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「紅白の司会をやるんで、岸と二人で。きしたかのと女優さんで」笑いとウェルビーイング。きしたかの・高野正成(前編)

笑うことは心身の健康に良いと言われています。では、日々誰かを笑わせているお笑い芸人は、自身も健やかな状態になっているのでしょうか。芸のために筋肉を鍛えることもあれば、不摂生が爆笑を生むこともある。ウェルビーイングの形は人それぞれです。本連載では放送作家の白武ときおさんが聞き手となり、芸人一人ひとりが考える「笑いとウェルビーイング」を掘り下げます。第7回は、爆発力あるキレ芸が光るドッキリ王、きしたかの高野正成さんにお話を聞きました。

インタビュー/白武ときお 文・編集/飯田ネオ 撮影/北尾渉

Profile

高野正成(たかの・まさなり)/1989年、東京都生まれ。中学校の同級生である岸大将とワタナベコメディスクールに入学し、2012年にお笑いコンビ「きしたかの」を結成。オーディションを経てマセキ芸能社に所属。M-1グランプリ2023では準決勝に進出し、個人でR-1グランプリにもたかのピエロとして出場。TBSラジオ『きしたかののブタピエロ』の他、YouTube『高野さんを怒らせたい。』配信中。

ドッキリは、最初は恥ずかしくてしょうがなかった。

白武ときお(以下白武)
高野さんはウェルビーイングについてはどうお考えですか?
高野正成(以下高野)
何も考えてねーよ!(笑)初めて聞きましたよ、ウェルビーイングなんて。普段考えてないですよ。
白武
(笑)。高野さんといえば、「今、最もひどい目に遭っている芸人」だと思うんですが…。
高野
どんな言われ方なんだよ(笑)。でもまあ確かに、過酷なものは去年(2025年)1年めちゃくちゃやりましたよ。
白武
過酷なテレビ番組の情報がお笑いナタリーから流れてくると、だいたい黄色い人が写ってます。
高野
それはほとんど僕ですよ。お笑いナタリーで黄色かったら僕です。
白武
『水曜日のダウンタウン』でもドッキリにかけられた芸人の年間1位になったりしてましたが、ドッキリを仕掛けられるようになる前とそれ以降で何か違いってありますか?
高野
あー、それまでは、なんていうか自分を出すのが嫌だったんですよ。潔癖なくらい。芸人というのはとにかく舞台や人前に出てなんかやって、裏は見せないものって思ってたんです。舞台に出てめちゃくちゃやるけど、普段は割とちゃんとしてるものなんだろうって。それを無理やり引っ張り出された感じだったんで、最初はもう恥ずかしくてしょうがなかったです。けど、どんどん度を超えていって、前にやったあれの方が恥ずかしかったなあとか思うようになって。自分の中でも感覚とかレベルがバカになっちゃってる部分はありますね。

白武
もともと、芸事に対する憧れというか美学があったんですね。最初に高野さんの美学が引っぺがされたきっかけは何だったんですか?
高野
2020年ぐらいから自分たちでYouTubeを始めて、2022年くらいから岸が俺にドッキリを仕掛けるようになって。住所とか電話番号とかLINE IDまでバラされて、家にいるところを撮られ始めて、訳わかんなくなってきて。そのあと『水曜日のダウンタウン』で後輩が楽屋泥棒して、先輩の僕がそれを見てしまって、色々込み上げて涙流して説教する回があったんですよ(2024年7月24日放送「ドッキリの仕掛け人、モニタリング中にターゲットのエグい秘密知っちゃっても一旦は見て見ぬフリする説」)。あれが終わった時、自分の中の恥ずかしい部分が全国に流れるなって思ったんです。でも放送されたら意外と面白かったし、周りからも良かったよって言ってもらって、あ、じゃあ良かったわみたいな。そういうことの連続ですね。
白武
放送前にドキドキしたのは、自分の中のカッコ悪い部分が出ちゃうのが嫌というか、美学に反するという感覚ですか?
高野
そうですね。恥ずかしい部分が出ちゃうなあって。泣いちゃったし。
白武
でも人情味溢れる後輩思いな一面が出ていてすごく良かったですよ。
高野
そうですけど、でも人情味なんか別に出さなくていいだろって思ってるんで、はい。照れました。

