「写真を撮っているといつの間にか歩いている」笑いとウェルビーイング。かが屋・加賀翔(前編)

笑うことは心身の健康に良いと言われています。では、日々誰かを笑わせているお笑い芸人は、自身も健やかな状態になっているのでしょうか。芸のために筋肉を鍛えることもあれば、不摂生が爆笑を生むこともある。ウェルビーイングの形は人それぞれです。本連載では放送作家の白武ときおさんが聞き手となり、芸人一人ひとりが考える「笑いとウェルビーイング」を掘り下げます。今回のゲストは、かが屋の加賀翔さん。前編では、身体のケアや散歩の習慣、写真を撮る楽しみについて聞きました。

interview: Tokio Shiratake edit,text: Neo Iida photo: Wataru Kitao

Profile

加賀翔(かが・しょう)/1993年、岡山県生まれ。2015年、賀屋壮也とお笑いコンビ・かが屋を結成。『キングオブコント』では2019年、2022年に決勝進出。写真家としても活動し、芸人を撮影した写真集『芸人地図』を刊行。2025年には中森明菜を撮影した写真展も開催した。

身体が凝り固まると、機嫌も悪くなりがち。

白武ときお(以下白武)
最近は忙しいですか?
加賀翔(以下、加賀)
そうですねえ、生放送のラジオをいくつかやって、その合間でアートフェスティバルのイベントにMCとして登壇して、写真家として100人のカメラマンの前でトークイベントをしたりしました。
白武
いろんなジャンルの仕事があるんですね。
加賀
なんていうか、知らない忙しさでした。芸人を志した時に、まさかこういう忙しさになるとは思っていなかったので。
白武
身体の調子はどうですか?
加賀
たぶん今がいちばん健康的な生活をしていますね。

白武
でもそれだけ忙しいと移動も多いんじゃないですか?
加賀
そうですね、移動が特に苦手なんですよ。新幹線で移動する時なんて、腰の筋肉が固まって痛くなっちゃって。絶対に通路側の席を取って、1時間に1回デッキに行って体をほぐしています。
白武
身体が凝りやすい?
加賀
そうかもしれないです。身体の調子が能力に直結するというか、凝り固まると明らかに機嫌も悪くなりますし、例えば首を痛めたら顔つきが厳しくなっちゃうんですよ。そういうのもよくないなと思うから、ちゃんとほぐさないとなって。
白武
家でもケアはしていますか?朝とか夜のルーティンは?
加賀
僕の朝はすごいですよ。まずゴザみたいなマットを敷いて、座禅的なことをします。まあ今日から始めたんですけど(笑)。ずっとやってみようと思っていて、ついにゴザを買ったんです。夜は、昨日は移動が多かったんで、固まっている腰をほぐして、筋膜ローラーみたいなやつを腰に敷いて、ゴリゴリゴリってやって寝ました。
白武
色々やってるんですね。なかでも大事にしていることは?
加賀
ギリギリまで寝る、ですね。本当にギリギリ。タバコを吸っていた時は、すごい早起きだったんですよ。何が何でもタバコを吸いたいので。今やめて5年になるんですけど、今は朝がめっきり弱くなって。不思議なもので健康にはなったはずなのに、もっと寝たい。
白武
普段は何時起きですか?
加賀
10時くらいですね。
白武
そうなんですね。僕、加賀くんは勝手に5時に起きちゃうと思ってました。
加賀
白武さんからはずっと「いちばん身近なおじいさん」って言われてきましたけど、今は10時起きです。わりと寝てます。
白武
失礼しました。どうしてそうなったんですか?
加賀
もしかすると夜24時までの生放送をやらせてもらっているのがきっかけかもしれないですね。ちょっと遅いので、帰って寝るとそれくらいになっちゃう。

