肥満解消や便秘改善まで?腸内細菌が担う5つの可能性。

昨日デコボコだった道路が翌朝に整えられているのは、見えないところで働いてくれた人がいたおかげ。腸活も、そんな陰の“工事人”たちの仕事があってのもの。気づかぬ間に腸を整えてくれる、菌たちの知られざる工事とは。

取材・文/石飛カノ イラストレーション/中根ゆたか 取材協力/内藤裕二(医学博士、京都府立医科大学大学院医学研究科教授)

初出『Tarzan』No.909・2025年8月12日発売

腸内細菌のありがたすぎる5つの仕事

1.健康寿命を延ばす可能性アリ。

健康寿命延ばしています

腸活は腸内環境を整えるだけでなく、人の健康全般にも役立つ。近年、健康維持の立役者として注目されるのが、腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸だ。

「ただ、短鎖脂肪酸と老化や長寿を直接結びつけることは今のところ難しいんです」

と言うのは腸内細菌研究の第一人者、内藤裕二先生。

「マウスレベルの研究ですが老化を抑制する可能性に注目されているのがアッカーマンシア菌です」

遺伝的に短命のマウスにアッカーマンシア菌を投与した実験では腸管上皮の若返りや筋肉量の増加、そしてなんと寿命の延伸が確認されたという。

とはいえ残念なことにアッカーマンシア菌を主に持っているのは欧米人で日本人にはほとんどこの菌は見られない。未だ研究段階だが将来的に国内でもサプリメントが登場するという話もあるそう。

2.代謝物で腸の動きにアプローチ。

便秘改善中

腸内の細菌分布を腸内(腸内フローラ)という。善玉菌が優勢で、いい感じのお花畑状態なら便の調子もバッチリなはず!

意外なようだがそうとも言い切れない。実はその人が持っている腸内細菌叢が便秘や下痢といった便の状態にどう関わっているのかは、まだ詳しく分かっていないというのだ。

「ただ、腸内細菌そのものではなく腸内細菌の代謝物が便の調子や腸の動きなどに関わっていることは明らかになっています」

腸内細菌の代謝物とは、もちろん短鎖脂肪酸のこと。

「たとえば酢酸のような短鎖脂肪酸は、腸管の上皮細胞が働くためのエネルギーになります。ビフィズス菌入りヨーグルトで便通が改善するのは、ビフィズス菌そのものではなく、ビフィズス菌が作る酢酸の作用と考えられます」

3.暴走を制御!免疫システムの調整役。

免疫システムを調整中

口から摂り入れた栄養素の入り口、小腸は免疫のフロントラインだ。腸は“内なる外”。食べ物と一緒に運ばれてくる細菌やウイルスの関所だけに、全身の約7割の免疫細胞がここに集結している。

それに加えて最近、注目を集めたのが短鎖脂肪酸の一種・酪酸が、アレルギーなどの免疫が暴走する事態を防ぐというトピックだ。

「行き過ぎた免疫反応を制御する制御性T細胞という免疫細胞があります。細胞や動物を使った実験では酪酸がこの制御性T細胞を誘導することが報告されています」

アレルギーだけでなく酪酸は感染症にも影響する。コロナ禍で重症者や感染後の後遺症が続く人は酪酸を作る腸内細菌が少なかったことが報告されているのだ。

「酪酸産生菌が少ない人と多い人を追跡調査すると文句なしに前者の方が感染症による死亡や入院の率が高いという論文もあります」

4.肥満対策の強力な助っ人候補。

肥満を解消しています

無菌マウスに肥満マウスの腸内細菌を移植したら、たちまち太っちょに。この報告によって腸内細菌研究は世界的に広まった。一時期はファーミキューテス門に属する菌は“デブ菌”、バクテロイデス門に属する菌は“ヤセ菌”と名づけられ、大いに話題を呼んだ。

「その後の研究で日本人に関してはこれらの菌と肥満に相関関係が見られないことが分かりました。さらに、日本国内の研究で分かってきたのは太っていない人に多いブラウティア菌という“ヤセ菌”と、肥満の人に多いフシモナス菌という“肥満菌”の存在です」

いずれも動物実験だが、前者は肥満マウスにこの菌を投与すると高脂肪食を食べさせても太りにくく、後者はこの菌が腸内に存在すると高脂肪食の摂取でより肥満になりやすいことが証明されている。今後、ヒトの試験が進めば肥満対策の強力な手段になる可能性は大。

5.脂質の代謝力に要注目。

脂質代謝中

最後は現在、最もホットな話題のひとつとして注目されている脂質代謝のお仕事。脂質の消化には、肝臓で作られ小腸に送られる胆汁酸が必須。胆汁酸が脂質を包み込み乳化することで初めて、消化酵素による分解が促されるから。

ところがこの胆汁酸、毒性がかなり高いためアミノ酸がくっついていてそのままでは機能しない。ヒトは自力でアミノ酸のバリアを外せないが、それを代わりに外してくれるのが腸内細菌というわけ。

「ビフィズス菌はその役割を担う腸内細菌の一つ。アミノ酸を外してできた胆汁酸を“一次胆汁酸”と言いますが、脂質の消化吸収のほか、体内時計の調整にも関わっていることが分かっています」

ちなみに一次胆汁酸の副産物の二次胆汁酸の代謝物は長寿に関連するという説もある。腸活で得られるメリットは底知れない。感謝。