アラブの大都市から、断食期間に旅のお誘い。
ドバイと聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろう。高層ビルがニョキニョキと林立するシティスケープ? あるいは、大富豪がシャンパン片手にインフィニティプールに寝そべるようなラグジュアリーな光景だろうか(さすがにステレオタイプ……?)。
そんなTarzan Web編集部とは縁もゆかりもなさそうなアラブの大都市から、こんな誘いがあった。
「ラマダン中にドバイを旅してみませんか?」
ラマダン、ドバイ……?
インパクトのある言葉が並び、興味をひかれた。ラマダンがイスラム圏における重要な文化だということはご存知だろう。およそ1ヶ月ほど、太陽が昇ってから沈むまで、水を含む一切の食事を断つ、断食行のことだ。想像するだにストイックなその期間に旅行の提案!? 一体どんな苦行を強いられるのだろうと身構えるまもなく、観光局の担当者が言葉を継ぐ。
「ドバイは世界屈指の国際都市で、ラマダンに対しても非常におおらかな対応をしています。多くの飲食店は日中も営業していますし、アルコールを提供するお店も少なくありません」
それにもかかわらず、やはりラマダン期間中は観光客の足が遠のくという。そこでずばり、ラマダン期間中にもドバイという都市は十分に旅を楽しめることを周知してほしい、というのが今回ドバイに招待された経緯だった。

現地への足はUAEの〈エミレーツ航空〉で。緊急時のための機内アナウンス映像を見ていると、気分はすでに彼の地へ。
ドバイには、馴染みがないわけではない。世界で最も多く旅客機が飛び交う空港、そのひとつがドバイ国際空港だからだ。目的地として訪れる人もいれば、アジアとヨーロッパ、あるいはアフリカを繋ぐトランジット地点として利用している人も多いだろう。実際、筆者も何度か空港には降り立ったことがある。
数時間~1日のトランジットの合間でも楽しめるような旅の提案ができたら、きっと読者にとっても有意義な情報になるはず。そう思い、Tarzan Web編集部としては、ラグジュアリーなイメージのあるドバイだからこそ体験できるウェルネス体験を探す。という点に絞って現地を旅することに。その模様を前後編でお届けする(とはいいつ、普通にドバイのアウトラインを掴むため、前編ではベタな観光地を駆け足で回りました! )。

右手に見えるのが世界一の高層ビル《バージュ・カリファ》。
迫力のあるシティスケープ
空港を出てまず向かったのは、ドバイ名物、世界一の高さを誇る《バージュ・カリファ》! を間近で見られるという《アドレス・スカイ・ビュー》。床がスケルトンになった展望台からは、《バージュ・カリファ》だけでなく、数多の高層ビルが望める。ザハ・ハディドが手がけたユニークな造形の建造物なども視界に入るが、そのいずれもスケールが巨大なので、感覚が麻痺する。
あらためて一つ一つの建物にピントを合わせていくと、多くのビルの外観に”EMAAR”という文字が記載されていた。曰く、政府系の超大型ディベロッパーだという。感覚的には、ドバイをほぼ掌握しているといっても過言ではないほど、すべてのビルにEMAARの文字を見たような気がした。
《アドレス・スカイ・ビューズ・オブザバトリー》
展望台への入場料3,200円(8歳以上)。10時〜22時。要予約。
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スケスケになった足元からの風景。観光客にはお馴染みのフォトスポット。
世界一大きなショッピングモール
《アドレス・スカイ・ビュー》を降りると、そこには多くの観光客が押し寄せる《ドバイ・モール》が広がる。
Tarzan読者に馴染みのある、〈ナイキ〉や〈アディダス〉、〈ルルレモン〉といったスポーツメーカーから、〈グッチ〉や〈アルマーニ〉といったラグジュアリーブランドのブティック、そして流行しているドバイチョコなどのスイーツ売り場・カフェ・フードコートまで、1200以上のテナントが入居する世界最大級のショッピングモールだ。
《ドバイ・モール》
10時〜23時(月曜〜木曜)。10時〜0時(金〜日曜)。※季節によって変動。
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《ドバイ・モール》の外観。目の前の噴水では夜間になると美しいショーが行われる。

吹き抜けからは自然光が降り注ぎ、広大なモールに閉じ込められているような閉塞感はない。

モールの中には水族館もあった! そして、大行列だった……!

