「キャバクラでウケてたから、お笑いやってみようかなと思った」笑いとウェルビーイング。エバース・町田和樹(前編)

笑うことは心身の健康に良いと言われています。では、日々誰かを笑わせているお笑い芸人は、自身も健やかな状態になっているのでしょうか。芸のために筋肉を鍛えることもあれば、不摂生が爆笑を生むこともある。ウェルビーイングの形は人それぞれです。本連載では放送作家の白武ときおさんが聞き手となり、芸人一人ひとりが考える「笑いとウェルビーイング」を掘り下げます。第6回は、『M-1グランプリ』で2年連続ファイナリストに進出した、エバースの町田和樹さんにお話を聞きました。

インタビュー/白武ときお 文・編集/飯田ネオ 撮影/鳥羽田幹太

Profile

町田和樹(まちだ・かずき)/1992年、神奈川県生まれ。2016年、NSC東京校(21期生)を卒業後、佐々木隆史とエバースを結成。2023年、M-1グランプリ準決勝に初進出。2024年、ツギクル芸人グランプリ、第45回ABCお笑いグランプリ、マイナビLaughter Nightなどで決勝に進出し、NHK新人お笑い大賞を受賞。年末のM-1グランプリ2024でファイナリストに。2025年6月、第46回ABCお笑いグランプリ優勝。テレビでは『エバースの卵 ~宮城のガチでエッグいものを探せ~』(ミヤギテレビ)、『夜明け前バラエティ トワライト』(テレビ朝日)など、ラジオでは『GURU GURU』(J-WAVE)、『エバースのモンキー125cc』(stand.fm)、『エバースの野茂ラヂ雄』(Artistspoken)に出演中。

俺はネタも作ってないし、準決勝に行っても全然褒められないんすよ。

白武ときお(以下白武)
町田さんは、普段からウェルビーイングについて考えてますか?
町田和樹(以下町田)
まあ、多少、ですかね。
白武
最近の忙しさはどんな感じですか?
町田
寝れないとかはないですけど、毎日ライブとか取材とかテレビとか、何かしらはあるなっていう感じっすね。
白武
身体的にはどうですか?しんどさとか。
町田
うーん。そんなに体調悪くなるほどではないかなって。
白武
過去、これくらい激務の時期ってありました?
町田
いやいや、なかったです。今はもう圧倒的に多いす。忙しいっすね。
白武
去年(2024年)、M-1グランプリで初めて決勝に進出されましたよね。それを経て、今年(2025年)は舞台以外の活動も増えましたか?
町田
そうですね。2024年の時点でも舞台には結構出させていただいてたんですけど、やっぱりテレビが増えたっすね、単純に。

白武
大変ですか?
町田
まあ、大変は大変っすね、やったことないことが多くて。急に2時間半の生放送の芸能人だらけの中にいたりしましたし。「誰なんこいつら」みたいな状態から、なんとか目立たなきゃ、何かしなきゃって感じでした。でも総合的には楽しかったっすね。
白武
忙しくなるのをしんどいと受け取るタイプ、楽しめるタイプでいうと、町田さんはどちらですか?
町田
あ、完全に楽しめるほうっすね。学生時代は部活の朝練も全然行きたくなかったし、社会人やってた時も仕事しんどいなーと思ってたんです。でも今は楽しいです。芸人はみんな面白いし、笑ってる時間も多いし、しんどくはないっすね、僕は。
白武
“僕は”ということは、相方の佐々木さんに聞いたら違うかもしれない。楽しんでいると思いますか?
町田
あ、あいつにはM-1というものがあるので。
白武
町田さんにもありますよね。
町田
いや、もちろんありますよ(笑)。ありますあります、ありますよ。僕にもあるにはあるんですけど。
白武
今(準決勝進出者発表前の11月末)はどんな心境ですか?
町田
いやー、だいぶピリついていて、緊張感はありますね。普段の劇場でも「どうする?」って細かいところを話して、この 1〜2週間は穏やかではないです。
白武
それは佐々木さん、町田さん、おふたりともですか?
町田
僕は穏やかなんですけどね。佐々木はそんな穏やかじゃないと思います。今変なことをしてお互いバチッとなったらもったいないから、そこらへんは気をつけてます。
白武
今の心持ちはどんな状態なんでしょう。ソワソワしたり、今年決勝行かなきゃしんどいなってブルーになったりするものですか?
町田
行かないとヤバいなとかは思いますよ。でも、僕らずっと「行かないとヤバいな」なんですよ。去年も、一回も決勝に行ったことないのに「今年はエバースでしょ」って言われたし、特に芸人界隈だと「お前らが決勝に行くのは当たり前」って言われることが多くて。ちょっとしんどいです。
白武
そういった周囲の芸人たちやお笑いファンからの期待はどう受け止めるんですか?
町田
しんどいですけど、「もう。わかってるよ、やるよ!」って感じです。「やるから!落ち着いてくれ!」って。
白武
(笑)。カッコいいですね。
町田
カッコいいですよね(笑)。でも俺はネタも作ってないし、準決勝に行っても全然褒められないんすよ。準決勝行くのもなかなか大変じゃないですか。でも何もないんです。

