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山を走る上で、大切なこと。
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立位であれ座位であれ、ずっと同じ姿勢を続けるのは人間にとって苦しい。だから椅子に座っていても、座面の位置を変えたり足を上げ下げしたりしてカラダを動かすわけで、自然に重心が動くロッキングチェアみたいな椅子ならいいが、パソコン操作や会議には不向きだ。
もっとこう、自然な動きを促すような、仕事の場に合うシンプルな椅子はないか……と思っていたら、あった。
〈ヴィトラ〉の《Tip Ton》チェアは、脚部の先端に傾斜が施され、座ると前傾する形状の椅子。
デザインを担当した〈バーバー&オズガビー〉によれば、開発のきっかけは、公的機関から学校で使用する椅子のデザインの依頼を受けたことだったとか。
「私たちはリサーチの過程で、学校で使われる椅子のデザインが長年まったく進化していないことに気づきました。教壇に向かう先生の講義を、生徒がただ静かに聴くという受動的な学習方法に合わせたものでなく、生徒が能動的に活動するための三次元的な動きが必要だと考えたのです。
そこで、〈ヴィトラ〉が携わっていたスイス連邦工科大学の研究プロジェクトの成果を応用することにしました。
それは、前方に傾斜する座り方が、背中や頸椎にかかる体重を分散し、体中の血液の循環を促す効果をもたらすというものです。カラダへの負担が軽減されるだけでなく、集中力や能率も高まるであろうと考えました」
とはいえ、公共施設には複雑なメカニズムを持つオフィスチェアを大量に置けない。堅牢性と軽量性があり、スペースを取らず、大量生産もできる——そんな難題をクリアするため、「構造と素材を変え50点以上の試作品を作り、軽量でスタッキング可能な、プラスチック製の現在の形へと辿り着きました」。
実際に座ってみると、9度の絶妙な傾斜により、カラダの動きに合わせて重心が常に変化する感覚が実に心地よい。座りながらカラダを活性化させる。
それは明らかに思考や発想に影響を及ぼすだろう。一度、全員でこの椅子に座って会議してみたい。
※製品情報は全て掲載当時のものです。
取材・文/井出幸亮 撮影/阿部 健
(初出『Tarzan』No.759・2019年2月21日発売)