全体を揉むだけでもOK。なぜ耳ツボはカラダに”効く”のか?
耳は、カラダ中の臓器に対応するツボが100以上も密集している。耳ツボがダイエットや美容にいいと聞いたことがある人も多いだろうが、その秘密が分かりつつあるという。大きな可能性を秘めた耳ツボの世界を覗いてみよう。
取材・文/石井 良 イラストレーション/ビオレッティ・アレッサンドロ 監修/安野富美子(東京有明医療大学保健医療学研究科教授)
初出『Tarzan』No.891・2024年11月7日発売
耳はツボの密集地帯。とりあえず3つのゾーンを覚えておこう。
耳は「全身の縮図」といわれ、カラダ中の臓器に対応するツボが100以上も密集している。マッサージや鍼で刺激することでカラダの不調改善や自律神経のバランス調整などに役立つとされ、本場中国だけでなく、フランスやアメリカでも独自に発展を遂げている。
「現在、耳ツボの臨床的効果やそのメカニズムを解明する研究が盛んです」とは、鍼灸の効果を科学的に研究する東京有明医療大学の安野富美子教授。
小さな耳に100以上のツボが密集していると想像すると、なんだか複雑そう。でも、難しく考える必要はない。大まかにはこの3つに分類できる。
●神門ゾーン
自律神経と密接に結びついているとされる神門(しんもん)は耳ツボ界のアイドル的存在。ストレスの軽減や血流促進効果が期待できるため、リラックスしたいときにぴったりだ。
●首肩ゾーン
耳を上下に三等分したときの中央が首肩ゾーン。首や肩に対応するツボが集まっており、血流を促すことで凝りを改善。特に耳の外側部分周辺がスイートスポットだ。
●頭ゾーン
脳や目、舌などに対応したツボが集まる耳の下部は、頭痛、眼精疲労などに効果的。また、美容にいいツボも集まっていて、リフトアップや目元のたるみも軽減してくれる。
耳ツボはこう押す。
では、実際に押すときの方法は。「耳に密集するツボは、一つ一つが小さいですが、ピンポイントに押そうとしなくても大丈夫。多少ずれていても刺激は入ります。耳全体をマッサージするように揉むだけでも十分に効果が期待できますよ」と安野教授。
押すタイミングや頻度も、楽に行える範囲でOK。朝昼晩に分けるなど、自分流のルールを決めておくと習慣化しやすい。慣れてきたら頻度を増やせるとなおよしだ。
ダイエット効果が科学的に明らかになりつつある。
「耳ツボはダイエットにいい」とは、実は昔からいわれていたこと。
「耳には自律神経である迷走神経が分布しており、知覚(食欲のコントロール)・内臓機能と深く関わっています。食欲中枢・消化器官に関わるツボを刺激すると食欲が抑制され、胃腸の調子が整います。さらに気持ちを安定させる神門への刺激がイライラから来る食べ過ぎを抑え、ダイエット効果とともに心身の状態を整えることが最近分かってきました」と安野教授。
ツボを押すタイミングは食前10〜15分前。2〜3分のツボ押しを実践してみるべし。
押すべきツボはこの5つ。
耳ツボで未病が治る時代が来る!?
発病には至らないものの病気に向かっている状態を表す未病とは、いわば“病気のタネ”をカラダに抱えている状態である。これまでの研究では、血管周囲の微小な炎症こそがこの病気のタネであり、関節リウマチや動脈硬化、認知症などの長寿社会特有の疾患の原因となっていることが分かっている。
さらに最近の研究では、なんと耳ツボによって、この微小炎症を治療できる可能性があるという。研究を進めているのは、神経と免疫の関係に詳しい北海道大学の村上正晃教授だ。
「耳ツボを介して迷走神経を刺激することで放出される神経伝達物質が微小炎症に作用し、炎症を抑える効果があることが分かったのです。臨床研究では、難治性てんかんや間質性肺炎の患者に対して1日数時間の刺激を与えたところ、発作がなくなったり、病気の進行が抑えられました。現在は、未病を治すことで病気にさせない治療の開発を目指して研究を行っています」
耳ツボへの電気刺激によって迷走神経が活性化すると、シグナルが脾臓に届いて神経伝達物質が放出。その神経伝達物質が全身を巡る神経を介して患部の微小炎症に作用する仕組みだ。