風邪や咳、そして湿疹やニキビにも効果あり。【肺】に効く漢方薬6選。

【肺】と聞くと喉の痛みや喘息などの悩みを思い浮かべるかもしれない。だが、実は肺の不調は免疫機能や皮膚機能にも影響を及ぼす。たとえば風邪や咳のみならず、赤ニキビやアトピーに悩む人は、【肺】にまつわる漢方が症状を和らげてくれることも。

取材・文/鍵和田啓介 取材協力/杉山卓也(漢方のスギヤマ薬局)

初出『Tarzan』No.895・2025年1月23日発売

不調別漢方カタログ
教えてくれた人

杉山卓也(すぎやま・たくや)/薬剤師・漢方アドバイザー。あらゆる人生相談に乗れる漢方薬剤師をモットーに、寄り添った相談を受ける。講師として年100回を超えるセミナーも開催。近著『「漢方」を仕事にしたいと思ったら読む本』(翔泳社)が2月25日に発売。

【肺】呼吸を管理し気を散布する、津液のスプリンクラー。

肺は呼吸を管理し、呼吸で取り入れた酸素(清気)から気を作る働きを担う。また、水分代謝を促す機能や、免疫機能、また皮膚機能も司っている。表裏関係にあるのは大腸であるため、肺の失調が大腸に影響を与え、便秘などを引き起こすことも。

肺に集められた気や(体液)を皮膚や上半身に散布する機能(宣発作用)を有し、これが弱まると皮膚異常やウイルス、細菌、花粉などへの抵抗力が低下する。同時に、気や津液をカラダの内部(内臓)や下半身に運ぶ機能(粛降作用)も。

生活習慣の心掛け。
  • 部屋の湿度を適切に保つ。
  • 早寝早起きを心がける。
  • 深い呼吸を意識する。

アレルギー性鼻炎|小青竜湯(しょうせいりゅうとう)・苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)・衛益顆粒(えいえきかりゅう)。

小青竜湯は、麻黄、桂皮、細辛、乾姜、 五味子、半夏、芍薬、甘草を配合。苓甘姜味辛夏仁湯は、半夏、杏仁、五味子、茯苓、 細辛、乾姜、甘草を配合。小青竜湯と苓甘姜味辛夏仁湯は、急性的なアレルギー症状を短期的に抑えるために使われる。ただし麻黄を使う小青竜湯の継続服用は注意が必要。

衛益顆粒は、黄耆、白朮、防風を配合。慢性化した症状の場合は、衛益顆粒を長期的に使用することで、根本からの改善を促す。

水を飲むとまず胃に入り、脾がカラダにとって要か不要かに分類。有益な水は肺に上がり、全身に散布されるが、肺が弱ると難しくなる。結果、水が溜まり、本来とは別の場所から出てしまうのが鼻水。一方、肺に溜まった水の量を調整するのが小青竜湯や苓甘姜味辛夏仁湯で、肺自体の調整能力を回復させるのが衛益顆粒。

風邪(悪寒・鼻水・咳・喉の痛み)|葛根湯(かっこんとう)・銀翹解毒散(ぎんぎょうげどくさん)・柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)。

葛根湯は、麻黄、桂皮、生姜、葛根、 芍薬、甘草、大棗を配合。悪寒を伴う風邪に用いられてきた桂枝加葛根湯に、発汗を促す力を増強されている。

銀翹解毒散は、連翹、金銀花、淡竹葉、薄荷、牛蒡子、 淡豆豉、荊芥、桔梗、羚羊角、甘草を配合。消炎作用や解熱作用がある。

柴胡桂枝湯は、桂皮、生姜、柴胡、黄芩、半夏、人参、大棗、芍薬、甘草を配合。感冒後期の症状に有効。

まず見極めるべきは、寒けがある風邪なのか、熱が出る風邪なのか。前者の場合は体を温める葛根湯が、後者の場合は熱を取り除く銀翹解毒散が効くが、逆転させて使用すると、それぞれの症状が増悪するので要注意。その後、いずれの風邪の場合も、長期化しウイルスが内臓の中に侵食してくる、半表半裏という状態になる。その段階に至ったら、体力の消耗をサポートする柴胡桂枝湯。

咳・痰|半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)・麦門冬湯(ばくもんどうとう)。

半夏厚朴湯は、半夏、生姜、茯苓、厚朴を配合。痰が頻繁に出てくる咳に。

麦門冬湯は、麦門冬、人参、大棗、甘草、粳米、半夏を配合。痰が絡んでいるが、喉の奥に引っかかって出てこない空咳に有効。

痰が多い咳は、ストレスにより胃に停滞した水が、喉のあたりまで上がったために生じる。だから、気を巡らせ、水の停滞が生んだ痰を除去する半夏厚朴湯。痰がつかえた空咳は、肺が極度に乾燥している場合に発症するので、麦門冬などカラダに潤いを与える生薬で構成された麦門冬湯を。

赤にきび|清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)。

防風、荊芥、薄荷、川芎、白芷、桔梗、 連翹、山梔子、黄連、黄芩、甘草、枳実を配合。顔の化膿性の皮膚炎症のにきびによく使用される。

にきびのタイプによりアプローチすべき臓腑は異なるが、赤にきびは、肺の不調により、カラダに溜まった熱がうまく外に発散できないのが原因であることが多い。毛穴を開いて発汗させ、熱を取り除く作用のあるものが有効。

アトピー・湿疹・皮膚炎|荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)・消風散(しょうふうさん)。

荊芥連翹湯は、荊芥、防風、白芷、柴胡、薄荷、連翹、 黄連、黄柏、黄芩、山梔子、地黄、 当帰、芍薬、川芎、桔梗、枳実、甘草を配合。皮膚粘膜の過敏な人の改善薬のひとつ。

消風散は、防風、荊芥、蟬退、牛蒡子、 石膏、知母、苦参、蒼朮、木通、 当帰、胡麻、地黄、甘草を配合。症状が繰り返し出現し、場所も移動しやすく、かゆみにむらがある場合に使用される。

肺は粘膜や皮膚とも連携しているため、肺が弱れば粘膜も弱る。結果、外から侵入してくるものに対する抵抗力が低下し、肌が炎症を起こすことも。したがって、肺の働きを調整し、炎症を鎮め、かゆみを取る荊芥連翹湯や消風散が有効。

喘息|平喘顆粒(へいぜいかりゅう)・滋陰降火湯(じいんこうかとう)。

平喘顆粒は、紫蘇子、半夏、陳皮、前胡、桂皮、 厚朴、当帰、大棗皮、生姜、甘草を配合。肺に溜まった痰を除去する作用に優れている。

滋陰降火湯は、麦門冬、天門冬、地黄、芍薬、当帰、 黄柏、知母、白朮、甘草、陳皮を配合。血や有益な水の不足により、熱を持ったカラダを改善する作用がある。

喘息は2つのタイプに大別できる。ひとつは肺の中に痰などが溜まり、熱を持ったことで発症するタイプ。それを除去してくれるのが平喘顆粒。一方、肺の中がからからに乾燥している場合の喘息には、麦門冬、天門冬などで潤いを回復させる滋陰降火湯を。

※紹介する漢方薬には保険適用外のものも含まれています。