拘束される系の収録を終えた時って、相当な幸福感だと思う。

白武
そこからずっとドッキリが続いて。
高野
そうですね。仕事量で言ったら去年の方が多いんですけど、一昨年(2023年)はもうほぼドッキリばっかりやってる時期がありました。一日でドッキリが2件あって、次の日も入ってて、3件連続でドッキリ仕事とか。だからその頃『さんまのお笑い向上委員会』の仕事が入ってても「本当に…?」と思っちゃって、実際にスタジオに着いて「あ、ちゃんと『向上委員会』だったんだ」とほっとしたりして。本当かどうかばかり気にしたせいでめちゃくちゃ滑ることもありました。しんどかったですね。
白武
ブレーキのかけ具合ってどうしてるんですか?ドッキリが繰り返されると、ちゃんと仕事をしようとしてもエンジンをかけにくくなったりしますか?
高野
一回失敗したことがあって、現場にちょっと態度が悪いスタッフさんがいて、要領も悪いから、おかしいなドッキリかな?って思ってたら違ったことがあったんですよ。ただそういう人だったっていう。もうあらゆることが自分の中でフリになっちゃってて本当に良くないなと思いました。ドッキリかもと勘ぐると意味がわかんないから、ちゃんと全部本気でやろうって思ってます。
白武
ドッキリや検証って、視聴者は短く編集されたものを見てますが、実際は騙すためのフリとかすごく長かったりするじゃないですか。手前のロケあんなに頑張ったのにとか、ひどい目に遭いそうになってから解放されて…ストレスがえぐいだろうなって思うんですよ。あのあとどういう状態になってるのかなって。徐々にクールダウンするんですか?
高野
ネタばらしがあって終わったあとも、ちょっとドキドキしてる時間はありますね。誰かに話聞いてほしいなあとか。

白武
最近だとドッキリの構造も複雑化して、さらにそのあと別のドッキリが待ってたりするじゃないですか。なかなか気は休まらないですよね。
高野
でも意外と図太いのかもしれないです。ちょっと誰かと喋って、落ち着いたら寝れますし。
白武
そういう時は誰と喋るんですか?
高野
先輩とか奥さんとかですね。そういえばこの間、『大脱出』っていう番組の収録後の夢を見たんですよ。お疲れしたお疲れしたって挨拶して、さらば青春の光の森田さんと「高野この後あるんやろ」「そうなんです、僕もこの後もう1本あって」「大変やな。じゃあお疲れ」と話して別れて、僕はタクシーで次の現場に向かうんですけど、後部座席のドアが開いたらディレクターが乗ってて「まだまだあるよ」って言うんです。それが違う番組で、また何十時間も拘束される〜〜!っていう時にうわぁって起きて。くそキツかった番組の次にもう 1個くそキツいのがあるのがいちばん怖いなと思いましたね。
白武
それが夢の中で。おっかないですね。もしかしたら深層心理の中では常に追われているのかもしれないですね。
高野
そうですね。だから拘束される系の収録を終えた時って相当な幸福感だと思いますね。ああ、クリアできたみたいな。ほとんどの人がマジで経験したことがない喜びですもんね。24時間耐久とかやったことある人じゃないと。

