「猫背ならではの影や憂いに、人は魅力を感じる」舘ひろしの姿勢哲学
世の中にはそこに立っているだけで周囲の視線を惹きつける人もいる。「美しく立つこと」が仕事に必要不可欠な人に、姿勢に対する哲学を聞いた。今回は、俳優の舘ひろしさん。何気なく立っているだけなのに、皆の視線が釘付けになるほど美しい立ち姿だが、本人はそれほど姿勢の良し悪しは気にしていないよう。
取材・文/河野友紀 撮影/内田紘倫 スタイリスト/中村抽里 ヘア&メイク/岩淵賀世
初出『Tarzan』No.879・2024年5月9日発売
姿勢がいいなんて言われると、自覚がないから緊張します
何気なく立っているだけなのに、皆の視線が釘付けに。スラリと長い脚に広い肩幅でスーツを着こなす俳優の舘ひろしさん。2024年で74歳とは思えない美しい立ち姿に、スタッフ一同感嘆。しかし自身はまったくそうは思っていないようで…。
「立ち姿が美しい? まさか! 全然美しくないですよ。僕、高校時代にラグビーをやっていたから、その影響ですごく猫背なんですよ。
小さい頃からずっと背が高いから、人より頭が出るのが嫌で縮こまっていたし。その後不良になってからは、悪いことをしたのがバレないようになるべく小さくなってた(笑)。
それに加えていかり肩だから、気付くと肩が前に出ちゃう。だから、“姿勢がいいですね”なんて言われると、逆にドキッとしちゃうよね」
本人の言葉とは裏腹に、猫背にはとても見えない姿。ほどなく公開される映画『帰ってきた あぶない刑事』でも、かつてと変わらぬ魅力的な体軀で、横浜の街を疾走している。
「キャストの中で一番姿勢がいいのは恭サマ(柴田恭兵さん)じゃない? 彼は昔ダンスをやっていたから今も肉体が強靱だし、背すじがビシッとしてる。
あと(仲村)トオルも実は僕より姿勢がいいですよ。僕は洋服に助けてもらっているだけ。カラダに合ったスーツを着ていると、姿勢よく見せられるのかな。そうやってみなさんを騙しているんですよ(笑)」
強いて言うなら、乗馬と洋服のおかげです
カラダのためにとジムに入会したが、10年間一度も行かなかった過去を持つほどのトレーニング嫌い。とはいえ、まったく運動しないわけではなく、乗馬とゴルフは嗜む。
「確かに馬に乗るときは嫌でも背すじが伸びます。いつもは姿勢に全く無頓着な僕もそのときだけは意識をしますね。そのおかげで少しは姿勢がよくなった…かもしれません」
俳優という仕事柄、常に360度、周囲から見られている、と自覚してはいる。が、“まっすぐきれいに立つべき”といった意識は持たない。そこには、エンターテインメントの世界で働くからこその哲学がある。
「例えば、ジェームス・ディーンって、少し前かがみだったりするじゃない? その部分に人は影や憂いを見て、魅力を感じるのではと思うんです。
机の上に、真四角の動かない置物と、ゆらゆら揺れるオブジェがあったら、人の目は揺れるオブジェのほうに向くでしょう? エンターテインメントって、そういうことだと思う。
だから僕に限っては、猫背は治さなくてもいいと思ってます…って、企画を否定しちゃいけないよね、ごめんね(笑)」
ただ、年齡を重ねた今、一つ危惧していることがあるらしい。
「最近、身長が縮んだ気がしていて。映画の撮影でも、2人で並ぶと“あれ、恭サマ身長伸びた!?”なんて思ったんですよ。それはちょっとイヤだし、やっぱりもう少し姿勢がいいほうがいいですね。これからのために頑張って背すじ伸ばそうかな」