スポーツシーンにおけるあらゆる課題に挑むワイヤレスヘッドホンDENON「AH-C160W」

データだけでは解決できない

靴やメガネなど、カラダにより近い場所で使う製品であればあるほど、ユーザーは装着感に敏感になる。その最たる例がイヤホンだ。

ネット上の投稿レビューはいつも「合う/合わない」「フィットする/痛い」などの話題で喧々囂々。手厳しい意見も少なくないが、それも人間のカラダの形状が一様でないことに起因するものである。

「確かにすべての方に100%合うイヤホンを作ることは困難ですが、可能な限り多くの方にフィットする製品を目指し、多数の人々の耳孔や耳珠の形状を計測したデータベースを構築し、開発に活かしています」と語るのは、この分野で世界的に信頼を得るブランド〈DENON〉の竹野さん。

しかし、この「スポーツのシーンに最適化されたイヤホン」の企画にあたっては、そうしたデータだけでは解決し切れない面もあったと言う。

D&Mホールディングスにてライフスタイルエンジニアリング マネージャーとして、ヘッドホン/イヤホンの設計開発を統括する竹野勝義さん
竹野勝義(たけの・かつよし)/1963年生まれ。D&Mホールディングスにてライフスタイルエンジニアリング マネージャーとして、ヘッドホン/イヤホンの設計開発を統括。

スポーツイヤホンに課せられた問題をどう解決するか

「激しい動きに対応できるよう、“耳輪”の部分に機体を装着する構造を採用しましたが、フック部分のデザインには耳の孔だけでなく外側の形状データが必要です。

そこで補聴器メーカー〈スターキージャパン〉に協力を仰ぎ、開発を進めました。耳輪のカーブや耳の各部と耳孔までの距離などを計測し、3Dプリンターを使って少しずつ弧の大きさや角度を変えた試作を作り、数十人に及ぶフィッティングをして最適な形状を導き出しました」

一般論として、据え置き型スピーカーに比べイヤホンはデザインにおいて自由度が低いが、スポーツシーンにおいてはさらに幅広い動きを想定した装着感に加え、軽量性や防水性も求められる。

その意味で、これほど課題の多い製品も珍しい。その開発の裏側を知れば、ユーザーレビューも「お手柔らかに」と言いたくなるほどだ。

「IPX7という高い防水規格に対応し、また頭部との接触面に“ディンプル”と呼ばれる小さな孔を開け、汗が留まらず流れるよう工夫を施しています。

肌にフィットしていながら、密着による不快感を減らす。軽く柔らかな素材で十分な耐久性を持つ。小さく少ない部品で高い音質を確保する。ある意味で矛盾するこうした問題の解決を目指し、日々、研究を重ねています」

問い合わせ

デノン・マランツ・D&Mインポート tel. 0570-666-112

※情報は全て掲載当時のものです。


取材・文/井出幸亮 撮影/阿部 健
(初出『Tarzan』No.761・2019年3月20日発売)