白武
僕はエバースのことを以前のM-1の予選動画で知りました。それまではあまり目立ってなかったと発言されているのを聞いたんですが。
町田
そうですね。そもそもNSCでも誰にも知られてなかったと思います。何百人って有象無象の生徒がいて、そこで目立つ奴って2〜30組ぐらいなんですけど、もちろんそこには入ってなかったし。4年目ぐらいまでは同期にエバースがいるって周りからも認識されてない感じでした。
白武
そこからこの5年ぐらいで徐々に徐々に認知されて。今や決勝に行って当たり前と言われるようになったわけですもんね。もうちょっと褒められても?
町田
当たり前ですよ。一回決勝行くってワケが違うじゃないですか。昔は漫才だけしかやってなかったけど、テレビとかの仕事も増えると時間がなくなってくるし。

親と揉めて家出して、一時期公園で寝てました。

白武
ちょっと昔のことから聞いていいですか?小さい頃はどんな子供だったんでしょう。
町田
親が高校の先生なんです、二人とも。だから厳しくて、小学校の時は週7日ぐらい習い事やってて、友達とも全く遊べなくて。それが中学になったらパーンと弾けまして、部活もちゃんとしてたしヤンキーとかではないんですけど、遊びのほうが楽しくなっちゃって。親と揉めて家出して、一時期公園で寝てました。
白武
ひとりで公園で寝てたんですか?
町田
はい。友達の家に泊まらせてもらったこともあるんですけど、それだと家出じゃなくてお泊まり会なんで、公園で寝とこうと思って。けどそんな長い間じゃなくて、定期的に揉めて、家を出て、3〜4日経ってから帰るみたいな感じです。その最中に修学旅行があったんですけど、公園から行って公園に帰りました。グレてたとかでもないんですよ。ただふてくされてたんです。
白武
高校には進学されたんですか?
町田
高校は習い事してたおかげで軽い進学校に行けたんです。でもあんまり楽しくなくて、ちゃんと通わなかったから留年しちゃって。そのまま辞めてほぼ家にいました。
白武
その時から強気というか、思い立ったらバンッて行動できるタイプですか?
町田
いやいや全然そんなことないです。結構悩みます。

白武
でも家出して公園で寝るとか、高校を辞めるとか、結構大きな決断をしていますよね。
町田
いやあ、高校も「じゃあやんねえよ!」って自分から辞めたっていうか、もう辞めざるを得なくて、「え本当に?やばいって。今の時代、中卒やばいって!」みたいな感じなんです。そこでちょっと絶望して、そのあと交通事故に遭って半年くらい入院するんですよ。このへんがめちゃくちゃ絶望ですね。高校中退して交通事故あって、1ヶ月半ぐらい入院してた時、絶望より下はねえというか、もう終わったわって。
白武
周りのみんなは青春時代を謳歌してるわけですもんね。
町田
そうですね。同級生が大学進学どうするかっていう時期だったんで、ほんとしんどかったです。だから今何かあっても、そのときに比べたら全然と思っちゃいますね、正直。まあ事故っただけなんですけどね。家庭環境が酷いとか、そんなの何もないんですけど。
白武
その頃はお笑いとの接点は何かありましたか?
町田
めっちゃ見てたとかは全くないですね。あ、でも中学の時の同級生が NSCに入ったんですよ。ジュニアさんみたいに中学卒業してすぐ。そいつは小学校の頃から家庭環境はいいけど不登校で、けどめっちゃ面白い奴だったんです。だからNSCに行くこと自体は身近にはありましたけど、こういう奴が行くのか、くらいの感覚ですね。

