01. コンディショニングでいちばん大事にしていることは?
一つに絞るのは難しいですが、トレーニング、休養、栄養のバランスかな。なんか、当たり前の答えになっちゃいますね。でも、当たり前を当たり前にやり続けるのが難しく、大事なことだと思う。
02. 疲れを取るコンディショニングはいつから重視していますか
若いときはそれほど重視していなかったけど、40歳以降は疲労回復のために体調管理に気を配り、休息も計画的に取っています。日々のトレーニングも量より質を重視している。
03. 疲労度を判断する基準は?
よく眠れたかどうかですね。
でも、疲れが少し残っている、熟睡度が浅かったという日でも、気持ちの面さえ充実していたら、案外グラウンドでいいパフォーマンスが出せることもある。
いまだ何が正解かがわかっていない。
04. ストロングポイントは?
カズであること。
05. 休みは足りていますか?
まわりから、もっと休んだ方がいいとアドバイスされますけどね。休むと体調が悪くなる。だから休日でも、朝8時にピラティスの個人レッスンを入れたり、午前中、筋トレや体幹トレをやりにジムに出かけたりしています。
06. 食事にはどんなこだわりがありますか
何をどう食べるかはもちろんですが、僕は、時間栄養学を踏まえていつ食べるかにもこだわっています。
同じ時刻に食べ、消化吸収にゆとりを与えて効率的にエネルギーと栄養を利用できるように気をつけています。思惑通りにならない日もありますが、なるべくリズムを崩さないようにしています。
07. 練習、本番開始の何時間前に食べるようにしていますか
カラダを動かす2時間半から3時間半前までに食べ終えたい。夕飯は胃腸の負担を避け、できるだけ早めに。コロナ禍以降はさらに早まり、試合も何もなければ、夕方5時か5時半に食べます。
08. ちなみに今朝の朝食は?
ご飯、焼き魚、納豆、味噌汁、サラダ、小鉢。朝はいつもだいたいそんな感じ。季節の果物も必ず食べますね。
09. 体調維持のため、好きなものを我慢することがありますか
ありますね。僕、甘いモノが大好きなんですよ。とくに和菓子。お餅とアンコ好きで。そればかりか、洋菓子も好き(笑)、ショートケーキやモンブランも大好物です。
誘惑に負けて食べすぎたら、翌日普段より多めに走る。好物を我慢するより、その方がストレスは溜まらないですよね。
10. 内臓の疲労度もチェックしていますか
チェックしていますよ。43歳から人間ドックをやるようになった。脳ドックもやるし、しょっちゅう検査で病院に行っていますよ。
筋肉も大事だけど、アスリートだって内臓や脳がきちんと機能していないと困るし、疲れだって溜まりやすい。
11. 弱点をカバーするか、強みを伸ばすか。二者択一ならどっち
強みを伸ばす。
12. 筋力面で衰えを感じる瞬間がありますか
筋肉はかなり減りました。50代の筋肉量は、20代の半分以下だと聞きますからね。普通の50代より筋肉はある方でしょうけど、若い選手のスピードとパワーと比べたら、3割は衰えていると思う。
だから、いかに疲労を抜き、どうカバーするかをいつも考えています。同じ土俵に立たないと、真剣勝負で戦えないですからね。
13. だからいつも全力プレー?
若手が7、8割の力でこなせるタスクも、この年齢になると、10割でぶつからないとこなせなくなる。僕が7、8割でやったら、若い選手の5割になっちゃうから。全力でぶつかるためにも疲労回復が大事です。
14. 疲れても一晩眠れば回復しますか
以前は一晩寝れば回復しました。いまは、そうはいかない場面もありますけど、できるだけそう思うようにしています。
わずか20分の昼寝でも、「復活したぞ!」と思うようにしている。何事も希望的観測で前向きに捉えることも大事。
15. プロのサッカー選手とは?
プロで食べていくことの困難さを知っている存在かな。19歳でブラジルのサントスFCでプロになり、すぐ活躍できると楽観していました。
ところが、ブラジルのビッグクラブの壁は遥かに高く、思うようにプレーできない。自信を失い、下位チームに下格して、プロでお金を稼ぐことがどれだけ大変かを痛感させられました。
16. プロデビューしたての36年前の自分に声をかけるとしたら
プロになれたときの喜びや情熱を失うな。ずっと情熱を持ち続け、コツコツやれば困難は乗り越えられる。
そして、いずれサッカーで食べていくことはできる。そう伝えたいですね。デビュー当時のこの情熱は、いまも僕の胸の中にある。
17. その情熱の炎の在り処をいつも確かめている?
