「100%回復するのは幻だと気づいてから、元気になった」笑いとウェルビーイング。かが屋・加賀翔(後編)

笑うことは心身の健康に良いと言われています。では、日々誰かを笑わせているお笑い芸人は、自身も健やかな状態になっているのでしょうか。芸のために筋肉を鍛えることもあれば、不摂生が爆笑を生むこともある。ウェルビーイングの形は人それぞれです。本連載では放送作家の白武ときおさんが聞き手となり、芸人一人ひとりが考える「笑いとウェルビーイング」を掘り下げます。後編のゲストも、かが屋の加賀翔さん。後編ではお笑いと写真という二つの仕事や、歳を重ねた気持ちの変化について聞きました。

interview: Tokio Shiratake edit,text: Neo Iida photo: Kanta Torihata

Profile

加賀翔(かが・しょう)/1993年、岡山県生まれ。2015年、賀屋壮也とお笑いコンビ・かが屋を結成。『キングオブコント』では2019年、2022年に決勝進出。写真家としても活動し、芸人を撮影した写真集『芸人地図』を刊行。2025年には中森明菜を撮影した写真展も開催した。

写真の編集をしていないとコントが書けない。

白武ときお(以下白武)
コントは最近、どのくらい書いているんですか?
加賀翔(以下、加賀)
月によるんですけれども、できる時は書くようにしようと思ってます。書いていた方が絶対に調子がいいし、あったまらなくなるので。YouTubeで月に8ネタ、事務所ライブでは1本、ラジオでも週1やるので4本、結構作ってるんですよ。そのぶん大事なタイミングでやせ細っちゃうことがあるので、朗らかな時にいっぱい書いておいて、取り掛かれる練習をしておくことが大事だなと思いますね。今月はもう2週間が過ぎて、今のところ2本か…。2本…。今ちょっと慌てています。
白武
どうやって習慣化しているんですか?
加賀
今はiPadになっちゃったんですけど、昔は寝る前にダイニングテーブルの上にノートを開いておいて、起きたらとりあえずペンを持って、眠たいし嫌だけど書くっていうのをやってたんですよ。まだアルバイトをしていた時代ですね。起きたらタバコを吸うのに5分かかるんで、その5分はペンを持つ。何にも書けなくても、とりあえず今日1回はペンを持ったぞって思えるので、その後がラクになる。それがいちばん効いたような気がしますね。
白武
その習慣は今も続いていますか?
加賀
今はやってないですね。それでいうと、写真の編集をしていないとコントが書けなくなっちゃって(笑)。最悪ですよ。
白武
面白いですね。それは写真とコント、両方からインスピレーションを受けるってことですか?

加賀
写真を編集している時って、ものすごくぼーっとしてるっぽいんです。集中しているみたいで。自分ではあんまり気づいてなかったんですけど、『キングオブコント』で負けたとき、ファンの方に「そろそろカメラを一回休んで、コントを頑張りませんか?」って勧めてもらったんです。生き方のアドバイスをもらってしまって(笑)。それでちょっとやめたんですよ。でも試してみたら全然やる気が出ない。多分ですけど、写真ばっかり撮っちゃったからお笑いを頑張ろう、お笑いをやり過ぎたからカメラも頑張ろう、と双方でバランスを取っている状態がいいみたいで。考えが整理されるのかもしれないです。なので前は朝起きてノートを開いて…と効率よくやっていたのに、今2倍の時間がかかっちゃって。ちょっと心配です。

お笑いもカメラも、仲間に入れてもらいたくて頑張っている。

白武
カメラのどういう時間が好きなんですか?撮っている時とか、編集とか。
加賀
全部楽しいんですよ。本当に全部楽しい。写真を撮る瞬間も、編集している時間も楽しいです。一人で笑ったりしますもん。取り込んだ写真がすごい顔で、それを見て「いい写真だなあ」ってひとりで笑ったり。写真は喜びを感じやすいんですよね。お笑いの場合は矢印がお客さんに向いているから僕が笑わせなくちゃと思うけど、写真は矢印が自分に向いているから自分が楽しい。特に今は勉強することも多いし、楽しい時期なんだろうなと思いますね。