『笑っていいとも!』のグランドフィナーレを見て熱くなって、願書を送った。

白武
そんな町田さんが、どうしてNSCに行こうと決意するんですか?
町田
事故ったあと、車のディーラーで普通に3、4年働いたんですよ。で3年目くらいのときに、うっすらお笑いやってみようかなって思うようになったんです。
白武
急にですか?
町田
キャバクラでウケてて。車屋時代はお金あったから地元の奴とよくキャバクラに行ってて、なんか俺ウケるなあって。今思えば金払ってるから笑ってくれてただけなんですけど。
白武
(笑)。でも当時20代前半とかですよね。キャバクラに通うって早いですよね?
町田
でも地元のキャバクラですよ?六本木とか銀座とかそういうとこじゃなくて、本当に地元の。あと仕事でも結構車が売れたんですよ。新車販売で全国10位になって表彰されたんですけど、20代は俺だけだったんです。だから別の仕事して、30歳手前で戻ってもいけんなって。じゃあなんかやろう。そういえば俺キャバクラでウケてたなって。
白武
(笑)。
町田
マジでそんな感じです。あと事故ったときに、俺ずっと『笑っていいとも!』見てて、最後のグランドフィナーレあったじゃないですか。あのときとんねるずさんとかナインティナインさんとか、各々の笑いの道を極めた人たちがガチャッとなったのがカッコよくて、熱くなっちゃって。それで願書送っちゃったっていう。
白武
(笑)。車屋時代にたくさん売れたということは、話芸というかセールストークが上手かったんですか?
町田
いや、そんなもんなかったです。
白武
じゃあ年配の方に好かれて、「若い兄ちゃんから買うか!」みたいな?
町田
まさにそうですね。三菱のディーラーだったんで、顧客は若い人というより年配のお父さんお母さんが多かったから、そういう人がかわいがってくれて。おばちゃんに結構好かれるので、なんとか奥さんを落としにいくっていう。結局は奥さんの方が力持ってるじゃないですか。それでなんとか買っていただいてみたいな。まあ僕のいたところは従業員少なかったのもあると思うんですけどね。
白武
すごいですね。
町田
わざと来場者プレゼントを渡さないで、仕事終わった後に連絡入れて「すいませんこれ渡し忘れちゃって」って家まで届けたりして。そこでちょっと喋って「どうですか?」とか言って、ちゃんと作戦を立ててました。
白武
計画的にしっかり売り上げを取りに行って。表彰されるということは、ある程度の稼ぎがあったわけですか?
町田
大金持ちというほどじゃないですけど、インセンティブもありましたし、まあ多少は。でも全然もらえない月もありましたよ。
白武
社会人から芸人になるって結構覚悟が要りますよね。収入は減るし、バイトをしないといけなくなるし。それでも飛び込むのはすごいですね。
町田
けど、自分がキャバクラでイキッてる感じを俯瞰で見てた部分もあったんですよ。このまま30歳を過ぎたら、テレビ出てる芸人を見て「いや俺の方が面白えけどな」って言う奴になりそうと思ったんです。そういうおっさんになりそうだな俺、って。だったらまずやってみて、無理だったら無理で、戻って営業とかやろうかなって。一回経験した上で戻ったら、そんなことを言わないちゃんとした人間になるかな、っていう感覚もありました。
白武
じゃあそのときの自分には勝ったわけですね。
町田
そうですね。

