種類がある。ケミカルタイプは、紫外線を肌に吸収して熱エネルギーに変え、発散させるというもの。
つけ心地はサラッとしていて肌に塗ると透明になるのが特徴。しかし、肌の上で化学反応を起こすため刺激が強く、人によっては肌荒れを起こすこともある。
一方ノンケミカルタイプは金属粒子が含まれ、これが肌の上で紫外線を跳ね返す。肌への負担は少ないが、粉っぽく、つっぱる感じがして、白くなりやすい。両方に長所短所があるので好みに合わせて使用してもらいたい。
6. レース中の日焼け止めってどうすればいいの?
前述した通り日焼け止めは2時間おきに塗ることで効果を発揮するが、レース中はあまり現実的ではない。ましてや500円玉ほどの日焼け止めを手に取って、顔中にペタペタ塗るとなるとなおさら。
そんな時はスプレータイプがよい。クリームタイプほどの効果はないが、きちんと汗を拭き取って使えば手軽に予防ができる。女性の場合は走る前にパウダーファンデーションを塗っておくのもオススメ。中の成分が散乱剤と同じ役割をしてくれるのだ。
「日焼け止めは塗ってすぐに走り出すと汗で流れてしまうので、外に出る15分前に塗れば、角層にしっかり浸透します」(吉木先生)
7. 目から日焼けするってホント?
日焼け止めを塗ることができない目は露わにしたまま走りがちだが、実はこれも肌の日焼けに繫がる。というのも、眼球の表面を覆う角膜が紫外線を吸収すると脳が「メラニン色素を作れ」と指令を出し、メラニンが皮膚の中に沈着することで肌の色が濃くなるという現象が起こる。いくら肌に日焼け止めを塗っても、これでは意味がない。顔にフィットしたUV加工のサングラスを着用すれば、90%近く守られるので活用しよう。
目に紫外線を浴び過ぎるとよくないことがもう一つ、白内障などの病気の原因にもなるということ。目が乾燥する、充血する、目が開けられないといった症状がある場合は紫外線を大量に浴びた可能性あり。目の休養とアイシングを。
8. 黒くないサングラスでも効果はあるの?
一般的にサングラスといえば、色つきのものをイメージしがち。でも実は、黒いサングラスが逆効果に繫がる可能性も。
「黒いサングラスの方が紫外線をカットしやすいと思われがちですが、実は違います。目の周囲が暗くなるので瞳孔が開き、紫外線が入りやすくなるのです。紫外線対策として着用するのであれば、黒は黒でもUVカットのレンズが入ったものを。色が薄いレンズであればなおいいです。紫外線は前からだけでなく横からも入るので、スポーツをする人は目を覆うようなサングラスがいいですね。最近はUVカットが施されたコンタクトレンズもあるので、これを使うのも手です」(吉木先生)
9. 日焼け予防に効く食材ってどんなもの?
日焼け予防には、ビタミンCやEなどの抗酸化作用が高い栄養素が効果的だといわれている。ビタミンCを多く含む食材は、赤ピーマン、ゴーヤ、ブロッコリーなど。ビタミンEを多く含む食材は、イクラ、鮎、カボチャなど。
そしてもう一つ忘れちゃいけない食材が、トマトである。トマトはビタミンC、E、βカロテンと3大抗酸化物質を含むだけでなく、もっと強力な抗酸化作用を持つリコピンも豊富。
栄養素は天然の食品から摂取するのが最も効果的だが、ランニング中に限っては、溶かして飲むタイプのサプリメントを給水用ボトルに入れて持ち歩くのもいいだろう。
10. 日焼け後の応急処置法ってどんな方法?
日本人のスキンタイプは大きく3つに分かれる。Ⅰの色白タイプ、Ⅱの色白でも色黒でもない中間タイプ、そしてⅢの色黒タイプ。このなかでⅠの色白タイプに属する人は特に紫外線に弱く、日焼けをすると肌が真っ赤になりやすい。赤くなるのは軽い火傷をしているのと同じ状態なので、すぐに冷やして熱を取ろう。
アイシングの方法は、保冷剤や氷を袋に包んで患部に当てるのが一般的。市販の冷却スプレーを利用するのもいい。一方日焼け後に黒くなるタイプの人は、もともと肌が紫外線に強く、激しい日焼けを起こしにくいが、起こした時は同じくケアを。
11. とりあえず帽子をかぶっておけばいいんでしょ?
もちろん帽子も紫外線予防には必須のアイテムだけど、何でもいいってわけじゃない。女優帽とまではいかずとも、なるべく影が顔を覆うぐらい広いつばのものを選ぶといい。そしてそれを、できるだけ深く被る。頭頂部が露出するサンバイザーも、帽子と効果が変わらないのでこちらもOK。
紫外線は一年のうちで4月〜9月頃がもっとも強く、一日のうちでは午前10時頃〜14時頃が強い。この期間は特に対策を念入りに行おう。また、天気の悪い日は紫外線の量が少ないと勘違いしがちだが、陽が出ていなくても雲を通過してしっかりと降り注いでいるので対策を怠るべからず。
12. 紫外線大国オーストラリアの対策って?
皮膚がんの発症率が世界ーのオーストラリアでは、国全体で紫外線対策に努めている。例えば、気象局が天気予報の一環として紫外線予報を配信している。また、80年代に「サン・スマートプログラム」を提唱した。なかでも子供への指導で「Slip、Slop、Slap、Wrap」というスローガンで、屋外へ出る時は長袖、日焼け止め、帽子、サングラスを身につけるよう指導が進んでいる。
さらに、各州に存在する「対がん基金」でも、紫外線防御のためのガイドライン作成や、紫外線と皮膚がんの関係を紹介するパンフレットの発行など啓蒙活動も盛んだ。海外レースに出る時はぜひ参考にしてほしい。