白武
機材も増えていってますよね。お金の使い方はどんな感じですか?
加賀
本当に色々買ってます。この間、広告の写真を撮らせていただくことになったんですけど、僕のカメラは4600万画素とかなのかな、結構いいやつなんですけど、現場で見てもらったら「画素数が足りないですね」って。「こちらで用意している1億画素のカメラがあるので、そちらを使ってください」と言われて別のカメラで撮ったんですけど、2000万画素でもすごいって言われるくらいだし、ほんまにわかる?なんて思ったら全然違うんですよ。ディテールを表現したい場だと必要になるとわかったので、その1億画素のカメラを僕、買いました。
白武
えっ、買ったんですか?
加賀
買いました!広告カメラマンになりたいと思います(笑)。でもその仕事で「撮った写真を大きい看板にしてもらいたい」っていう夢が叶って、すごく嬉しくて。またそういう撮影ができたらいいなと思ったんです。
白武
それは向上心なのか、情熱なのか。
加賀
負けたくない、だと思いますね。真剣にやらないと仲間に入れてもらえないっていう感覚がずっとあって。僕、運動ができなかったんですよ。野球、サッカー、バスケ、バレー、卓球、もう全部ダメだった。だから休み時間に話題に入れてもらえないし、部活でも一緒にプレーできないし、あいつはプロになるけど俺は大学に行こう…なんてことになる。だから今も頑張っていないと仲間外れにされる感覚がずっとあって、それはカメラもお笑いもそう。友達が欲しくて頑張ってるような感じです。僕を知ってくださるカメラマンさんが増えたので、「見てますよ」って言われるたびに、「中途半端なことをしていたらハブられるかもしれない」って震えてます。

収録中、移動や待ち時間の間に撮って回っている。

白武
加賀くんが出演して、オフショット写真がインスタに載るバラエティ番組もあるじゃないですか。あれは現場でどうやって撮影してるんですか?
加賀
すごいビクビクしながらやってます(笑)。
白武
出演しながら、カメラを持って撮り回っている?
加賀
そうです。『有吉の壁』のロケは、有吉さんの行く先で待ち伏せをして、ひとつネタをやったら移動するんですね。僕は衣装を入れるカバンの中にカメラを突っ込んで、移動中や待ち時間の間に前後にいる人を撮るんです。撮って、ネタをやって、また次に行って、を繰り返していく。だから滑ったらおしまいというか、有吉さんに笑ってもらえていないのに写真を撮ってるって恥ずかしいし、ありえない。でも先輩も後輩もみんな優しくていつでも撮らせてくれるし、役に立てるのは僕しかいないっていう感覚もありました。

白武
そうやってバラエティの現場で写真を撮るようになったきっかけは何だったんですか?
加賀
僕はSNSが苦手で、告知用の写真を撮るために現場にカメラを持って行ってたんです。『有吉の壁』のプロデューサーの横澤さんはカメラがお好きな方で、あるとき僕がカメラを持っているのを見て興味を持ってくださって。「ぜひ撮ってよ。先輩に声をかけづらかったら、僕が言うから言ってね」と。それでロケ中に撮らせてもらうようになって、いつの間にか広がっていきました。写真展もやらせてもらいましたし、横澤さんのおかげみたいなところがありますね。
白武
どんな写真が撮れると嬉しいですか?
加賀
基本的には全部嬉しいですよ。撮ったあとに「クソッ!」なんてありえないと思うので(笑)。どんなときも楽しいですけど、いちばん嬉しいのは「僕じゃないと撮れないな」っていう写真が撮れた時です。例えばバナナマンさんを撮らせてもらったことがあったんですが、その日は取材日で、一日中いろんな媒体が入れ代わり立ち代わり取材をしていたんですよ。他のカメラマンさんなら時間を気にしてパパパッと撮るところを、僕は関係性があるおかげで普段絶対やらないようなポーズをしていただけて。そういう時に「よかったな」と思うというか、お笑いをやっているカメラマンの価値がちゃんと生まれているなと思います。

ツノが2本あるから面で効く、カタツムリカッサ。

白武
普段持ち歩いている、ケアのためのアイテムがあれば見せてほしいです。
加賀
カタツムリカッサです。もうこれ、ダントツ。

白武
初めて見ました。どうやって使うんですか?
加賀
メイクさんが教えてくれたんですけど、僕は食いしばりがすごいんで、顔まわりの筋肉をほぐしてあげる必要があるんですよ。これはなんで今まで思いつかなかったんだっていうくらいシンプルなデザインなんですけど、先が分かれてるからクッと入る感じがする。グリップもすごく良いし、えぐられているというか、しっかり肌を掴まれている感覚があるんです。ツノは1本じゃダメなんですよ。2本あるから、部分じゃなくて面で動くんです。単なるツボ押しじゃなくて全体を動かしてくれる。
白武
めちゃくちゃ良さそう。どこで買ったんですか?