裏側を見られる恥ずかしい感覚とはずっと戦っている。

白武
無人島で太れるかっていう企画(『水曜日のダウンタウン』2025年7月9日放送「無人島で太ることも可能説」)もすごかったですね。
高野
あれやばかったっすよ。マユリカさんときしたかので対決で、めちゃくちゃ大変で、マユリカさんが勝利したあと「負け残りです。もう 1日やっていただけますか?」ってなったんですよ。まあそういう企画なんでいいんですけど、現場でマユリカさんが「疲れたなあ、一緒に空港とかでなんか食おう」とか言ってくれてて、すっごい嬉しくて。あんまりマユリカさんとご飯とか行ったことないから。お互い疲れたし、話したいこともいっぱいあるじゃないですか。それで収録終わって風呂入って、みんなで行こう行こうとか言ってたら、「負け残りです」って。マユリカさんも「かわいそう過ぎる」って言ってくれたし、俺らも自分で「かわいそう過ぎない?」って。放送見たら岸の顔とかやばかったですもん。あれはそのショックがデカかったんです。
白武
続く恐怖って人類のほとんどがまだ体験したことないですもんね。数年前の自分が今の高野さんを見たらなんて言うと思いますか?
高野
「やばいぞお前!」ですかね。「しかもなんか時代も違くない?お前だけ」みたいな。ある意味、コンプライアンスが今ほど厳しくなかった頃のテレビをやってるような時があるなと思って。

白武
ドッキリで裏側を見られるのが恥ずかしい感覚とはまだ戦っているんでしょうか。それとも吹っ切れました?
高野
いや、戦ってますね、ずっと。自分にはお笑い始める前の「芸人ってカッコいいよな」っていう美学みたいな妄想があるのに、ずっと「お前は違うよ」って言われてる感覚なんですよ。「お前はそっちじゃないよ」って。でも戦ってます。その連続な感じがしますね。
白武
高野さんって二枚目なんですね。
高野
ああそうですね、多分二枚目ってことなんですよね、それって。カッコいい芸人になりたいっていう気持ちはあります。

高い買い物はしないけど、食べ物には使いすぎじゃない?って思うくらいお金を使う。

白武
高野さんのお金の使い方で、いちばん出費が多いのはどういう分野ですか?
高野
あー、食べ物ですね。外食よく行きますし、あの店に美味しいもの食べに行こう、とかをやるタイプですね。誰か連れて行ったりして。
白武
ごちそう的なものでいうと、どんな料理が多いですか?
高野
寿司ですね。あと前に先輩に連れて行ってもらった高そうな焼肉屋さんに思い切って行ってみるとか。実際高めなんですよ。なんでこのぐらいしか稼いでないのに、こんな高いところ行くんだろうって自分でも思うんです。時計とかブランドものとか高い買い物しないし、車も別に欲しいと思わないけど、だけど食べ物にだけ、ちょっと使いすぎじゃない?って思うくらいお金を使っちゃいますね。
白武
睡眠、お酒、食事で気を使ってることありますか?
高野
お酒は基本的にあんまり飲まないんですよ。先輩とかに連れてってもらった時とかにちょっと飲むぐらいで、毎日飲むとかではないんです。食事は、二十代ぐらいの時はどんだけ食べても朝は腹減ってたのに、食べすぎると苦しくなる感覚が最近出てきて、次の日体調悪いと嫌だなと思って夜中に食べたりしないようになりました。

白武
先輩や後輩と食事や飲む機会も多いですか?
高野
ありますね。後輩を連れて行く時は、後輩が飲まなきゃ僕も飲まないぐらいの感じです。ただいっぱい食べさせたいし、いっぱい食べたいですね。
白武
高野さん自身は先輩に可愛がられるタイプですか?
高野
はい。もうとにかく可愛がられるタイプでした。三四郎の小宮さんやモグライダーの芝さんはマセキ芸能社に入った時からずっとご飯に連れてってくれて。あの人たちが売れてない時から遊んでもらってました。
白武
そういう面々との食事中はどんな話で盛り上がるんですか?
高野
ほとんどお笑いの話なのかなあ。最近こんな仕事したとか報告し合ったり。あとはこの間こんな事あってっていうエピソードも、話すとそこで広がったりして。基本的に面白い話しかしてないような気もしますね。
白武
高野さんは、今後の人生でこうなったら嬉しいみたいなイメージはありますか?
高野
めっちゃ金持ちになってみたいです。一回でいいから、「はい、これだけ稼ぎました!」みたいな気分になってみたいというのはありますね。大金持ち一回やってみたいなとは思います。
白武
大金持ちになったらどうなるんですか?
高野
貯金がたっぷりあったら、最終的にはどっかに消えてやろうかなみたいな気分もあるんですよ。おじいさんになったら、どこかの田舎に家をバンッて買って隠居もアリかなと思ってますね。
白武
でもおじいさんになってからなんですね。
高野
はい。働けるうちは働いて。60歳ぐらいまでお笑いやれたら最高ですけど。

