「走る映画」のプレイリスト|vol9. 80年代のホーキンスを疾走。
映画の主人公気分で走りたい! 「走る」シーンが象徴的な数々の名画のサウンドトラックをつないで、ランニング気分を高め、鼓舞してくれるプレイリストを作る試み。第9回は、来る2026年1月1日にシーズン最終章を迎える『ストレンジャー・シングス 未知の世界』を振り返る選曲をお届け。物語を象徴する80年代の音楽に乗って走れば、あの頃の世界にタイムスリップ気分。
選曲・文/渡辺克己(サントラ・ブラザーズ) 写真/アフロ
2026年1月1日、Netflixドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』の最終章となるシーズン5がついにリリースされる。ジュブナイル・ストーリーとして幕を開けた物語が、登場人物たちの成長を経てどのような結末を迎えるのか。2016年のシーズン1配信開始から約10年が経った今も、世界各地のコミコンでは熱狂的なファンの歓声が鳴りやまない。その人気ぶりからも、新シーズンを待ち望む声の根強さが伝わってくる。
ここで『ストレンジャー・シングス』をまだ観ていない人のために、簡単に概要を紹介しよう。
舞台は1980年代のインディアナ州ホーキンス。12歳の少年ウィルが突然姿を消し、仲間の3人が行方を追う中、不思議な力を持つ少女・エルと出会い、やがて街の地下に存在する“裏の世界”へと足を踏み入れていく——。
制作・原案を手がけたのは、1984年生まれの双子の映画作家・ダファー兄弟。幼少期に『グーニーズ』『E.T.』『ネバーエンディング・ストーリー』などを繰り返し観て育った彼らは、80年代映画の自由でポップな空気感を現代の映像技術で鮮やかに蘇らせた。その結果、想定を超える大ヒットとなり、Netflixを世界的ブランドへ押し上げた代表作となった。
超能力、オカルト、そして“ストレンジャー”=異世界の怪物。作品に登場する要素は多彩だが、それらを包み込むのが、80年代を象徴する音楽の数々だ。MTVでヒットした楽曲とともに駆け抜ける映像は、まさに“音楽で語る青春ドラマ”。
郊外の住宅街を舞台に、キャラクターたちは自転車や車で逃走劇を繰り広げるが、その疾走感を支えているのも音楽の力だ。今回は、新シーズンの配信を前に、シリーズを音楽で振り返るプレイリストを制作した。
まずは、80年代特有のシンセサイザーが印象的なナンバーから始めよう。ドリーミーで重厚なシンセサウンドが響くオープニングテーマM1。作曲は、テキサス出身の電子音楽デュオ・SURVIVEのカイル・ディクソンとマイケル・スタイン。彼らの手によるこのテーマは、ドラマの不穏で幻想的な世界観を音で描き出している。
続くM2は、ミュンヘン出身の巨匠ジョルジオ・モロダーによる映画音楽。説明不要の名曲で、シーズン3でも印象的に使用されている。
イタロ・ディスコの代表的ワンヒットワンダー、バルティモラのM3『ターザン・ボーイ』では軽快に走り出そう。さらに、初期マドンナの代表曲M4、モータウン出身ながらシンセを取り入れたアップテンポなM5、そして70年代から活躍するファンクバンドによるM6へと続く。
そしてゴスペル出身でニューオリンズでも活動した姉妹ボーカルグループのM7からは、ブラックミュージック勢が80年代にいち早くデジタルサウンドを取り入れていたことが読み取れる。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主題歌『Power of Love』で知られるバンドのM8でテンポを上げたら、80’sロックゾーンへ。
テクノポップと呼ばれながらも実はロックンロールの魂を宿したM9では、パンクに影響を与えたバンドのエネルギーが炸裂。当時のアメリカ郊外では、主人公たちのように移動手段は限られ、家に帰ればMTVを観るのが日常。そんな“オタク文化”が育んだ感性を刺激したのが、UK発の少しダークな音楽だった。
ジョイ・ディヴィジョンやエコー&ザ・バニーメンも劇中で流れるが、ここでは気分を切り替えてアッパーなダンスビートのM10を。
中盤からはメタル〜ハードロックのセクションへ。シンセを取り入れたM11、地獄からの使者ながらキッズたちにも人気のM12、そして今も第一線で活躍するメタル界のカリスマによるM13。「トルコ行進曲」を高速ギターで再構築したM14では、クラシックとメタルの意外な親和性が浮かび上がる。
続いて登場するのは、ドイツが誇るジャーマンメタルの雄・サソリ軍団によるM15。ここから物語はクライマックスへと向かう。ロンドンパンクの雄がアメリカで放ったM16は、シーズン1の重要な伏線を象徴する曲。そして、シーズン4での名シーンを彩り、日本でも再ブレイクを果たしたM17へ。ファンを熱狂させたカバーM18を経て、シリーズ屈指の胸キュン・シーンのM18で幕を閉じる。
疾走感、ノスタルジー、そして希望。『ストレンジャー・シングス』の音楽は、単なるBGMではなく、80年代を生きた記憶と現代をつなぐ“タイムマシン”そのものだ。シーズン5の幕が上がるその日まで、プレイリストを再生しながら、あの頃の空気をもう一度感じてほしい。





















