血糖値の最新ニュース。時代はベジファーストよりオイルファーストだ!
血糖値にまつわる最新のニュースを、専門家の解説とともにお届け。食後の“血糖値スパイク”の対策法や、血糖値上昇を抑えられるお酒の飲み方など、今日からすぐ実践できるアイディアばかりだ。
取材・文/井上健二 イラストレーション/世戸ヒロアキ 取材協力・監修/山田 悟(北里大学北里研究所病院糖尿病センター長)
初出『Tarzan』No.898・2025年3月6日発売

教えてくれた人
山田 悟(やまだ・さとる)/北里大学北里研究所病院院長補佐、糖尿病センター長。慶應義塾大学医学部卒業。日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医。カロリー制限中心の食事療法から、緩やかな糖質制限食への大転換を図るパイオニア。医学博士。
目次
食後の疲労。原因は糖質の摂りすぎかも。
血糖値を上げるのは糖質のみ。ゆえに血糖値が気になるなら、糖質を摂りすぎないのが鉄則。それが日頃から感じる食後の「疲れやすさ」の軽減につながるかもしれない。
「なぜなら糖質の過食で“糖質疲労”を起こしている人が少なくないからです」(北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟先生)
糖質疲労の元凶は、食後高血糖と血糖値スパイク。食後高血糖とは、血糖値を下げるインスリンの作用が追いつかず、通常100mg/dl前後の血糖値が食後140mg/dl以上になること。その後、遅れて効き始めるインスリンで、血糖値は急激に下がる。この乱高下が血糖値スパイクだ。
血糖値が下がりすぎると疲れ、眠さ、イライラといった糖質疲労の症状が出る。また食後なのにすぐ小腹も空く。午後の仕事効率を上げるためにも、糖質は適切に摂ろう。
糖質疲労チェック
- 食後に疲れる、眠い、イライラするといった自覚がある。
- 食べてすぐに小腹が空いてくる。
- 食後血糖値が140mg/dL以上になっている。
食後の疲労感の原因が過労や睡眠不足、病気の可能性もある。血糖値はドラッグストアや薬局の「検体検査室」で検査してみよう。
時代はベジファーストからオイルファーストへ。
一時期、野菜から食べるベジファーストが流行った。血糖値が上がりにくく、太りにくいというのが謳い文句だ。
「野菜に含まれる食物繊維が血糖値の上昇を抑えるとされましたが、より効果的なのは植物油などの脂質から先に摂るオイルファースト。ベジファーストの実験も野菜にオリーブオイルをかけて調べていたので、実際はオイルファーストで血糖上昇が抑制されていた可能性が高いのです」
なぜオイルファーストだと血糖は上がりにくいか。鍵は、脂質を摂ると小腸から分泌されるGIPという消化管ホルモン。GIPは食欲を抑えるうえ、血糖値を下げるインスリンの分泌を早める。このため、その後から糖質を摂っても血糖値は上がりにくいのだ。
なおタンパク質を摂ると出る GLP—1というホルモンにも同様の作用がある。
米粉や全粒粉にするより小麦粉の量を減らすべし。
欧米人には、小麦やライ麦などに含まれるグルテン(小麦タンパクの一種)にアレルギーを示す人がいる。それがセリアック病。アメリカ人の罹患率は約1%とされる。セリアック病の人がグルテンを避けるグルテンフリーにすると、アレルギー症状が治まり体調は良くなる。
でも、セリアック病ではない人が、小麦粉の代わりに米粉やそば粉を用いたパンや麺類を食べても何ら恩恵はない。
グルテンフリー=ヘルシーというイメージも強いが、小麦粉と同じく米粉もそば粉もでんぷん食品で糖質の固まり。血糖値は容赦なく上がる。
玄米や全粒粉パンのように、精製度の低い茶色の穀物は食物繊維が多く血糖値は上がりにくいというが、糖質量はほぼ同じ。グルテンフリーだから安心、未精製だからOKと油断して食べすぎると、血糖値は上がる。糖質量に目を向ける方がずっと大事だ。
そもそも糖質とは?もう一度整理しよう。
糖質と炭水化物は混同されるが、炭水化物は糖質と食物繊維を合わせたもの。食物繊維は分解も吸収もされず、大腸内で腸内細菌の餌に。糖質にはおもに単糖類、二糖類、多糖類、糖アルコールがある。単糖類のブドウ糖や果糖などと、二糖類の砂糖や乳糖などを合わせて糖類と呼ぶ。多糖類にはでんぷん、糖アルコールにはキシリトールなどがある。
ナッツを食べてから糖質を摂ると血糖値が抑えられる。
日常生活でオイルファーストを手軽に実践する際、頼れる相棒になるのがナッツ。クルミ、アーモンド、ヘーゼルナッツなどだ。これらのナッツは低糖質で、オレイン酸やオメガ3脂肪酸といった脂質がリッチ。
加えて食物繊維、ビタミン、ミネラルといった必須の栄養素も入っている。いずれもナトリウムを排泄するカリウムを野菜以上に多く含むので、高血圧予防にも役立つ。
口寂しくなったら間食としてポリポリ食べたり、食事の前に摂ったりすると、オイルファーストで血糖上昇と食べすぎが自然に抑えられる。
目安は1食30g。常温で保存できるから、個包装のミックスナッツを持ち歩けば、必要なときにすぐ食べられる。不要な塩分の摂取を避けるために食塩不使用、油の有害な酸化を誘発しないようノンフライでローストしているシンプルなものを選んでほしい。
“乾杯習慣”が血糖上昇にブレーキをかける。
会食などでオイルファーストを封じられ、ナッツも手元にない場面もあるだろう。そんな時は食べ物を口にするより先に、お酒を飲んでみよう。血糖値の上がり具合が抑制できるからだ。
「アルコールは肝臓で代謝されます。肝臓は“糖新生”という働きで血糖値を保ちますが、飲酒後はアルコール代謝を優先させるので糖新生が一時的に減少。そのためか血糖値が上がりにくいのです」
この“乾杯習慣”の注意点は2つ。
1つ目は、糖質を含まないお酒を選ぶこと。ビールや日本酒のように糖質多めだと、それで血糖値が上がる恐れがある。糖質を含まない糖質ゼロビール、ハイボール、辛口のスパークリングワインなどで乾杯しよう。
もう一つは飲みすぎないこと。糖質ゼロのお酒でも飲みすぎると、たとえ血糖値が上がらなくても肝臓の負担となるし、痛飲すると血圧も上がる。2杯くらいに留めたい。
糖質制限は減塩にもつながる。
高血糖・糖尿病と並ぶ、動脈硬化の誘因が高血圧。高血糖を避けるのに糖質の制限が有効なように、高血圧の予防には減塩が効く。そして減糖を進めると減塩にもつながり、一石二鳥なのだ。
糖質を減らすと、相対的に脂質の摂取が増える。和食のように脂質控えめだと塩分多めでないと満足できないが、脂質多めだと薄味でも満足できる。糖質制限でご飯を控えると、味噌・醬油を多用する和食の一汁三菜のしょっぱさが際立ち、減塩につながる。
「都道府県別に脂質摂取量と塩分摂取量と比べると、ほぼ逆相関します。対照的なのは沖縄県と東北地方(青森、秋田、岩手、山形各県)。沖縄県では脂質摂取量が多く塩分摂取量が少ない反面、東北地方では塩分摂取量が多くて脂質摂取量は少ないのです」