〈VIVEL〉のドバイチョコをお土産用に。チェーン店のドラッグストアで適当な歯磨き粉を自分用に購入。ショッパーが可愛い。
旧市街でラマダン文化を垣間見る。

観光客とローカルが相乗りするアブラ。
ここまでの体験では、正直自分がアラブの国を旅しているという実感は希薄だった。そこで、19世紀から、両岸を結ぶ手段として使われてきた「アブラ」と呼ばれる渡船に乗って、旧市街へ向かうことに。アブラは観光用のアトラクションでなく、市民の立派なモビリティとして活躍しているという。
ドバイ・クリークと呼ばれる入り江を渡ってたどり着いたのは、北アフリカや中東地域ではお馴染みのスークと呼ばれる市場。通りごとに取り扱う商材が分かれている、まず訪れたのは「スパイス」の市場。高級スパイスであるサフランが推しのようで、そこかしこで看板を見かける。ちなみにサフランには血行促進や精神の安定効果もあるらしい。
スパイス・スーク
10時〜22時(土曜~木曜の13時~16時および金曜の16時~22時は休)。
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少し道を外れると、ゴールド・スークへ。民族衣装に身を包んだアラブの人々が電卓を叩いて金の価格を計算している様子を見るのは、なんともエキゾチックでユニークな体験だった。


そんな調子で、異国情緒を感じながら市場を歩いていると、床に食品をずらっと並べた通りにヒットした。陽が暮れて、この日の断食が終わる。それを祝すセレモニーだという。自分たちが何不自由なく街で飲食を楽しんでいたこともあり、今がラマダン期間中だということが急に思い起こされる。

ちなみに《ドバイ・モール》の近くでは、ラマダン期間中大砲の発射セレモニーが行われていた。日没でラマダンが明けることを知らせるイベントだ。信じられないような轟音が、震えとなって身体に伝わる。
こうしたセレモニーを目にしなければ、ここがラマダン期間中のイスラムの国だという実感が沸かないほどに、ドバイは国際都市だった。観光局の担当者が言うように、ラマダン期間中だからといって、旅をする上での苦労は全くなさそうだ。
だが、だからといって、それにかまけて他の諸外国の都市を旅するだけではここに来た甲斐がない。せっかくなので、ラマダン期間中の夕食を体験するべく、《シェイク・ムハンマド文化理解センター(SMCCU)》を訪ねることに。
《シェイク・ムハンマド文化理解センター(SMCCU)》
8時〜20時(ツアーの開催スケジュールにより、閉館時間は異なる)。ラマダン期間中の夕食(イフタール)とモスク見学ツアー 7200円。ラマダン期間外には、朝食・昼食・夕食付きの”カルチュラル・ミール”というプログラムがあり、現地の人々の暮らしや文化について詳しく紹介してくれる(5,200円〜)。要予約。
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ムスリムの生活様式や文化、風俗などを丁寧に解説。この日はUAEの国営放送局も取材に訪れていた。

《シェイク・ムハンマド文化理解センター》で振る舞われた、ラマダン明けの伝統的な夕食。
ここは、イスラム教徒の生活習慣についてレクチャーしてくれる施設。たとえば一夫多妻制については「あくまで女性を大切にするための習慣。特定の妻だけを愛したりすることは許されず、すべての妻を等しく愛し、金銭、食料、住まいなどあらゆる側面からサポートしなければならない」と教えてくれた。
ラマダン中の夕食は、日中空っぽになったお腹をゆっくり刺激するため、まず一口、デーツを口に含むことから始める。筆者はすでに《ドバイモール》のフードコートでランチを済ませていたが、空腹で乾いた喉をなるべく想像しながら実践してみた。
日本ではさほど馴染みのないデーツは、果汁感こそないが、穏やかな甘みがぎゅっと詰まった、糖質がゆっくり身体に行き渡るような実感がある。砂漠の国々にとってデーツは過酷な環境でも育ち、栄養価の高い大切な植物だという(たしかに説明を受けた後に街を移動すると、そこかしこにデーツの木を見つけることができた)。

デーツの木。
デーツでゆっくりと胃を慣らした後は、ビュッフェスタイルでビリヤニやサモサ、ヨーグルトなどを取り分けていただく。地理的にイスラエルやレバノンのような中東料理を想像していたが、どちらかというと、インド料理に近い印象。ただし、辛さはない。
関係があるか定かではないが、ドバイの人口のおよそ8割はインドやパキスタンなどの国外からきた人々が中心で(200カ国ほどから移民を受け入れているという)、彼らの労働力が現地のアラブ人とともに国を支えているのだという。

《シェイク・ムハンマド文化理解センター》の方々の案内で近くのモスクに移動し、1日に5回ある礼拝の、最後の回を見学する。静かな街にアザーンが反響し、そして溶けていく。
と、ここで前編は終了。後編ではTarzanらしく、きちんとドバイで体験できるウェルネススポットを回ります!