白武
散歩も好きですよね。最近はどうですか?
加賀
それが、あんなに毎日歩いていたのにあんまりやらなくなっちゃったんですよ。仕事がゆったりしている時はできていたんですけど、カメラを持ち運ぶのにキャリーケースを持つから、しづらくなってきたというか。あと、よく行く公園が工事をしていて、そのせいもあるかも。2年くらいかかる工事に入っちゃって。
白武
街を歩くわけにはいかないんですか?
加賀
それが、ルーティン化してたんですよ。コツコツ3分だけ、5分だけ、って分数を伸ばしながらその公園の外周を歩いてたんです。今は入れないと思ったら諦めて引き返しちゃう。それで気持ちが冷めちゃって、習慣が途切れてしまったんです。愚かですね、本当に愚か。

ダンベルのトレーニングをしたら向いてないと言われた。

白武
身体をケアするためにやっている習慣はありますか?
加賀
整体は月に2、3回行くようにしています。僕は骨骨しい人間なので、なんかダメージを受けやすいんですよね。脂肪がないのはいいことでも悪いことでもあるらしくて、こわばりやすいんですよ。だからもう習慣づけていくようにしていて。筋肉をつけないとなと思って一回ジムにも行ったことがあるんですけど、ダンベルを持ってやってみたらすぐ痛めちゃって。病院に行ったら「どういう仕方をしたらこうなるんですか?」って。こうして、こうして……って説明したら、「たぶん向いてないから、ご自身で独学ではやらない方がいいと思います」ってドクターストップがかかっちゃって。

白武
初めて聞きました、筋トレのドクターストップ。
加賀
なのでジョギングをやってみたんですよ。でも、走っていたら、バンバンバンっていう振動で首を痛めちゃう。これもダメだな、と。だから僕のなかの運動のマックスは歩くことで、それで精いっぱい。あとは時々整体に通って、日頃はストレッチ。
白武
続けていけるものが限られるんですね。
加賀
心配です、本当に。
白武
当時は散歩がケアだったわけですよね。何かそれに代わるような習慣はできましたか?
加賀
それでいうと運動ではないかもしれないです。昔やっていた楽器をやろうと思って、ギターを持ってスタジオに入ってみたりしました。でも肩が痛くてギターを背負えなくなっちゃって。ちょうど模索中です。うまく見つけられてないですね。
白武
ギター向いてそうでしたけどね。
加賀
昔は毎日弾いていたんです。そのときは引っ越した先が楽器がダメな部屋で、それで弾かなくなってしまって。多分僕、途切れたらダメなんです。だからやっぱり写真ですね。今は写真を撮るのが楽しいし、写真を撮っていると心も身体も充実してくる気がします。

突然の休日、新幹線に乗って写真を撮りに行った。

白武
写真は仕事であり、趣味でもあるんですか?
加賀
もちろんです。最近はフィルムカメラも始めましたし。これまで僕はデジタルだったので「なんだかんだフィルムじゃないと出ない色があるよな」っていう話が全然わからなかったんですよ。でも一生懸命パソコンで編集を覚えたら、細かく見るとデータが全然別物で、フィルムのような色にはならないことがわかって。それでフィルムって面白いなと思うようになって。
白武
どんどん写真に詳しくなってますね。
加賀
でもすごくお金がかかるんですよ。ちょっと奮発しようと思って、プロラボという、データを書き出してくれるところに現像をお願いして、パソコンで編集できるようにポスターにプリントできる大きいサイズのデータにしたり、いろんなオプションを付けたり、もう全乗っけしたんです。そしたらフィルム2本で5万円だったんですよ。
白武
えー!
加賀
72枚で5万円くらい。連載で使えるかもっていう邪な気持ちもあったんですけど、フィルムでやるって難しくて。
白武
そういう世界なんですね。
加賀
でも写真はいいですよ。歩くこともセットになるので、意識しなくても、いつの間にか結構歩いていることがあります。

