年末年始は南半球でロードトリップとキャンプはどう?|こんな休暇、どう?

ゴールデンウィークや夏休み、年末年始の休暇をどう過ごすかはウェルビーイングにとって大事な視点だ。Tarzan Web編集部が、独断と偏見で、気分よく過ごすための休暇のアイデアを紹介する不定期連載(休むのは、やっぱり大変だからね)。初回は年末年始にアウトドアを楽しむ提案です。

文・写真/井手裕介(Tarzan Webプロデューサー)

ニュージーランドのアウトライン。

年末はみんな忙しい。だからこそ、冬休みは仕事から離れてゆっくり過ごしたい。そう思う方も多いはず。温泉に浸かってゆっくり。実家に帰省し、久しぶりに家族と語らう時間を作る。はたまた、読みたかった本にじっくり向き合う。いずれも素晴らしい過ごした方だと思う。大正解!

でもたとえば、日本とさして時差のないニュージーランドに思い切って飛んじゃうのはどうだろう。南半球だから12月〜1月は夏。温暖な気候で縮こまったカラダを伸ばして深呼吸するだけでも、行く価値があるかもしれない。

ご存知の読者も多いと思うが、ニュージーランドはアウトドア天国。「テ・アラロア」と呼ばれる全長3000kmのロングトレイルから、「世界一の散歩道」と言われる「ミルフォード・トラック」(53kmなので4日もあれば歩ける)などの景勝豊かなトレイルを筆頭に、半日〜日帰りで楽しめる山歩きのオプションが無数に存在している(ビーチも綺麗だけど、それはまたの機会に)。

小さい規模の町であれ、必ずアウトドアショップがある。最新のギアを求める需要よりは、燃料や食料補給・情報交換のための拠点となっている印象。

全国各地にオートキャンプ場が整備されていて、いずれのキャンプ場もWi-Fi・給電設備・トイレ・シャワー・キッチンなどが充実。専用のアプリで道中に立ち寄れるキャンプ場を気ままにチェックして予約ができるなど、インフラが整っておりキャンプ初心者にも優しい。

そんなわけで子どもから老人までがごく自然に、キャンピングカーでロードトリップするカルチャーが根付いているのだ。

キャンピングカーに給電するためのプラグが一定の間隔で用意されているキャンプ場。

多くのオートキャンプ場にはバンガローも併設。テント泊・車中泊など、ニーズに応じて宿泊スタイルを選べる。

キッチンや食堂(電気やガスも使えるから、普通の調理器具を持ってきている家族連れも多い)も用意されており、感覚としてはキャンプ場というより、ユースホステルのような趣。

冷蔵庫にストックされた食材。自分の名前を書いて入れておく。

専用アプリの画面より。

ロードトリップと聞いて身構えることなかれ。交通事情は、車よりも羊のほうが多いくらい牧歌的。そしてなによりニュージーランドは旧イギリス領。つまり左車線・右ハンドル。日本のそれと環境は全く同じだ。しかるべき手続きを踏めば即日で発行される国際免許証さえあれば、なんの気苦労なく、運転を楽しむことができる。

アウトラインはここまで。どう? いますぐ行きたくならない? 

でも、すでに12月半ばだしなあという方も大丈夫。だって僕は去年、クリスマス直前にあらゆる予約を済ませて出かけたから。

曖昧になりかけている記憶を掘り起こして、超私ごとを交えながら、旅の魅力を伝えよう(旅なんてのはパーソナルなものだから、すべては私ごと、だ)。

こんな旅をしました。

12月中旬。マガジンハウス社内の人事異動の告示が発令。入社から8年間所属した『Casa BRUTUS』編集部を離れて、僕は『Tarzan』編集部に移ることになった。しかも、ウェブの責任者を務めることになるらしい。ずっと紙の雑誌で、建築やインテリアの特集を担当していたので、正直面食らう。

どうしようかな。年末年始、悶々としそうなので旅に出ようと思い立つ。

サラリーマン編集者としては我ながら時間をうまく捻出しながら旅を楽しんでいるタイプだと思うけれど、年末年始に海外に出かけるのは初めて。寒いところが苦手なので行き先の候補として南半球や東南アジアが浮かぶ。

だいたい10年前、学生の頃にアメリカ西海岸のロングトレイルを半年かけて歩いたことがある。そのときに抱いていた仕事や人生への思いにもう一度触れられたらいいな、そんなウェットでセンチな気持ちで、キャンプ旅を思いつく。

行き先はそうだ。暖かくて時差のないニュージーランドがいい。ハードコアなトレイル旅でなく、気ままにキャンプをするような時間を過ごすのが今の自分にはフィットしそうだ。

ロードトリップへの憧れはずっとあった。学生の頃に見た60~70年代のアメリカンニューシネマの刷り込みかな。これまで出張や個人旅行で重ねてきたシティを徘徊する旅よりは、A地点からB地点に向かう、「道が主役となるような」旅がしたい気分だった。

