• なぜスタジアムに入らないのに、米国ファンはアメフト会場に足を運ぶのか|米国スポーツ見聞録 vol.2
COLUMN
2018.11.19

なぜスタジアムに入らないのに、米国ファンはアメフト会場に足を運ぶのか|米国スポーツ見聞録 vol.2

20181106_Image-3
8万人を収容するフロリダ州立大学のアメフトスタジアム。試合後には花火のアトラクションなどもある。

世界で活躍するテニスプレーヤー・錦織圭も在籍していた、最高峰のスポーツ教育機関「IMGアカデミー」。そのアジアトップを務める田丸尚稔氏が、アメリカで実際に見た、聞いたスポーツの現場から、日本の未来を変えるヒントを考える。第2回のテーマは「大学スポーツはビジネスになるのか?」。

NCAA(National Collegiate Athletic Association=全米大学体育協会)の日本版が今年度内に設立されるという。計画の初期段階では、米国の大学スポーツが莫大な金(たとえばTVの放映権料、ライセンス料だけで年間およそ1000億円にも迫る)を生み出すため、ビジネス的な見地から発展させることが主な論点になっていた。

しかし、ここ最近は日大アメフト部の危険タックル問題をはじめ、学生の安全性や指導のあり方、運動部のガバナンスの改善を求める議論が多く、NCAAという組織の成り立ちを改めて見直す必要に迫られている。

これはとても健全な動きで、NCAAはそもそもスポーツに取り組む生徒の安全を守るためにある。20世紀の初頭、1年間でアメフトの競技中に3人が死亡、深刻な怪我を負った選手は168人にも及び、ルールや試合のスケジュールなどを管轄する組織として誕生した。

競技よりも、参加を楽しむファンたち

巨大なスタジアムで観戦料を得るのも、テレビ放映が盛んになるのも、それから半世紀も後のことで、米国の大学スポーツは時間をかけて地域とつながり、ファンを育て、人気を獲得してきた。

テイルゲート・パーティを知っているだろうか? “米国のアメリカンフットボールといえばコレ!”という屋外のイベントで、試合のある日はファンがスタジアムの駐車場に早々と車で乗りつけ、テイルゲート、つまり後部のハッチドアを開けて、ラジオやテレビをつけたり、バーベキューをしたり、お酒を飲み交わしたりという風景が巨大な駐車スペースを埋め尽くすことになる。

私が米国の大学院に在学中、親友のプラベシュ君に掛けられた言葉が「観戦に行こう」ではなく「テイルゲーティングに行こう」だったのはとても象徴的だ。

試合の開始時間は午後8時。指定された集合時間は正午。さすがに早すぎるだろうと呆れ顔をしたら、ニコニコと微笑むプラベシュ君は何やら自信ありげだ。

当日、昼過ぎに行ってみると、駐車場は大学のチームカラーであるえんじ色のTシャツを着たたくさんの人々で溢れていた(集まる車もえんじ色がたくさん並んでいて、ローカルのスポーツ愛を感じることができるよい機会だったりする)。

テイルゲート・パーティに参加する人々をテイルゲーターと呼ぶのだが、ある調査によると彼らの35%は会場に行くものの、スタジアムには入らないという。つまり、アメフトという競技そのものよりも、その場に集まり、ファン同士でつながることに重きを置き、楽しんでいる人が多数いるということだ。

選手は「週末ヒロイン」

他の競技でも規模の大小はあるけれど、観戦よりも会場で交流することを楽しむ人はたくさん見かけるし、試合を主催する大学が(ある種の集客戦略として)その機会をたくさん設けている。

たとえば私が通ったフロリダ州立大学は女子バレーボール部も強豪なのだが、試合後にファンたちが選手と触れ合う時間を必ず設けている。観客席からコート上に下りることができ、ハイタッチをしたり、記念写真を撮ったり、選手たちは今会えるアイドル、週末ヒロインだったりする。

試合会場で会った10歳になるヴィクトリアちゃんは、身長が190cmの選手に肩車をされて本当に嬉しそうだった。将来の夢は、大学スポーツでバレーボールの選手になることだと目を輝かせていた。

20181106_photo01
フロリダ州立大学のバレーボール、試合後の風景。選手に肩車されて記念撮影。

1000億円という数字に惑わされる前に、大学スポーツの現場に足を運べば、そこには10歳の子供が経験する一つのハイタッチがあることに思いを馳せることが大事だ。

子供時代のスポーツに対するエンゲージメントは強烈で、やがて大人になり、地元を離れても、その大学のチームを応援し続ける人は多い。世代を超えたファンが育ち、たとえば祖父母とその子供、さらには孫と3世代で一緒に試合観戦をする、などという幸せな場面を目にすることは多い。

一つひとつの体験が積み重なり、あるいは広がり、時間をかけて現在の巨大な大学スポーツというマーケットが成立している。NCAAが設立されたのが大学スポーツの人気の始まりとするならば、現在は110年以上の歴史の上に立っている。

スポーツのもつ「本質的」な力

日本版NCAAは日本の大学スポーツをビジネスとして成功に導くことができるのか? 答えは、残念ながら現時点では“No”である。

時間の問題だけではない。米国の例を見れば、金を生み出しているのがアメフトであることがわかる。フロリダ州立大学の場合、スポーツを通じて年間で150億円もの収入を得るが、その9割はアメフトの観戦チケットやTVの放映権などで成り立っている。

多額の寄付金も、強いアメフトチームがあるから集まる。8万人を収容するスタジアムがあり、巨大な駐車場でテイルゲート・パーティが開かれるのもアメフト。バスケットボールや野球はそこそこだが、その他の競技の収支はほとんどが赤字である。

日本はどうか? 六大学野球は? 駅伝は? 米国のアメフトのようなキラーコンテンツになり得るだろうか。

点ではあるけれど、日本の大学スポーツでもさまざまなイベントが催され、地域とつながり、“ハイタッチ”が生まれる機会も増えている。

日本版NCAAは大学スポーツをまずは健全化することにフォーカスされるだろうが、やがて選手やファン、地域の人々に光が当たり、スポーツの持つ本質的な力が語られるはずだ。“ビジネス”になるのは、さらに次のフェーズに移ってからだろう。

田丸尚稔(たまる・なおとし)
1975年、福島県生まれ。出版社でスポーツ誌等の編集職を経て渡米。フロリダ州立大学教育学部にてスポーツマネジメント修士を取得。2015年からスポーツ教育機関、IMGアカデミーのフロリダ現地にてアジア・日本地区代表を務める。

文/田丸尚稔

(初出『Tarzan』No.753・2018年11月8日発売)

Tarzan 公式アカウントから
最新情報をお届けします。

メンバーシッププログラムSTART! CLUB Tarzan

Special