

シューズ《マラソンシューズ》 23,990円、バンダナ 2,990円、以上ザラ、問い合わせ先:ザラ公式サイト、ロングスリーブT 15,400円、 Tシャツ 13,200円、ショーツ 7,700円 以上ヒアネス、問い合わせ先:HERENESS カスタマーサポート




文・小澤匡行
ランニングがスポーツの枠を超えた新しいカルチャーになれるか。これはもう世界中で共有された命題だ。アスリートが自分自身を超え続けることで存在意義を示すように、走る人すべてがそれぞれの目的をもつべきだし、それに向かって走り続けるべきである。
「苦しいことを乗り越えた先に見える景色は美しい」といった能動的なマゾヒズムにも感じられる倒錯的な精神性をランニングに求めるのはもはやアナクロニズムであり、雑に表現するなら「オワコン」かもしれない。走ることへのポジティブなモチベーションが人と人を繋ぎ、そこに多幸感が生まれ、文化が育っていく。そのためにあらゆるアクティビティが企画され、街中で行われている。
今となっては成立しにくい苦しみの美学だが、実をいうと嫌いではない、と言いたいささやかな反逆精神は持ち合わせている。それは学生時代の思い出が脳のどこかで誇り高く、美しく残っているからであろう。しかしながら限界まで追い込む痛みや苦しみというノイズを、僕が肯定することはもうなくなってきた。
都市や公園の中を一人でぐるぐると走っている時、僕は孤独とのバランスを無意識に測りながら、景色の中に自分を同化させようと、その日着るウェアを選んでいたりする。今までは足が速そうに見える色、服、コーディネートがお手本だったかもしれない。でも、それでは強者のスタイルだけが正義になってしまい、走る目的も異なる個々のアイデンティティが失われてしまう。
事実、僕は景色の色に気を配るようになって、選択の基準が変わってきた。都会のビル群や公園の石に溶け込むグレーが好きになったし、緑葉から枯葉に変わっていくグリーン〜ベージュのグラデーションは美しい。雨や水で鉄分が酸化した石の色や、11月であれば代々木公園に秋の終わりを告げるイロハモミジやケヤキのように、赤みがかったブラウンも好みである。いずれもアースカラーや自然の色で、そのウェアは随分と環境に馴染んでくれる。
こうした色の服やシューズは、アウトドアブランドの専売特許だと思っていたが、意外や豊富に揃っていたのが〈ZARA〉だった。トレンドを捕まえるスピード感に優れたグローバル企業が、アスレジャーではなく本格的なアスレチックウェア領域に進出する。これはランニングとアウトドア、そしてメンタルヘルスを同軸に捉えるようになった時代の波を、ファッションが支えている新時代を象徴している。
2021年に「ATHLETICZ(アスレチックス)」という包括的なコレクションがスタートして以来、どんどんおしゃれになっている。そして《マラソンシューズ》という装飾のかけらもない地味なネーミングで、カーボンを搭載したシューズを作っていたことを知った。いよいよスポーツメーカー以外の、しかもファスト・ラグジュアリーブランドが、中身まで本気の靴を作るようになったのだ。
厚底シューズとほぼ同義に捉えられているカーボンシューズが変えたのは、ランナーの記録よりも意識だと思う。日常のジョグに向いているかはさておき、私たちの重たい走りに「跳ねるような」感覚を添えてくれたことで、軽くて楽しいものだと教えてくれた。
自己ベストを更新するためのテクノロジーという、限られたスポーツメーカーの思想や設計ではもはやなくなっていて、走り出そうとする誰かの背中を押してくれるスイッチになった。もちろん酷使したことでの疲労や怪我の影響など、リスクを並べれば際限はないが、まずは楽しさを優先していいと思う。ランニングがスポーツの枠を越えるために必要な拡張装置に、これからもっとなるだろう。といった発見を〈ZARA〉はくれた。
まだメンズ中心のラインナップだが、女性でも着たくなる、着られる色やデザインが多い。最近はウールブレンドのバンダナを購入したばかりだ。もし冬の公園で落としたら、見つかりにくいくらい色が同化している。まだ首に巻いて走るには気恥ずかしいところもあるが、〈HERENESS〉のグレーのウールTシャツに合わせると(自然に見えるし、)暖かく、でもオーバーヒートしない。心地よい時間が増えていく。





