男性脳・女性脳|男女の脳が違う説、根拠の乏しい通説だった
理論的に考えがちだから「男性脳」、空気を読むのが得意だから「女性脳」。といった調子で、男女差を表す例として挙げられる男性脳、女性脳という言葉。実はこれ、根拠に乏しいことが最新の研究でわかってきた。
取材・文/黒田創 イラストレーション/村上テツヤ 編集/堀越和幸
初出『Tarzan』No.850・2023年2月9日発売
四本裕子教授
教えてくれた人
東京大学大学院総合文化研究科
よつもと・ゆうこ/東京大学卒業後、米ブランダイズ大学大学院で博士号取得。ボストン大学、ハーバード大学医学部付属マサチューセッツ総合大学リサーチフェローなどを経て2022年より現職。
男性脳と女性脳の違いは本当にある?
男女差を表す例として「男性脳」「女性脳」という言葉を見聞きしたことがあるはず。男性脳はデータなどの根拠を元に論理的に考えがちで、一方の女性脳はその場の感情や共感性を重視する…といった具合に。
しかしこの男女の脳が違う説、実は根拠に乏しいという。認知神経科学や知覚心理学が専門の東京大学大学院教授の四本裕子さんはこう話す。
「1980年代に男女間では左右の脳をつなぐ脳梁の太さに差があり、女性の方が太いという研究結果が発表されました。
これを元に、今に至るまで女性は左脳と右脳をうまく使ってその場の空気を読みながら話したり、マルチタスクをこなせるといった説が生まれているのですが、そもそもこの研究自体がごく少数の臨床データを元にしたもので、信憑性に欠けます。
最新のМRI解析では、脳梁の太さに明確な男女差はないこともわかっています」
脳や能力、思考の違いは性差より個体差や社会構造によって左右される部分が大きい。
国別で異なる男女の空間認知能力
世界57か国、約55万人が空間認知力を計測するゲームを行ったところ、ジェンダー・ギャップ指数が低い(男女間格差が小さい)国ほど空間認知能力の男女差も小さい傾向が明らかに。特に北欧諸国において顕著だった。
「空間認知能力が高い男性の方が女性よりも地図を読めるといわれますが、男女の社会的格差が少ない国ほど空間認知能力についても差がないことが最新の研究でわかっています。
また、男性の方が女性よりも競争が好きという説も社会構造により変わってくる。伝統的な母系社会であるインドのカーシ族においては、女性の方がより競争を好むことが明らかになっています(下グラフ参照)」
各国の競争を好む男女比の違い
3つの民族を対象に、競争で報酬を得るゲームと、一人で黙々と作業をこなすことで報酬を得るゲームを選ばせたところ、女系社会のカーシ族では多くの女性が前者を選んだ。
脳は加齢や学習、生活環境によって柔軟に変化するもの。根拠の乏しい通説を元に「男性はこう」「女性はこう」と決めつけるのは早計だ。