• メンタルを“気持ちの問題”ではなく“スキル”の一つと考えること|米国スポーツ見聞録 vol.6
COLUMN
2019.03.22

メンタルを“気持ちの問題”ではなく“スキル”の一つと考えること|米国スポーツ見聞録 vol.6

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IMGアカデミーでは、週に1回はメンタル・トレーニングを行う。真剣な目で取り組む生徒たち。

世界で活躍するテニスプレーヤー・錦織圭も在籍していた、最高峰のスポーツ教育機関「IMGアカデミー」。そのアジアトップを務める田丸尚稔氏が、アメリカで実際に見た、聞いたスポーツの現場から、日本の未来を変えるヒントを考える。第6回のテーマは、メンタルトレーニング。

メジャーリーグのメンタル・スキル・コーディネーター

米国では競技問わずメンタル・トレーニングを当然必要なものとして、スポーツのスキルやフィジカル系のトレーニングと同様に行っている場合が多い。

日本でも最近はその重要性が指摘され、取り入れる選手やチームなどもあるが、そこにかける時間は短く、専門的かつ実践的な知見を持ったエキスパートの数も十分とは言い難い状況にある。

ジュニアサッカーのコーチと話した際には「そんなものはいらない」と言い切られたこともあった。「選手のメンタルは気持ちの問題で、根性があれば大丈夫」と言うのだ。

一方で、スポーツ心理学者で現在はメジャーリーグの野球チーム、シカゴ・カブスでメンタル・スキル・コーディネーターを務めるデイヴィッド・ダ・シルヴァはこう話す。

「選手が抱く感情をコントロールするのは難しい。たとえば試合中にミスをして、ネガティブな感情になっている時、ただ気持ちを変えようと思考しても、むしろ余計なプレッシャーになりかねない。

スポーツをやったことがある人なら大概理解できると思いますが、感情に波がある時には、どれだけ競技のテクニックや体力があっても、ミスをしたり実力通りの結果が得られないことがままあります。

さまざまな状況下でも最高のパフォーマンスを引き出すために気持ちを整え、きちんと対応できるよう準備すること。それがメンタル・トレーニングの役割です」

ボールをうまく打ったり、シュートを決めたり、あるいは速く走ったり。スポーツのパフォーマンスを上げるには、競技テクニックを磨き、スピードやパワーなど身体能力を上げる必要性は想像しやすい。しかし、それらを遺憾なく発揮するにはメンタル・トレーニングも同様に大切になるというわけだ。

おざなりになりがちな「心」

考えてみれば、つまり「心・技・体」である。日本でも、とりわけ武道の世界では、その3つが大事であると説かれてきた。しかし、「技」と「体」はそれぞれのトレーニングがあり、時間をかけて練習をするのが一般的であるのに対し、「心」については“根性”や“気持ちの問題”とあやふやで、トレーニングを行うものという意識は低い。

「ゴルフを考えてみてください。18ホールでパー72としましょう。トップレベルの選手であれば、72打前後で回り終えます。つまり、ボールを打つ行為はたったの72回しかありません。

では、試合中にそれ以外は何をしているか。ほとんどが“考えて”います。歩きながら、スタンスを取りながら、風を読みながら考え、気持ちを整えています。

しかしゴルフの練習といえば、打つことばかりに集中していませんか? 試合で使う時間を考慮すれば、メンタル・トレーニングを行う意義がどれだけ大きいか、わかりやすいかもしれません」(デイヴィッド)

IMGアカデミーでメンタル・トレーニングを行うスポーツ心理学者のデイヴィッド・ダ・シルヴァ。
IMGアカデミーでメンタル・トレーニングを行うスポーツ心理学者のデイヴィッド・ダ・シルヴァ。

サーブを失敗したら、「180度、カラダの向きを変えてみる」

メンタルと聞くと、形のない、つまり練習のしようがないと思われるかもしれないが、実践的なトレーニングを見ると、具体的でわかりやすいものが多い。デイヴィッドにさまざまな引き出しの中からアスリート以外でも、あるいは一般的な生活の中でも広く役に立ちそうな方法をいくつか教えてもらった。

「まず、考え方をポジティブにしてください。ネガティブな感情はパフォーマンスを低下させます。たとえばサッカーの試合で負けているとします。残り時間は15分だとして、これを“もう15分しかない”と考えるか、“まだ15分ある”と考えるか。

前者は焦るだけですが、後者なら逆転するためにやることを考え、集中することができます。どちらにしても同じ15分。だったらポジティブに考えてみましょう」

仕事でもミスがあった時、それを単に失敗とネガティブに捉えるか、成長するチャンスとポジティブに捉えるか。その後に大きな違いをもたらすのは間違いないだろう。

「頭の中だけではなく、カラダを使って気持ちを変えることもできます。今度はテニスを例に出してみます。サーブを失敗して失望したとします。その時に、くるっと180度、カラダの向きを変えて見てみましょう。視界が変わると、感情も自然と変わります。生活の中で悩みなどがある場合は、場所を移動したりするだけで気持ちが変わりますよ」

最後に、ルーティーンについて聞いた。

「テニスの試合でよく使われるのは大きなタオルです。単に汗を拭くというだけでなく、ポイントの前に触ったり、あるいはコートチェンジの際に頭をすっぽりと覆うことで“冷静になれる”というルーティーンを“作り出している”選手もたくさんいます。タオルでなくてもかまいません。自分が好きなものや、落ち着ける行動など自身で設定して、ルーティーンを作ってみましょう」

全員が、例に出したメソッドが合うとは限らない。まさに“練習”が必要になる。自分にしっくりくることを見つけ、トレーニングすることで「心」が整えば、「技」と「体」と相まって最高のパフォーマンスを発揮することになるだろう。

田丸尚稔(たまる・なおとし)

出版社でスポーツ誌等の編集職を経て渡米。フロリダ州立大学教育学部にてスポーツマネジメント修士課程を修了。2015年からスポーツ教育機関、IMGアカデミーのフロリダ現地にてアジア・日本地区代表を務める。


文/田丸尚稔
(初出『Tarzan』No.761・2019年3月20日発売)

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