太っているのは胎児の頃に原因がある!? 肥満に影響する“胎児期プログラミング”とは
取材・文/井上健二 イラストレーション/しりあがり寿 取材協力/菅波孝祥(名古屋大学環境医学研究所教授)
(初出『Tarzan』No.756・2019年1月4日発売)
日本人は平均寿命も健康寿命も世界トップクラスで幸せな国民だが、先進国クラブであるOECDから「日本の抱える重大健康リスク」と指摘されている課題が一つある。出生体重2500g未満の低出生体重児の割合が約10%もあり、先進国ワーストワンなのである。
これが見逃せないのは、低体重出生児は成人後、体脂肪を溜めやすく肥満や生活習慣病に罹りやすいためだ。
省エネ体質が裏目に出て太りやすく
日本人女性は痩せ型が多く、妊婦の体重管理に関する指導も緩い。お母さんが十分に太れないと、お腹にいる胎児は容易に低栄養に陥る。
すると胎児は「外界は飢餓かもしれない」と誤った予測を立てて、飢餓に備えて少ないカロリーで過ごせるように省エネ体質に遺伝子のプログラミングを変える。
これは胎生期プログラミングと呼ばれる現象。その予測に反し、現代日本の飽食な環境下にめでたく生まれると、省エネ体質が裏目に出て太りやすくなり、肥満から数々の生活習慣病に罹りやすい。
胎生期プログラミングが注目されたきっかけの一つは、第二次世界大戦末期のオランダでの悲劇的な出来事。ナチス・ドイツが船舶の出入りを禁止したため、一部地域で食糧難に陥り、大人1人当たりの摂取カロリーは1日700キロカロリーにまで落ち込んだ。この飢饉を乗り越えた母親から生まれた子どもたちは出生後に肥満や糖尿病を起こしやすかったのだ。
日本人が22世紀も健康でいるためには「小さく産んで大きく育てる」から「大きく産んで大きく育てる」への路線変更が欠かせない。
教えてくれた人
菅波孝祥さん(すがなみ・たかよし)/名古屋大学環境医学研究所分子代謝医学分野教授。医学博士。基礎研究と臨床研究を繫ぎ、生活習慣病治療に繫がる研究を担う。京都大学医学部卒業。京大、東京医科歯科大学を経て現職。