5年先の疾病リスクも予測!最新版、人間ドック大全。
「不健康を宣告されるようで怖い……」そんなイメージを持つ人も多い人間ドック。でも、最近は「病気を見つける」から「一歩先のリスクを知る」時代へと進化中らしい。最新の人間ドック事情から健康診断との違い、オプションの選び方などを解説しよう。
編集・取材・文/川端浩湖 イラストレーション/ダン・マトゥティナ
初出『Tarzan』No.898・2025年3月6日発売

教えてくれた人
渡部衛(わたなべ・まもる)/健診会東京メディカルクリニック医師。内科認定医、消化器病専門医、肝臓専門医、消化器内視鏡専門医、ピロリ菌感染症認定医。内科、消化器内科で診療にあたる。
隠れたリスクを人間ドックで可視化。
健康ファーストな生活を送っているから、病気とは無縁。そう思っていないだろうか? だが、その自信こそが落とし穴かもしれない。
「健康に気を使っている人でも、40代になると体力の衰えは避けられません。さらに、社会的にも重要な役割を担う時期。だからこそ、予防の観点からも人間ドックを受けるべき」と医師の渡部衛さん。
血圧、血糖、コレステロールの数値がやや高めでも、すぐに体調に影響が出るわけではない。そのため「自分は平気」と思いがちだ。しかし、5年後、10年後に動脈硬化が進む可能性もある。
さらに、遺伝的に糖尿病や高コレステロール血症になりやすいなどのリスクも潜んでいるのだ。未来の自分のために、定期的なチェックはマスト。今こそ、人間ドックをルーティンに組み込もう!
基本検査はどの施設で受けてもほぼ同じ。
いざ、人間ドックを受けようと調べると、プランの多さに脳内がフリーズ! そんなときは、まず人間ドックのしくみを押さえておこう。
基本検査には、身体計測、血圧測定、血液・尿検査、視力・聴力検査、心電図、胸部レントゲンなど、健康診断でもおなじみの項目がズラリ。
さらに、胃の検査や腹部エコー、便検査が加わり、より深くカラダをチェックできる。ここにオプション検査をプラスすれば、自分仕様にカスタマイズも可能!
基本検査の内容は、日本人間ドック学会が定めた標準項目があるため、どの施設でもほぼ共通。ただし、オプション検査の内容は異なる。スタンダードな検査なら、わずか3時間で完了。半休を取れば楽勝だ!
検査項目 | 詳細 |
身体測定 | 身長、体重、腹囲、BMI(体格指数)、血圧 |
血液検査 | 脂質異常症、代謝機能検査、糖尿病系検査、肝・胆道系検査、腎臓系検査、膵臓系検査、電解質検査など |
尿検査 | 尿蛋白定性、尿潜血、尿糖定性、尿比重、尿pHなど |
眼科・耳鼻科系検査 | 視力、眼底、眼圧、聴力 |
循環器系検査 | 心電図検査 |
呼吸器系検査 | 胸部レントゲン検査、肺機能検査 |
消化器系検査 | 便検査、胃レントゲン検査、腹部エコー |
知っておきたい人間ドックの基礎知識。
●自分に合った病院の選び方。
医療施設を選ぶとき、まずは提供されている検査内容と自分が受けたいオプション検査の有無をチェックしよう。また、結果をしっかり相談できるかどうかも重要。万が一、悪い結果が出ても、次の一歩をサポートしてくれる専門医がいれば安心できる。
人間ドックは、一般的に40代から定期的に受けることが推奨されている。タイミングは自分次第だが、「毎年、決まった日に受ける」など、継続しやすい自分ルールを決めよう。
●病院によって料金が違う理由。
料金は医療施設の場所や医療設備、提供されるオプションによってさまざまだ。企業の健康保険組合などを利用した場合は、あらかじめ決まった料金で受けられることが多いが、個人で受ける場合は、医療施設によって料金が異なる。
快適な検査時間を提供するため、施設独自の食事やサービスなどがプラスされるケースもある。各医療施設の提供内容やオプション、料金をしっかり比較して、自分が納得のいくプランを選ぼう。
●オプションは年齢関係なし。
オプション検査は、年齢だけで決めるものではない。重要なのは、自分の健康診断の結果を基に判断することだ。確かに、年齢とともに生活習慣病やがんのリスクは高まる。
だから、年齢に応じたオプションを医療施設が提案している場合もあるが、健康診断の結果を踏まえたうえで決めるケースがほとんど。「この検査、受けたほうがいい?」。そう思ったら、迷わず担当医に相談を。ベストな選択をサポートしてくれるはず!