こっちがマジで返したらつまんない奴になるから、オモシロで返す。

白武
ネタ以外の場でも町田さんはどーんと強そうに構えながら返していく印象なんですが、学生時代やもともとの町田さんのキャラやスタイルもそれに近いですか?
町田
まあそうっすね、小学校の頃からあんまり変わってないですね。例えば誰かに何かやれと言われて、そこに対して返す感じです。
白武
何かを振られたら、一旦それをやるという。
町田
そうですね。自発的に動くことは少ないですけど。

白武
「一旦俺に任せろ」みたいな。
町田
そうですね、僕の中では、自分は恐ろしくプラス思考なんです。別に小さい頃からいじめ的なことをされた記憶はないんですよ。でも「何かやれよ」と言われることはあって、もしかしたら言った側は嫌がらせの部分もあったかもしれないけど、「まあやってもいいけど」って感じだったんですよね。かなりプラス思考だと思います。
白武
面白いですね。あんまり疑っていないというか。
町田
うん、みんな面白いと思ってやってるんだろうと思ってます、基本的に。変な絡み方をされても、オモシロなんだろうなって。ということはこっちがマジで返したらつまんない奴になるから、オモシロで返す感覚がずっとあるっすかね。だから絶対キレない。キレたら終わりなんでね。俺みたいなやつ、キレたら終わりっすよ。
白武
キレることもあるんですか?
町田
いくらなんでもっていうときは言いますけど。流石にこれはオモシロじゃないなっていうときは。でも、今俺らの周りの残ってる芸人にはそんな奴はいないですからね。
白武
エバースさんの漫才のスタイルは、どうやって出来ていくんですか?
町田
最初は、しゃべくりではあったけど、大喜利要素が強めの、ちゃんとツッコむ普通の漫才をやってたんです。ただ二人で同じマンションに住んでずっと一緒にいたので、そのうちイジったりイジられたりっていう関係性にはなって。あるとき佐々木が作家の山田ナビスコさんに「町田も巻き込むようなネタにしたらいいんじゃない?」って言われて、今の形になっていった感じですね。
白武
一緒に住むというのは大きいですね。
町田
学生時代からの友達じゃないですけど、僕ら二人きりで過ごした時間はだいぶ長いと思うんで、それがどんどん漫才にも繋がってきたというか。

いろいろ遊んできた結果、貝、美味すぎるなあって。

白武
白武 今はもう別々に住んでいらっしゃいますよね。休日はどんなことをされているんですか?
町田
最近は港に行きますね。昼前ぐらいに港に行って浜焼き。網とかで外で焼いて、酒飲んで。貝が美味すぎるんですよ。だからいろんな港の浜焼きを食べてます。で、15時ぐらいに遊覧船に乗って、デッキとかで寝転がって。

白武
そんなことしてるんですね。ひとりですか?
町田
ひとりのときもありますし、女性と行くことも、地元の友達と行くこともあります。芸人とはないですね。
白武
なんで港なんですか?
町田
いろいろ遊んできた結果、貝、美味すぎるなあって。あと港のゆったりしてる感じも好きっすね。鳥が飛んでて、波の音も聞こえて。人も多くなくてゴチャゴチャしてないし。沼津とかよくいます。
白武
長期の休みがあったらどんなことをしたいですか?
町田
船舶免許を取りたいですね。楽しそうじゃないですか?いつも港に行くと、船いいな、羨ましいなと思ってるんですよ。あとは沖縄とか南の島でダイビング的なのするのもいいですね。泳ぐの好きなんで。
白武
結構マリンなんですね。
町田
だいぶマリンです。
白武
船舶免許だと、タモリさんが持ってるんじゃないですかね。
町田
タモさんに憧れてるんだと思います。カッコいいじゃないですか。昔からずっとあの感じでやれてるってカッコいいですよね。
白武
ぜひ船の免許取ってほしいですね。船舶免許を持っていて、船の操縦をしながらロケをしてる芸人を見たことないんで。
町田
まあそうっすよね。水上バイク買ったろかな。