料理研究家・土井光さんが、いい調味料を選ぶ理由。

味噌や醬油、みりんを選ぶとき、何を基準にしていますか。価格や慣れ親しんだ味だけでなく、その土地の風土や微生物の営みに目を向けてみる。料理研究家・土井光さんが語る、いい調味料を選ぶ理由とは。

text & edit: Shoko Yoshida, Tamio Ogasawara artwork: Kimiaki Eto (PAPIER LABO.)  cooking expert: Hikaru Doi

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教えてくれた人

土井光(どい・ひかる)/料理研究家。1991年、大阪府生まれ。祖父に土井勝、父に土井善晴を持つ料理研究一家の3代目。大学卒業後に渡仏し、リヨンの料理学校で学ぶ。3つ星レストランなどで働いたのち帰国。現在は大学講師として勤務するほか、フランスのHachette社からレシピ本も上梓。

どうして、いい調味料を選びたいのか?

あ。醬油がなくなりそう。味噌をそろそろ買おうかな。みなさんはそんな時、どこでどんな商品を買っていますか? スーパーでどんな気持ちで選んでいますか? 価格でしょうか。見慣れたパッケージをオートマティックに手に取っている感じでしょうか。シルエットが高級な瓶やパッケージのメッセージをなんとなく、もしくは実家で使っているもの、なんてこともあるかもしれません。

今回の企画では、そんないつもの習慣に少しだけ違った視点を持って選択の幅を広げてもらうため、土井家おすすめの調味料を紹介させていただきました。

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ですが、この調味料がおいしいよー! とただお伝えしている訳ではありません(もちろん、とってもおいしいですよ)。

今回紹介した調味料たちは、フランス語でいう「テロワール(土壌・風土)」の中で育ったものです。私は大学卒業後の7年間をフランスで過ごしたのですが、フランス人がこの言葉をどれほど大切にし、土地の恵みや、そこに生きる微生物の働きに深い敬意を払っているか心底感じたのを今でも覚えています。

そんな記憶と共に日本に帰国し、伝統的な調味料を作る様々な蔵を訪れると、日本の職人の方々もまったく同じ考え方だということがわかりました。

たとえば、木桶の醬油造りで蔵人が用意するのは、大豆、麦、塩、水のみ。これら最小限の原料を仕込んだら、木桶の隙間や蔵の柱、壁にいる目に見えない無数の微生物たちにすべての営みを委ねます。彼らが春夏秋冬の移り変わりを楽しみながら、築何百年のお家の中でゆっくり時間をかけて調味料を作ってくれるのです。

そんなお味は、「おいしい」の一言で表現するには足りないくらい、歴史、文化、人の思い、微生物の仕事のすべてが含まれています。こんなに素晴らしいもの、腸だけではなく、身体の内臓全部に良いと思いませんか?

現代の私たちのまわりには、効率とスピードを最優先して作られた工業的な食品が溢れています。温度などをコンピューターで徹底的に管理し、人工的なものを加えると、“らしいもの”が出来上がります。大量生産・大量消費の現代において人類が誇る技術の進歩ではありますが、それらはあくまで私たちのお財布のためであって、身体のためではありません。

一方で、今回紹介させていただいた調味料は、熱や酸に強い野生の乳酸菌や酵母、そして彼らが作り出した良質なアミノ酸や酵素が生きたまま、あるいはその菌体の成分として豊富に含まれています。これらを日常の食事に取り入れることは、自分の腸という畑に、最高に生命力のある堆肥を蒔くようなものです。簡単な栄養食などで特定の菌を一時的に補うよりも、一生付き合っていくであろう醬油や味噌を使って自分の腸内環境をじっくりと耕していくことのほうが、遥かに確実で身体に負担のないアプローチなのではないでしょうか。

かといって日々仕事があると、毎食気をかけられないことがほとんどです。私も時間がなくてサンドイッチだけで終わらせてしまったり、外食で済ませてしまうこともあります。ですから、いつもの朝ごはんにいい醬油やみりんを使ってみる、焼肉に行く前に家で一杯のお味噌汁を飲んでから出かける、ピザのデリバリーをする時は、一緒に頼んだサラダに手作りドレッシングをかけてみる。こんな感じで、自分の生活を壊さない範囲で身体を少しだけ労わってみてください。ちょっとした自分への気遣いを身体は察知して、好調な反応をしてくれるはずです。

いい調味料を選ぶことは、インスタグラムに載せられるような素敵な生活のためやお金持ちがする行為ではまったくなく、自分自身を守り、自分の機嫌を自分でとれる、簡単で楽しいことだと思います。調味料と一緒に自分の生活がポジティブになりますように。ちょっとしたご提案でした。