内村さんが司会をしていた『紅白歌合戦』が、日本の頂点のような気がする。

白武
高野さんが普段から一緒にいて爆笑しちゃう人はいますか?
高野
いっぱいいますよ。なかでも小宮さんはかなりでかいですね。人のことを強く責めてるときも誰かに言われて言い返してる時も面白い言い方するなあと思うし、オフでも爆笑しますね。
白武
自分らしく生き生きしてるなって思う芸人さんは?
高野
最近一緒に仕事してて思うのはともしげさんかなあ。ともしげさんからは自分が良けりゃいいんだ、みたいなのをすごい感じるんですよ。流れを全部無視して自分だけ飛び出たり、本当に言わないでほしい冷める一言を言ったり。それは自分が言いたいから言ってるんです。考えてみると人生は一度きりで、なんで他人のために生きなきゃいけないんだろう?って思うんですよね。人に気を使うよりは、自分が幸せなのがいちばんいいじゃないですか。そう考えるとともしげさんが正しいのかなと思ったりして。羨ましいなと思います。
白武
ともしげさんも悩むことはあるんですよね、きっと。
高野
悩んでるポーズみたいなのは見ますけど、すごい強い人なんだと思うんですよ。何があっても大丈夫なんだろうなって。
白武
仕事で言うと、どういう状態になったら嬉しいんですか?例えば尊敬している人に「面白いね」と言われるとか、国民的に知名度が高くなるとか。
高野
そうですねえ、面白い人に「お前面白いな」って言われるとか、自分が昔からテレビで見てた人が俺のことで笑ってる時にワーッとなりますね。前にさんまさんの番組に出させてもらって、現場では一生懸命やっただけなんですけど、フッて落ち着いて別の人が話してる時に、「あれ、さんまさん俺で笑ってたな今」って思ったんですよ。ってことはさんまさんの目に俺が映ってるんだよなと。あと、「今日もよろしくな」とか言われると、俺のこと知ってるのが変な感じでもあり、嬉しくもありますね。内村さんなんて事務所の先輩ですけど、お会いして「頑張ってるか?」と言ってもらうたびにああ知ってんだよな、俺のことって毎回不思議な気持ちになりますね。

白武
そういえば内村さんが高野さんの代演でライブに出演されたって話がありましたよね。
高野
ありましたね。まあ、あれ代演というか、僕が出れなくなって内村さんが出たっていうだけなんですけど、オープニングだけじゃなくてちゃんとピンネタやって、そのときに「どうも、高野の代演で来ました」って言ってドーンってウケたらしいんです。内村さんがそんなこと言うんだって思いましたし、子供の頃にテレビで内村さんを見てた自分からすると、すごい環境にいるなとは思いますね。
白武
ハングリー精神は変わらずありますか?まだまだやってやるぜなのか、楽しくやれたら、なのか。
高野
いや、めっちゃあるほうですね、僕。
白武
さんまさんや内村さんのようなレジェンドにいつかなるぞと。
高野
そうです。紅白の司会をやるんで、岸と二人で。きしたかのと女優さんで。
白武
紅白が一つの到達点なんですね。それはどうしてですか?
高野
内村さんが司会をやってたから、あそこが頂点のような気がするんですよね、日本の。いちばんすごい行事の司会。それをやれたらもう上がりじゃないですか。辞めてもいいかもしれないですね。その後は隠居で。