「本当は走りたいし、駆け出したいんですよね」笑いとウェルビーイング。オダウエダ・植田紫帆(前編)

笑うことは心身の健康に良いと言われています。では、日々誰かを笑わせているお笑い芸人は、自身も健やかな状態になっているのでしょうか。芸のために筋肉を鍛えることもあれば、不摂生が爆笑を生むこともある。ウェルビーイングの形は人それぞれです。本連載では放送作家の白武ときおさんが聞き手となり、芸人一人ひとりが考える「笑いとウェルビーイング」を掘り下げます。第9回前編のゲストは『THE W 2021』王者であり、奇想天外なコントや漫才を生み出すオダウエダ・植田紫帆さんです。

interview: Tokio Shiratake edit,text: Neo Iida photo: Wataru Kitao

Profile

植田紫帆(うえだ・しほ)/1991年、大阪府生まれ。大阪NSC36期生として2014年に小田結希とオダウエダを結成。2017年から拠点を東京に移し、神保町よしもと漫才劇場に所属。『THE W 2021』で優勝し、テレビや舞台で活躍中。ラジオ『アッパレやってまーす!』(MBSラジオ・火曜隔週レギュラー)、『がっちゃんこ』(ABCラジオ・月曜)などに出演中。

1人で3本ネタをやるのは、3万円を失うくらいの嫌さ。

白武ときお(以下白武)
植田さんはウェルビーイングについて考えることはありますか?
植田
ないですよ(笑)。さっき初めて聞きました、ウェルビーイングって。
白武
(笑)。ご自身では、自分が生き生きとしていると感じますか?
植田
どうなんですかね。精神的には生き生きしていることが多いかなと思いますね。
白武
20代、30代、ずっと生き生きですか?
植田
いや、死に死にのときもありましたよ。でも仕事をいただけることが多くなったんで、今は生き生きしてると思います。
白武
最近の忙しさはどんなものですか?
植田
3月は相方が1ヶ月春休みを取って、最初は自分も休みのような気持ちだったんですけど、やっぱり「何でもやります、仕事何でも振ってください」って言ったんですよ。そしたら普段よりもバタバタして、結果的に忙しかったですね。普段ならどうしようかなって考える仕事も「いいですよ」とか言っちゃったんで、わりとハードにやりました。
白武
ピンで舞台に出ることって、あまり多くないですか?
植田
そうですね。トーク企画ならあるんですけど、ネタが3ステ入ることなんてないんで、それはちょっと嫌でしたね。
白武
それってどれくらい嫌なことですか? 緊張する場所に自分を放り込むわけですよね。

植田
言い過ぎかもしれないですけど、骨折るぐらい。または3万円失うくらいの嫌さですかね。
白武
(笑)。大きい番組の収録も、コンビで出るのとは負荷が違いますよね。
植田
そうですね。今までも1人の仕事はあったんですけど、3月というタイミング的にも特番が多くて。普段はそうでもないのに小田がいてほしいなと思いましたね。
白武
じゃあ随分忙しかったんですね。
植田
人間ってややこしくて、劇場出番がないならないで文句言うんですけど、あったらあったで文句言うんでね。でも今「1日10ステ!」みたいなことはないですし、その間にテレビとかラジオとかいろんなジャンルの仕事が入ってるんで、機嫌はいいですね。

私を今まで蹂躙してた奴に最後に一撃食らわせて倒すのがカタルシス。

白武
忙しくてパンクする時期もありました?
植田
『座王』が3月に2回入ってたときはパンクしかけましたね。
白武
そういう時はどうやって乗り越えるんですか?
植田
過去の膨大な『座王』のデータベースを漁ったりします。なるほど、モノボケが3回もやり直しになったら死ぬんやなって。あとは、わめきます。「うわー!」とかわめいて、そのあとにゲームやりますね。ゲームが好きなんで。
白武
ゲームは昔から好きなんですか?
植田
はい。私、小学校、中学校、高校と、親が「ゲームやってええで」って言ってくれたんで、めっちゃ好きだったんですよ。でも大学くらいから離れていて、ゲームもう1回やろうってなったのは『THE W』獲った後なんです。バラエティに急に呼ばれてロケをするとかVTR見て感想を言うとか、もう全然うまいこといけへんくて、このむしゃくしゃを何かにぶつけたくてゲームをやるようになったっぽいんですよね。

白武
なるほど、ストレスの捌け口として。
植田
そうなんです、捌け口で人を斬りたいと思ってしまった。人か、あるいは人ならざる者を斬りたいって。私は『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』っていう忍者のゲームからフロムゲー(数々の“死にゲー”を手掛けるゲーム会社「フロム・ソフトウェア」制作のゲームソフトを指す名称)にハマったんで、どこかに忍者になりたい欲があるのかもしれないです。ゲームの中なら走れますし、化け物を狙って屋根の上から飛び降りて頭のてっぺんから刀を刺せる。忍殺って言うんですよ、忍んで殺すと書いて「忍殺」。憧れますよね。
白武
「フロムゲー」というジャンルがあるんですね。
植田
はい。『エルデンリング』とか『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』とか、プレイヤーが戦っては何度も死んで攻略のやり方を覚えていくといいますか、ああいったジャンルが好きですね。
白武
苦行系の。
植田
そうですね、苦行系が好きですね。よく「Mなのか」って聞かれるんですけど、確かにMなんです。ただ自分をずっと虐げてたやつを倒すっていうところにちょっとSがあるんですよ。私を今まで蹂躙してた奴に最後一撃食らわせて倒すのがカタルシスなんです。

