「適度な運動」って何? 運動不足解消のボーダーラインを探ろう。
「適度な運動を」と言うのは簡単。でも「適度」って、結局どれくらいの量を指すのだろうか。また、その「適度な運動」を継続するにはどうすれば? 専門家に「脱・運動不足」を習慣化する方法を聞いてみた。
取材・文/井上健二 監修/白戸拓也、中野ジェームズ修一
初出『Tarzan』No.900・2025年4月3日発売

教えてくれた人
白戸拓也(しらと・たくや)/パーソナルトレーナー。フィットネス業界黎明期から、プログラム開発やトレーナーの育成を担当。昨年MSFitness鷺沼のディレクター就任。
中野ジェームズ修一(なかの・じぇーむず・しゅういち)/スポーツモチベーションCLUB100最高技術責任者。ベストセラー著書多数。運動の始め方、継続のコツなど専門家の目線で解説。
1回30分×週2回から手軽に運動を始める。
コロナ禍以前、国際的医学誌『ランセット』は別のパンデミックを警告する特集を組んだ。そこで世界的大流行が懸念されたのが、運動不足。モータリゼーション以降、運動量は減る傾向にあったが、インターネットの発展はそれに拍車をかけた。結果、起こったのが、運動不足というパンデミック。その悪影響は喫煙と同等であり、全世界で年間530万人が運動不足で亡くなるという。
「世界では4人に1人のところ、日本では3人に1人が運動不足といわれています」(パーソナルトレーナーの白戸拓也さん)
では、どの運動をどれくらいやればいいのか。厚生労働省も世界保健機関(WHO)も指針を出しているが、ハードルは高い。
「まずは1回30分以上、週2回以上カラダを動かすことから始めてみましょう。それを1年以上続けられたら“運動習慣者”です」
厚生労働省の運動ガイドライン。
- 歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分(1日約8000歩)以上。
- 息が弾み汗をかく程度以上の運動を週60分以上+筋トレを週2〜3回。
- 坐りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する。
身体活動とは、安静時より少しでも強度の高い活動。運動はその一つだ。身体活動の強度や消費カロリーはメッツで評価できる。
出典/『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』
WHOの運動ガイドライン。
有酸素運動 | 中強度を少なくとも週150〜300分 or 高強度を少なくとも週75〜150分 |
筋トレ | 少なくとも週2回以上 (主要な筋肉を使用して中強度以上の強度で行う) |
WHOは身体活動により総死亡率や循環器による死亡率の低下などの健康効果が得られるとして上記のガイドラインを設定(18〜64歳の男女が対象)。
出典/『WHO身体活動・座位行動ガイドライン(日本語版)』
有酸素運動×筋トレが死亡率を40%下げる。
健康寿命を延ばすために運動に挑むなら、取り組みたいのは有酸素運動と筋トレ。いずれも自宅とその周辺ですぐに始められる。
有酸素とは、息が切れない程度の低強度の動きをリズミカルに続けるもの。ウォーキングやランが代表格。体脂肪を燃やし、スタミナを上げ、血液循環を良くし、血圧を下げる。筋トレは、筋肉に抵抗をかけて鍛える。筋力が上がると日常生活がラクに過ごせて行動範囲も広がる。さらに血糖値が下がりやすくなったり、免疫力が上がったりすることも期待できる。
運動の効用を最大化するなら、有酸素×筋トレの組み合わせが最強。有酸素のみ、筋トレのみの場合より死亡率を下げる効果が高く、何もしない人と比べると死亡リスクが40%も減らせるのだ。
ただ、一度に両方やろうと欲張ると二兎を追うハメに陥り、挫折しやすい。手始めは1つに絞ってスタートするのが正解。以下2つの始め方から好きな方を選ぼう。
パターン1.日常生活の延長線上で有酸素運動から始める。
運動を始めるなら有酸素から。そう語るのは、フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さん。
「筋トレは技術的な要素が大きく、日常生活にはない動きも多い。一方でウォーキングやランは技術要素が少なく、教えられなくてもできる。日常の延長線上で行えるので、有酸素の方がより気軽なのです」
筋トレを何種も続けるには、それなりのスタミナが求められる。有酸素で持久力をつけておけば、筋トレも無理なく始められそう。
「トレーニングの強度や頻度は徐々に上げるべき。筋トレをプラスする際は自体重などの低負荷×高回数から始め、負荷を段階的に上げ、ダンベルなども使った高負荷×低回数に移行してください」
パターン2.弱った筋肉を筋トレでリセットすると挫折しにくい。
対照的に有酸素より筋トレから入った方がいいと助言するのは、白戸さん。
「運動不足で太ったり、足腰が弱ったりしている人が、いきなり走って膝などを壊すケースは少なくない。着地時に体重の数倍の衝撃がかかるからです。自体重筋トレなら安全確実に行えるので、それで自らの体重を支える足腰を作ってから有酸素を始めても遅くない」
有酸素は運動時間が長くなり、筋トレとの両立に悩む場合もある。そこで日常の延長線で行えるメリットを活かし、有酸素は生活に組み入れる作戦を薦める。
「通勤時に2駅分歩いたり、移動に自転車を使ったり。少し息が弾むくらいのペースで行えば体脂肪も燃えやすくスタミナもつきます」
運動を組み合わせて死亡リスク軽減。
有酸素のみ、筋トレのみでも、何もしない人と比べると死亡リスクは下がる。でも、両方実施している群が死亡率はもっとも低く、何もしない人よりも40%下がる。
出典/Momma H, Kawakami R, Honda T, et al. Br J Sports Med. 2022; 56: 755-763