●家族の病歴も踏まえて検査を。
病気のリスクを考えるうえで、家族歴は見逃せない。糖尿病、生活習慣病、がん……、家族に該当する人がいるなら、自分も要チェックだ。家族歴を知り、健康管理を意識することが、将来のリスクを減らす。
がんは早期発見で治療の成功率が大幅アップする時代。一方、生活習慣病や動脈硬化は進行すると改善が難しくなることが多い。だからこそ、予防、早期発見が重要。定期的な人間ドックを習慣にしよう。
健康診断と人間ドックは目的が違う。
会社や自治体で行われる「健康診断」や、任意で受けられる各種「検診」。これらを利用することも健康管理に大いに役立つが、カラダのすみずみまでチェックするには限界がある。
そこで、「健康診断」と「人間ドック」の違いを比較してみよう。健康診断は、今の健康状態を確認し、現状の改善点を大まかに炙り出すもの。
一方、人間ドックは予防に重点を置き、生活習慣の改善も視野に入れた総合的な健康チェックだ。未来の自分のために、受けるべきはどっち? 答えは明白だ。
人間ドックと健康診断の違い。
人間ドック | 健康診断 | |
特徴 | 全身を詳しく総合的に検査できる | カラダの状態を大まかに検査できる |
目的 | 健康診断では見つけにく病気の予防や早期発見、将来の発症リスクの把握 | 健康状態の把握、病気の早期発見(おもに生活習慣病) |
検査項目数 | 多い(50項目以上) | 少ない(10〜30項目) |
費用 (目安) |
3〜10万円以上 | 原則無料(場合によって一部負担) |
健康保険の適用 | なし(自己負担) | なし(健保・会社負担・一部自己負担) |
医療機関 | 人間ドックを行っている医療施設、クリニックなどから自由に選択 | 勤務先で指定されるか、健康診断を行っている医療機関から選択 |
オプションの選び方。
人間ドックには医療施設ごとに特色あるオプション検査が用意されており、希望する検査を自分で選んで受けることができる。気になる数値や不調があるなら、検査を追加して徹底的に調べよう。
●血圧が気になる。
血圧が140/90mmHgを超えると、高血圧ゾーン突入! そのまま放置すれば、動脈硬化をはじめ、さまざまな血管系のトラブルを引き寄せることに。まずは血圧脈波を追加して、動脈硬化のリスクをチェックしよう。
もし160mmHg超えなら、さらに詳しい検査が必要。例えば、脳MRIや頸動脈エコーで動脈硬化の進行度を確認したい。
「高血圧の背後にアルドステロン症などの病気が潜んでいることも。腹部エコーで腎臓の状態を確認したり、血液検査で甲状腺の異常を調べたりするケースもあります」(渡部さん)
●血糖値が気になる。
糖尿病が疑われるサイン、それが空腹時血糖値126mg/dL以上、HbA1c6.5%以上。この数値を超えると、糖尿病の可能性が一気に高まり、血管へのダメージが進行しやすくなる。
ここで重要なのが、動脈硬化のチェック。血圧脈波や頸動脈エコーを追加して、血管の状態をしっかり把握しておこう。
さらに、腎臓のダメージにも要注意。「腎臓の状態は、血液検査、尿検査、腹部エコーなどで診断します。また、糖尿病は目にも影響を与えるため、眼底や眼圧などの眼科検査も重要なチェック項目になります」。
●コレステロールが気になる。
LDL(悪玉)コレステロールが160mg/dLを超えたら要注意! 動脈硬化リスクがグンと高まり、放置すれば脳や心臓の血管系トラブルを引き寄せる。
まずは、血圧脈波や頸動脈エコーを追加し、血管の状態をしっかりチェックしておこう。さらに、腸内フローラや生活習慣病リスクAI解析、マイ・ナイチンゲール検査などのオプションを活用すれば、生活習慣病のリスクをより詳しく分析できる。
「特にタバコを吸っている人は、動脈硬化が進みやすい傾向にあります。脳MRIを追加し、リスクを洗い出しましょう」
さらに詳しく知るオプション検査。
血圧、血糖値、コレステロールが気になる人に役立つ検査をピックアップ。それぞれの検査メリットを知り、健康状態をしっかり把握して早めの対策を!