こと今回に限っては、そのほうがいろいろ悶々としなくていいだろう。シティにいると仕事のネタみたいなものを意識してしまいそうだしね。

Googleマップをスマホで開いて、道路状況を確認。始点をクライストチャーチに、一旦の目的地をそこから西に756kmのミルフォードサウンドに設定した。帰り道はまあ、適当に。

ニュージーランドの国土はおよそ北島と南島に分かれており、今回旅をしたのは、より広く、国立公園の数も多い南島。

レンタカーの予約は正直難航した。年末年始のニュージーランドはキャンプのハイシーズン。話に聞いていたよりもプライスは高いし、そもそも12月半ばに問い合わせたところで車の空きがない。いくつかのキャンピングカー予約サイトはAI予約に対応しているが、好ましい条件を打ち込んで問い合わせても、AIにたらい回しにされる始末。

出発まで時間がなかったのでしびれを切らして国際電話で条件を伝えて返答を待つ。いずれの会社も、なぜかインド人のスタッフが多かった。余談だが、インド人の英語は比較的聞き取りやすいので助かる。

一人旅だったので豪華なキャンピングカーはいらない。〈トヨタ〉の《エスティマ》を改装し、フルフラットになるシート、荷室に簡易なキッチンがついている、という条件の「外装はほぼ普通車」なキャンピングカーの予約に成功した。テントも持っていくので、最悪キャンプサイトで野営すれば、キャンピングカーの寝心地に執着する必要もないだろう。

さあ旅のはじまり! と思ったけれど、旅の具体的な模様をテキストでつらつら書いていると、この記事をアップするのがもっと後ろ倒しになってしまいそうなので、ここから一気に写真とキャプションで済ませてしまおうと思う。

結論からいうとこの旅に出かけて本当によかった。

一人延々と車を走らせたり、山を歩いたり「移動し続ける」時間を持てたことで、悶々とした気持ちを適度に手放せた一方、自分の思考を整理することもできたからだ。

Tarzan Webのリニューアルの構想は、ハンドルを握って羊ばかりの道を一人走らせる時間に。雨音を聴きながら身体を横たえたテントの中で過ごした夜に。トレイルを歩いて上がった息を整えるためにふと立ち止まったときに。少しずつつ、アイデアとして蓄積したように思う(あ、ちょっと美化しすぎてるかも)。

旅の模様を写真でお届けします。

ホワイト・ホース・ヒル・キャンプグラウンドから数時間のトレッキングでニュージーランド最高峰のマウント・クックを臨む。

ホワイト・ホース・ヒル・キャンプグラウンドを起点としたミューラー・ハット・ルートと呼ばれるトレイルを登っていく。

ホワイト・ホース・ヒル・キャンプグランドから標高差1000mほどを登る。前方にミューラー氷河が姿を現した。
轟々と音を立てて、氷が溶けていく様子を眼前で捉える。風が強く、思わずしゃがみ込む。

キャンプサイトを出発して4時間。ミューラー・ハットに到着した。少し休憩して、来た道を折り返す。風が強く、外に出るのが少し憂鬱だったが、日が暮れる前に下山しなくては。

延々と似たような風景が続く道を走らせていると、そこかしこで羊の群れと出くわす。ニュージーランドはメリノウールの一大産地。〈アイスブレーカー〉などのアウトドアブランドが拠点を構える。

ガソリン休憩の合間にコーヒーブレイク。スリフトストアに立ち寄ったりと、それなりに”シティライフ”も楽しんだ。

晴天率の高さから美しい星空で知られるテカポ湖でキャンプをした翌朝。湖畔を散策。

人だかりができていたので立ち寄ると、バンジージャンプを見物する群衆だった。なんでも、バンジージャンプの発祥は1980年代、クイーンズタウン近くのカワラウ橋で二人の若者が飛び降りたことに端を発するのだとか。

マウント・アスパイアリング国立公園内のささやかなトレイルを歩く。
緑生い茂るトレイルを歩いていると、1月だということを忘れて、カラダが軽くなるような気がした。

ミルフォード・サウンドへの玄関口、テ・アナウのキャンプサイトで一緒になったハイカーが教えてくれたレイク・マリアン・トラックを歩く。

ミルフォード・サウンドのトレイルを歩く。このあたりは湿度が高いため、バグスプレーの塗布が推奨されている。

小さい子どもたちがウォータースライダーに興じている姿を視界で捉え、車を止める。南半球の1月の風景。

アグレッシヴに移動をしなくても、美しい湖畔で、あるいは氷河輝く山嶺の麓でキャンプをしながら読書をしたり、手の込んだ料理を楽しんだりする時間もきっと楽しいはず。

年末年始のオプションとして、ニュージーランドはいいよ。きっとまだ間に合う!