楽しいうえにいいこと満載! あなたが泳ぐべき6つの理由
水に入れば気持ちいい!だけじゃない。水圧や浮力の効果で、カラダにはさまざまないいことが起きるのだ。日本水泳連盟科学委員長で追手門学院大学社会学部教授の松井健さんに教えていただいた、いま泳ぐ理由。
取材・文/井上健二 イラストレーション/船津真琴 取材協力/松井健(追手門学院大学社会学部教授、日本水泳連盟科学委員長)
(初出『Tarzan』No.746・2018年8月9日発売)
目次
1. 消費カロリーはランニングに匹敵。だから泳げば痩せられる
運動する大きな動機はダイエットだが、水泳は減量にも効くのか。
減量に効く運動の代表格といえばランだが、水泳の運動量はランに匹敵する。エネルギー代謝量が安静時の何倍かを示すメッツ(METs)で比べると、ジョギング(時速8km)とクロール(普通の速さ)は同じ8メッツ程度。安静時の8倍のカロリーと体脂肪が燃やせるのだ。さらに平泳ぎは10メッツ、バタフライは14メッツだから、ジョグよりダイエット向きだ。
水泳では痩せないという俗説もあるけれど、その根拠は水温が低いと体温を保つ防衛反応として断熱作用を持つ皮下脂肪を溜め込みやすくなるというもの。
しかし学校のプールのように屋外なら水温は確かに低めだが、ジムなどのインドアプールの水温は26〜30度ほど。湿度も高くむしろ暑いくらいだから、トレーニングで入水する短時間では体温を守るために皮下脂肪が厚くなるとは考えにくい。
ランとスイムのメッツ比較
2. 水に入るだけで自律神経が整い、リラックス&ストレス解消
誰でも水にポチャンと入るとホッとする。これは単なる気のせいではなく、自律神経によるもの。
ストレス社会では自律神経のうちで心身を緊張させる交感神経が刺激されやすい。だが、水に入ると自律神経でカラダを休息へ導く副交感神経が優位になりやすい。
このスイッチの切り替えのきっかけとなるのは、血流の変化。
「水圧で血管が圧迫されたり、水平状態である“ストリームライン”になって血液が循環するようになると、多くの血流が心臓に戻りやすくなります。すると心拍数を抑え、送り出す血液量を調整するために副交感神経が優位になりやすいのです。学校の水泳の授業後に眠くなるのは、副交感神経の働きだと考えられます」(追手門学院大学教授で日本水泳連盟科学委員長の松井健先生)。忙しくてストレスが溜まった日はプールに寄り道してリラックス。眠りも深くなり、疲労回復に役立ちそう。
3. 浮力が筋肉を解放。肩こりや腰痛も軽くなる
日本人の国民病といえるのが肩こりと腰痛。その大半は骨や関節などに異常がなく、筋肉と筋膜に原因がある。この慢性的な筋・筋膜性の凝りや痛みには水泳が効く。
水中では浮力が働くため、胸の上まで水に入ると体重は15%ほどに減る。カラダの重みが減ると筋肉が緊張から解放されて血行が良くなる。その状態で肩を大きく回すストロークを繰り返すと肩まわりがほぐれるし、浮いているだけで腰まわりのこわばりもリセットされるから、筋・筋膜性の肩こりや腰痛が和らぐのだ。長年の不摂生を一度でリセットするのは難しいから、定期的にプールに通おう。
ただし競泳選手は泳ぎすぎで逆に肩こりや腰痛を起こすことも。肩の腱に炎症が生じる水泳肩、姿勢を保つ背筋の過度な緊張による腰痛が発生するケースもあるのだ。一般人の発生リスクはレアだが、念のために泳ぎすぎには注意して。
4. 水の抵抗が適度な負荷に。筋トレ効果でボディが引き締まる
スイマーには均整の取れた体型をしている人が多い。水泳には筋トレ効果があり、泳ぐだけで知らない間に筋肉の鍛錬になるのだ。
「空気と比べると水の粘性係数は43倍、負荷抵抗は854倍になり、その抵抗が筋肉に加わると立派なトレーニングになるのです」
加えて水の抵抗を用いると、等速性収縮というちょっと変わった筋肉の使い方ができる。
等速性収縮とは、関節運動に伴い、あらゆる角度で同じ負荷が同じ速度で加わること。
地上では特殊かつ高価なマシンを使わないとできないが、水中では抵抗は均一に加わり、手足を速く動かそうとしても抵抗が強くて思ったように動かせないため、結果的に等速性収縮に近い形で筋トレが行える。等速性収縮は筋肉と関節へのストレスが小さく、故障の危険性が低いのが特徴。水泳は安全確実な筋トレなのだ。
5. 水圧で筋肉ポンプが活性化。下半身のむくみが取れてすっきり
地上で立った姿勢では重力の影響で血液の約7割は心臓より下を巡る。下半身に溜まった血液はふくらはぎなどの筋肉の伸縮によるミルキングアクションで還流する仕組みだが、運動不足で坐り仕事が多いとミルキングアクションが作動しにくくなり、下半身に血流が停滞してむくみが生じる。
水中では水圧でミルキングアクションが活性化されて下半身のむくみが改善されやすい。水圧は水深が深くなるほど強くなるから、水中ウォーキングも効果的。
「さらに水圧で血流が良くなると、心臓にあるセンサーが働いて“体内の水分が増えたから減らそう”と判断。抗利尿ホルモンの分泌を抑えて排尿したくなりますから、むくみの解消にも役立ちます」
プールに入るとオシッコがしたくなるのは冷えだけが理由ではないのだ。トイレ後は脱水を防ぐために水分補給をお忘れなく。
水位による血管の太さの変化
6. 心肺機能がアップ。スタミナがついてバテにくくなる
ゆっくり長く泳げると水泳はカラダの内側に目に見えない変化を引き起こす。心肺機能の向上だ。
心肺機能とは、筋肉により多くの血液と酸素を供給する仕組み。肺で空気から酸素を取り出して不要な二酸化炭素を排出する能力、酸素を含む血液を押し出す心臓のポンプ作用、酸素を血液で筋肉までデリバリーする血管ネットワーク、運び込まれた酸素を効率的に利用する筋肉の機能などが関わる。
水泳は心肺機能を高めるのに有効な有酸素運動の一角。ことに肺の換気能力を上げる働きに優れている。
心肺機能がアップすると筋肉に酸素と血液がスムーズに供給されるから、持続的なエネルギー代謝が行えてスタミナ(全身持久力)が高まる。泳いで心肺機能とスタミナが向上すると日常生活でも活発に動きたくなり、運動量が増えてカロリーも体脂肪もカットしやすくなる。