血圧脈波|動脈硬化による血管の硬さと詰まり具合が分かる。
血圧脈波は、手と足の血圧の比較や脈波の伝わり方を調べて、血管の硬さと詰まり具合を測定する検査。ベッドに横になり、血圧計を巻いて安静にしているだけで、痛みもなく短時間で終わる。
この検査で分かるのは2つの数値。「CAVI(キャビィ)」では動脈の硬さを調べる。値が高い人は血管のしなやかさに問題ありだ。さらに「ABI(エービーアイ)」では、血管の詰まり具合を調べる。
値が低いほど動脈硬化は進行している可能性が高い。検査結果(上記)では「血管年齢」も表示され、現在の血管の状態を把握できる。料金目安は、約1,700円。所要時間は約5分。
頸動脈エコー|脳梗塞の原因となる頸動脈の血管を映し出す。
頸動脈エコー(超音波検査)は、動脈硬化の進行度や脳卒中のリスクを把握するための重要な検査。検査方法は、首に専用のジェルを塗り、超音波プローブを当てて血管の内壁を確認する。
これにより、動脈硬化による血管の詰まりがないか、血管内に脂肪やコレステロールが溜まり、プラーク(塊)ができていないかを確認できる。
また、血流の速さや乱れ具合も測定することで、血管の健康状態や動脈硬化の進行度を評価することが可能。短時間でカラダに負担をかけずに行えるため、定期的なチェックに適した検査だ。料金目安は、約5,000円。所要時間は、約10分。
脳MRI・MRA|高血圧、脂質異常症、喫煙歴アリな人は受けるべし。
血圧、血糖、コレステロール値に問題ありの人は、脳卒中や認知症のリスクが高いため、脳内の様子がクリアな画像で見られる脳MRIで脳の状態をチェックすることはとても有効だ。いろいろな角度から撮影できるため、脳梗塞や脳腫瘍などの発見、位置や大きさの診断に役立つ。
加齢に伴い小さな脳梗塞が進行していることがあるが、MRIなら自覚症状がなくても見つけることができる。また、MRA(磁気共鳴血管撮影)を使用すれば、脳動脈を立体的に画像化し、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤などを早期発見できる。料金目安は、約20,000円。所要時間は、約20分。
腸内フローラ|生活習慣が乱れている自覚がある人は積極的に。
お腹の調子が悪い、最近太りやすくなった、免疫力が落ちている……。生活習慣から来るこうしたカラダの変化や不調が気になるなら、腸内フローラ検査がおすすめだ。
腸内フローラとは、腸内に棲む常在細菌の集まりで、そのバランスが全身の健康状態に深く関わっていることが分かっている。検査結果では、腸内フローラのバランスや健康長寿菌の状態、生活習慣の評価が示され、改善のポイントや管理栄養士からのアドバイスももらえる。
生活習慣の改善に今すぐ取り組み、動脈硬化などのリスクを回避したい人の手助けになるだろう。料金目安は、約20,000円。所要時間は、なし(自宅での検便)。
リスクを知るAI&最新検査。
最新の解析方法で病気に先手を打つのが今どきの検査。5年後、10年後の健康状態に危険信号が灯っていると分かれば、今やるべき対策が見えてくる!
生活習慣病リスクAI検査|5年先の疾病リスクをAIが教えてくれる。
最新の人間ドックのデータと、問診で記入した生活習慣から、疾病リスク予測AIが5年先までの6大疾病(糖尿病、脂質異常症、高血圧、肥満症、肝機能障害、腎機能障害)を予測。
AIが未来のあなたの疾病リスクを教えてくれるというわけだ。自分のリスクを把握すれば、適切な予防策を取ることができる。
ただし、すでに検査値が基準値を超えている場合や、予測対象の疾病の治療を受けている方は検査対象外になる。料金目安は、約5,000円。所要時間は、なし(人間ドックのデータを利用)。
マイ・ナイチンゲール|血液データを100点満点でスコア化。
血液検査のデータを基に、通常の人間ドックでは分からない項目も含めた250項目を分析。血液健康状態を100点満点でスコア化してくれる。心臓年齢や糖尿病耐性スコア、コレステロールバランススコアなど、改善が必要なポイントも一目瞭然。
さらに、独自のアルゴリズムを使って、心血管疾患(心筋梗塞、狭心症、脳梗塞など)や2型糖尿病の発病リスクをグラフで提示してくれる。料金目安は、約11,000円。所要時間は、なし(血液検査を利用)。
エムビジョンヘルス|脳の萎縮度や血管性変化をAIで見える化。
脳MRIの検査データを利用して脳の状態をAIで解析するオプション。従来の脳ドックでは測定が難しかった脳の体積や血管の状態がAIにより可視化できるように。
上図は同じ53歳の脳MRI画像だが、脳の加齢が進行すると萎縮により黒い隙間が広がっていることが分かる。脳の加齢は30代から始まるが、生活習慣の見直しにより改善することが可能。
脳の健康状態が気になったら、脳MRIとセットで検査を。料金目安は、約6,600円。所要時間は、なし(脳MRIのデータを利用)。
心疾患リスクAI検査|AI解析で7種類の心疾患をリスク評価。
人間ドックで受けた心電図検査の波形をAIに読み込ませることで、7種類の心疾患リスクを評価する検査。心不全につながる心機能の低下や心臓弁膜症に関するリスク、脳梗塞や心不全の原因となる心房細動と心房粗動に関するリスクが明らかに。
心疾患に特化したこの検査は、追加検査なしでリスクを把握できる。40〜50代の人や、血圧、血糖、コレステロールが高め、または喫煙歴がある人にとって非常に役立つだろう。料金目安は、約4,000円。所要時間は、なし(心電図のデータを利用)。
ロックス・インデックス|将来の脳梗塞や心筋梗塞の発症まで予測。
動脈硬化はできれば未然に防ぎたいもの。この検査では、血管内に脂質が入り込むメカニズムに着目し、LAB(超悪玉化コレステロール)と、それと結合をして動脈硬化を進行させるLOX-1(ロックスワン)というタンパク質の2つを測定する。
これにより、動脈硬化の進行具合や、脳梗塞や心筋梗塞の発病リスクまで予測できる。血管が詰まる前の段階からリスクをチェックしておけば、安心して予防に取り組める。料金目安は、約13,000円。所要時間は、なし(血液検査を利用)。