加賀
これはAmazonです。この形のカッサがいろんなところから出てるんですよ。高いものから安いものまで色々あって、これは2000円くらいなんですけど断然良くて。持ち歩き用とか家で使う用とか、合計4本くらい買いました。ちなみにこの倍のサイズもあります。本当に倍なだけで別に意味はなかったですけど。今日持ってきたのは梱包を開けたらバラバラになっていたので、自分で刺してヤスリで削って、瞬間接着剤で止めて使ってます。そこまでしてでも使いたいくらい気に入ってます。
白武
効果はありました?
加賀
まず頭痛は減りました。持ち心地もいいし質感もいいし軽いし、持っていると落ち着くんですよね。

100%回復するのは幻だと気づいた。

白武
落ち込んだり、仕事が不調だったりした時、どう持ち直しますか?
加賀
僕は落ち込むタイプなんですよ。目標のハードルが高いし、お客さんはどうするかな、先輩が振ってくれたのにうまいことできなかったな、と考えてしまうタイプで。でも最近はまあ仕方ないか、と思えるようにはなりましたね。なんか自分に対して「落ち込んでいるふりをしているだけじゃない?」って思うようになって。落ち込んだそのエネルギーで、もうちょっと何か勉強しておいた方が良かったんじゃない?って。
白武
そういうきっかけがあったんですか?

加賀
『キングオブコント』で負けた時、すごく恥ずかしかったんですよ。負けるわけないっていう顔で準々決勝の会場に入って、インタビューにも「負けるわけないです」って答えたんです。そしたらめっちゃ負けて。僕らは「悔しい」で済みますけど、関わってくれている人も増えてきて、レギュラー仕事の現場の人たちまで落ち込んで、気まずそうなのを見たんです。そこで経歴と年齢を突きつけられた感じがして。前は取り返しがつかないくらい落ち込んでたんですよ。落ち込むことが正義だと思っているところもあって、はしゃいじゃダメだ、先輩にどう思われるかわからない。それもやっぱり仲間外れにされるのが怖い感覚だったんでしょうね。
白武
なるほど。
加賀
でも、僕もう33歳になるんですよ。自分が20代の時に10個上の先輩が負けてしょぼーんってしてたらちょっと嫌かなって。大人になったらそんなことを言っている場合じゃない。それよりも歯車としてちゃんと動き続けないと。落ち込んでいるのはもったいないと思えるようになった気がします。もちろん「最悪だ」とも「なんで負けたんだ」とも思います。でも、やっぱり理由もわかるので。
白武
年齢とともに、かっこよく。ありがとうございます。最後に、健やかに生きるためのアドバイスがあれば。
加賀
本当に、年齢を重ねることでしか解決しないことがあるんです。それこそ、僕はずっと勉強してきたんですよ。健やかに過ごす方法とか、運動が身体にいいとか、何を食べた方がいいとか。でも結局、年を重ねないと芯では入ってこない。年齢を重ねて、「もうこれ以上回復しないんだ」ってわかる瞬間が来て、初めて心がすっと楽になったというか。「あ、こんなもんなんだ」って。ゲームには全回復があるし、スマホも充電すれば100%になる。でも自分が100%になるっていうのが幻だって僕は気づいたんです。それでだいぶ元気になった気はしますね。

白武
20代の頃とは感覚が違う?

全く違います。前は部屋も綺麗にしてましたけど、もう汚くなりました(笑)。でも全然気にならなくなりました。小学生の時に比べたら、33歳なわけですから100%なんて無理だし、そりゃそうなりますよね。だからそんなに目標を高くせずに、「健康ってそういうもんだよ」って思うのがいちばん大事かなと思いますね。