走るのが嫌じゃないのか、もっと練習をやろうと本気で思えるか、昨日より今日の自分を高めたいのか…。自問自答の日々です。
一つでもノーだったら、身を引かないといけない。ただ、どこまでいけるかに挑戦したいという気持ちはつねにある。
18. お酒はお好きですか
好きだけど、シーズン中の11か月間は一滴も飲みません。飲むのはオフシーズンの1か月だけ。その間は、夜の波に乗るミッドナイトサーファーになります(笑)。息抜きも必要でしょ。
19. 疲労回復には何時間睡眠がベスト?
パフォーマンスから平均して逆算すると、僕の場合は8時間かな。でも、最近は7時間も寝るとパッと起きちゃう。質も大事ですよね。4時間でも熟睡できたら、翌日はカラダがラクに動きます。
20. 睡眠時間を確保するために気をつけていることは何ですか
朝6時には目覚めるので、夜10時までには就寝するようにしています。
本当は9時台に寝たいけど、スケジュール上それは難しい日の方が多い。早めに寝られたら、余裕があるから、すぐに寝られなくても慌てなくていい。焦ると眠れなくなるから。
21. フィジカル面に弱点があるとしたら?
スピードを上げる速筋がもっとあればいいかな。でも、スピードがあっても、ボールコントロールをミスしたら意味がない。僕の専門は短距離走ではなく、サッカーですからね。
22. サプリメント肯定派ですか
運動量の多いアスリートだと、食事だけでは不足する栄養素がどうしても出てきますから、肯定派ですね。
23. どんなサプリを摂っていますか
プロテイン、ビタミン、ミネラル…いろいろと摂っています。ビタミネは朝食のタイミングで、10錠くらい飲んでいます。
24. 腸内環境は気にしていますか
以前はそんなに頓着しなかったけど、最近は気にしていますよ。毎日乳酸菌飲料を飲むようにしている。
25. トレーニングをサボりたくなる読者にひと言
目標設定を工夫してみてはどうでしょう。
100%やろうと思わず、70~80%でいいと思うべき。
さっき言ったみたいに、僕は100%でぶつからないといけない場面もあるけど、100%頑張りすぎると疲れて翌日何もやりたくなくなるかもしれない。
読者の皆さんは70~80%のレベルでいいからサボらずに継続した方が、長い目で見ると効果的。
26. 20代の自分より、いまの自分が優れているところは?
メンタルですね。
27. 批評は気になりませんか
若いときは批評に反発して、ぶつかっていくところもあったけど、いまは批評家から何か言われたとしても、「いいんじゃないの。彼らは批評するのが仕事だから。僕は僕で自分の仕事をすればいい」と受け止める心の余裕がある。
図々しくなったんでしょうね。批評も受け流せる心の余裕があった方がサッカーに集中できる。結果、自分にとってもプラスなんですよね。
28. メンタルのコンディショニングのコツは?
他人をあまり気にしない方がメンタルは安定します。コントロールできないことは諦めて、コントロールできることに集中することが大事。これは若手にもよく話しています。
29. 三浦知良とカズは、別人格ですか
カズは、三浦知良がマネジメントしているんですよ、僕は2人いますから。二重人格と言われても、おかしくないくらいです。
30. 三浦知良とカズはどんな対話を?
たとえば、試合に出られないとき、ベンチを外れて試合を見ているときに、素直にチームを応援できない自分がいる。それを嫌だなと思っているカズと、それでいいという三浦知良がいる。
三浦知良は、「カズ、お前はグラウンドで試合に集中して一生懸命やれば、それでいい」と言ってくれる。2人がいつも同時にいます。
31. モノに対する執着はある方ですか
ないんですよね。洋服はすごく好きだけど、洋服そのものよりも、好きなテーラーさんとコーヒーでも飲みながら、ファッションの話をしている時間が楽しい。Jリーグの優勝メダルとかMVPのメダルとかも、段ボールに入ったままです。
32. サッカー選手でなかったら、何になっていたでしょう
サッカー選手以外のアイデアはないですね。サッカー選手以外の人生は僕には考えられない。
33. 体重は意識していますか
トレーニング前後で体重を量るのが長年の習慣です。年齢も年齢だから、疲れずに動き続けるには食べなきゃいけない。
だから、体重が減っていたら、タンパク質とか炭水化物を多めに摂るようにするけど、食べすぎると余計な脂肪がつく。体調の良し悪しが目安ですが、体重の調整は年々難しくなりますね。
34. 疲労度のモニタリングにはデジタルも活用していますか
テクノロジーを使えば、コンディショニングの状況や休養の必要性はもっと客観的に分析できるでしょう。それも大事でしょうが、僕は主観的な感覚を重視したい。カラダが答えを知ってるんです。
35. 地道なコンディショニングを続けるモチベーションとは
サッカーへの情熱ですね。大切なのは、コンディショニングのためのコンディショニングではなく、あくまで試合に出て活躍するためのコンディショニング。
だからこの“情熱”という言葉には、いいプレーがしたいという思いや、試合に出られない悔しさとかが全部入っています。
36. 完全休養日は年間何日ありますか
トータルで1か月は休んでいるんじゃないかな。ただ、1か月くらい連続で休みがないことも、しょっちゅうある。
チーム練習が休みでも、自分で入れたトレーニングが入っていたりするから。けど、それは自ら望んで決めたことなので、苦にならないです。
37. コンディショニングでは何を参考にしていますか
誰かの方法論をそっくり真似るのではなく、これまで出会ったコーチなど、多くの人たちからのいいとこ取りです。
自分で試し、合うものだけミックスし、独自に体系化しています。若いチームメイトに教えてもらい、取り入れることもあります。
38. 一日でもボールを触らないと、感覚は鈍りますか
それはないです。2021年もシーズンを終わってから8日間ほど休みましたが、その間ボールは一回も蹴っていない。
39. 体力面はどうですか。1週間運動なしでも平気?