白武
急に休みができた時は、どう過ごしていますか?
加賀
前日の夜に「急遽休みになりました」と言われたら、いかにアクティブに動くかを考えます。その瞬間に新幹線のチケットを取って、地方の動物園に行って写真を撮ったり。前に、平日に始発を取って、開園時間にぴったりくらいに着くように愛知の動物園まで行きました。そのときは僕、ゴリラを撮りたかったんです。朝からゴリラのところで撮って、夕方くらいまで園内を回りながら、何度かまたゴリラのところに戻って撮ったんです。でもばっちり撮れたのは朝いちばんのゴリラだけだったんですよ。そのときに「あ、いい過ごし方をしたな」って。朝じゃないとあの写真は撮れなかった。休みの日に朝から遠出するって勇気がいるじゃないですか。それに予め予定していた休みならもっとゆっくり休みたい。急な休みだからこそ思い立って動いたのが、大人になったなあって。
白武
いいですね。今後、手を出したい趣味はありますか?

加賀
登山ですかね。最近、石を撮るのが面白くて。自然に触れるロケをやらせてもらった時、川を撮ったり石を撮ったりしたんです。石はもともと好きだし、見ていて楽しいんですよ。小さい頃からきれいな石を集めていて、勉強机がわりの丸いテーブルにマジックで円を描いて、その中にお気に入りの石を並べていたんです。そんなことずっと忘れていたんですけど、写真を撮ったことで「なんかきれいな石いいなあ」って思い出して。それに登山なら歩けますしね。

お笑いとカメラ、二つの山を登っている感覚。

白武
仕事での喜びはどういう時に感じますか?
加賀
単独とか自分たちのライブの場合、お客さんは僕たちを応援してくださっていることが非常に多いので、もっと頑張れたはずだな、もっといいものにできたはずなのに余計なこと考えちゃったなと思っちゃいます。長期間準備するものに関しては割と考え込むほうだと思いますね。自分で立てた目標を達成できないことが多いんですよね。
白武
考えてしまうんですね。
加賀
はい。ただ急遽やらなきゃいけないとか、得意分野じゃないけれども振られてなんとかしないといけない場面でうまく動けると、昔だったら絶対できなかったのに地肩がついてきたんだなと。平気な顔して何かできた瞬間に、「よくやったな、お前偉いな」って自分を褒めてますね。得意なところと苦手なところのバランスは、そういうところで取ってる気がします。
白武
どんなことが最近の喜びの上位にありますか?うまく笑いを取れたときなのか、いい写真が撮れたときなのか。

加賀
お笑いはそれなりにいろんな経験をして、間近で先輩たちを見てきたので、RPG的に言えば経験値が溜まってるんですよね。でもカメラは関わってきた時間が少ないし、まだレベルが低い。つまりお笑いで稼いだ高い経験値で、写真の現場に行かせてもらってる感じなんですよ。『王様のブランチ』や『ラヴィット!』のロケとか。そうするとお笑いの高い経験値で写真を撮らせてもらえるので、ドカッとレベルが上がる。そうやって一気に伸びるので、今はいい写真が撮れると嬉しいなという部分はあります。でもお笑いがないと何もできないしそれがいちばん大事なので、もっと頑張らなきゃって思いますね。
白武
じゃあお笑いとカメラ、二つの山を登っている感覚ですか?
加賀
そうですね。僕は芸能界に身を置かせてもらっているので、カメラマンさんたちが喉から手が出るほど撮りたい人たちと出会っている。なのに僕はそのチャンスを活かせてるんだろうか、と思うんですよ。
白武
現場で葛藤が生まれてしまう。
加賀
そうなんです。「もっとウケなきゃダメだろ、一旦カメラを置いて」「いやいや、お笑いやってる場合じゃないだろ、撮らないと」って、どっちも思うんです。でもロケをしながら写真撮るって本当に誰もやってないんですよ。だから僕は安室奈美恵さんみたいになりたいというか。「私より歌が上手い歌手、踊りが上手いダンサーはたくさんいるけれど、歌って踊ることなら私が一番だ」みたいな安室ちゃんの名言があるんですけど、それに僕はなりたい。撮りながらお笑いするんだったら僕が一番だっていう気持ちがあります。