フィジカル面は短期間でみるみる落ちる。1週間トレーニングしなかったら、びっくりするくらい落ちます。
40. これだけ長くプロでいられる理由は?
それは日々の地道なコンディショニングのおかげでしょうね。カラダが答えを知ってるんです。
41. 拝見すると練習は超ハードですね。疲れませんか?
練習で無理をしないと試合で無理はできない。昔から僕はそう思う。
42. “キング”と呼ばれるプレッシャーはありますか
世界のサッカーファンがペレをキングとして尊重していますから、国内で僕がキングと呼ばれていいのかという葛藤はあります。僕にとって“キング”はペレしかいない。
43. では、実は“キング”とは呼ばれたくない?
リスペクトを込めてそう呼んでくれるのは、ありがたい話です。ただ、スパで真っ裸でいる僕を見て、「キングですよね」と声をかけるのはやめてほしい。「そうですけど」と言いつつ、思わず、股間を隠したくなります。冗談のような本気の話です(笑)。
44. いえいえ、50代とは思えない肉体美です
とんでもない。他人にお見せできるレベルじゃない。誰かに見せるために鍛えているわけじゃない。まぁ、年齢相応でしょう。
45. 見かけとパフォーマンスは比例しない?
いいフォルムを作るのは大変だし、努力もいる。でも、何歳になっても頑張れば誰でもできると思う。選手は外見よりも中身、質が何より大事。
見かけを競技に特化した動きに結びつけるのが非常に難しい。スゴい選手が下腹ぽっこりというケースも、普通にありますからね。
46. 疲労回復には入浴も活用していますか
フル活用です。夕飯後、必ずスパで交代浴をやる。シーズン中はもちろん、休日も含めて年がら年中やっていますね。
47. 交代浴のメニューを教えてください
温水が6分、冷水が4分、交互に多いときで3セット、少なくても2セット。温度にはスパによっていろいろな組み合わせがある。
いちばん多いのはお湯が41度で水が18度。ハードなスパだとお湯が42・5度で水が9度。9度は冷たいけど、痺れちゃっていい。最後は必ず冷たい方で出るようにしています。
48. トレーニング後、すぐに氷水に両足を浸けていましたね
炎症予防には氷水入りのビニール袋でのアイシングが普通ですが、僕はアイスバスでアイシングしている。もう23、24年はやっている。水温は1度くらい。通常で15分、炎症があると感じたら20分は入ります。感覚がなくなりますよ。
49. メンタルのコンディショニング法を教えてください
心のケアは、僕の場合はサッカーをやること(笑)。サッカーをやっていると、「つまらないことで悩んでいたな」と思える。
50. サッカー以外のメンタル・コンディショニング法は?
気の合う友達、仲間と一緒の時間を作ること。そういう時間が自分の安定したメンタルを作っていると思う。
51. 心が折れそうなときはどうしますか
『男はつらいよ』を観る。
52. なぜ『男はつらいよ』なんですか
ベンチメンバーに入って試合に臨んだのに、出られずに終わったとき、監督の顔は見たくない。そういうときタブレットで寅さんを観ていると、心が落ち着きます。監督が何か話しかけてきても、「それを言っちゃあ、おしまいよ」と返せばいい(笑)。
53. 引退を意識する瞬間が来るとしたら、どんなときですか
試合で活躍するために、自分が必要だと考えているトレーニングがこなせなくなったときですかね。
でも、昔みたいに全部完璧にこなすのはムリ。故障したら何にもならない。そこはわきまえています。
54 今後、サッカー界にどんな貢献がしたいですか
何歳になってもグラウンドでエネルギーを発散させる背中を見てもらうことで、「自分も前を向いて進もう」と元気になってもらえたら、それが僕のできる貢献だと思います。
55. 三浦知良から見てカズとは?
サッカーを純粋かつ愚直にやるための努力を惜しまない人です。