 

白武
なるほど。ということはある程度は劣勢になるほうがいいんですか?
植田
はい、劣勢がいいです。こっちが強過ぎるとなんか怪しんじゃいます。おかしなことになってるんじゃないか、難易度が低過ぎるんじゃないか、罠があるんじゃないか。このボスはまだ1〜2回進化を残してて、こっちももう一回り強くなって戦わなあかんのちゃうかなとか思っちゃいますね。
白武
それってお笑いに通じるところもあるんですか?
植田
いや、そうなんですよ。『エルデンリング』ってボスが絶え間なく攻撃してくるんで、どうしても防御や回避に回りがちなんですけど、意外と自分から攻撃した方が攻略しやすかったりするんです。フロムゲーあるあるで。で、ある日気付いたんですけど、(明石家)さんまさんのバラエティ番組に出てる時ってこんな感じなんですよ。意外と自分からボケた方がさんまさんを攻略しやすい。『エコーナイト』っていうゲームもしっかり敵の動きを見なあかんくて、これは有吉(弘行)さんの番組っぽい。しっかりコミュニケーション取ってわけわからんこと言わんようにしようって思いますね。
白武
面白いですね。ゲームから学び取る立ち振る舞いというか。
植田
というか、ドーパミンが出てるんだと思います。最近よくネットスラングで聞きますけど、ドーパミン中毒者に近いと思います。
白武
お仕事でドーパミンが出るのはどんな時ですか?
植田
やっぱりウケた時ですよね。みんながウワーッてなってる時に私がバーンと前に出てひと言言えた時、あとコントとかネタをやってる間は4分ぐらい好き勝手できるんで、ずっとドーパミンが出っぱなしですね。
白武
出っぱなしっていうのはすごいですね。
植田
お笑いとか仕事に関しては、安定してるとドーパミンが出過ぎて脳みそが擦り切れたんじゃないかなっていう恐怖も出てきますね。あ、怖いな、今危険な状態ちゃうかって思っちゃったりする、逆に。
白武
植田さん自身も経験を重ねて、自分の型が出来たり知名度が上がったりして、イージーゲームになってる部分はないんですか?
植田
あ〜、でもお笑いってそういうのなかったりしますね。慣れてるライブのコーナーでも、その時々で辿り着かなかったようなオチや展開に行けたりしますし。こっちのルートあるんや、みたいになりますね。
動くオダウエダの植田さん

『THE W』で優勝して、叩かれて、快楽物質が出るようになってしまった。

白武
植田さんの周りで、この人活き活きしているな、素敵なスタンスだなと思う人はいますか?
植田
昔から仲いいんですけど、ドンデコルテの小橋ですね。我々オダウエダは元々大阪の吉本所属で、3年目くらいで上京した時に東京吉本所属をかけたバトルライブがあって、そこに一緒に出たんです。小橋はドンデコルテの前のコンビで出ていて。そこからの仲なのでもう10年くらい。最近の小橋は楽しそうで嬉しいです。
白武
いろんな変遷を見てきたんですね。
植田
そうです。小橋が前の相方と解散して、交通事故に遭って九死に一生を乗り越える流れとか、『M-1グランプリ』の1回戦でネタちょっと飛ばして銀次さんにブチ切れられたのをカメラマンに撮られたっていう愚痴を聞くとか。ほんまに苦労してる姿を横で見てたんで、今は調子に乗ってて最高やなと思います。いいぞいいぞって。
白武
植田さんはどんな時に幸せを感じますか? 人を笑わせる時なのか、美味しいご飯を食べている時なのか。
植田
笑ってもらってる時ですかね。でも「あの番組良かったですね」とか「さっきのライブおもろかったですね」とか言われると、嬉しいんですけどなんか照れちゃうんですよね。何なんでしょうね。嬉しさ100、照れ120というか、照れが強くて。「言わんでください!」みたいな感じになる。なのにエゴサーチは好きなんですよ。不思議ですね。
白武
ネットリテラシーとかネットの教養がありますもんね。
植田
これはもう、本当に昔から私が2ちゃんねら〜だというのと、ニコニコ世代というかニコ厨だったりもするんで、ただ経験してきただけなんです。もっと気つけなあかんなとは常に思ってます。

白武
YouTubeとかで、芸人の常識のなさに対して警鐘を鳴らす発信もしてるじゃないですか。
植田
いや、難しいですよね。そもそも芸人はリテラシーから離れたものを良しとする生き物なのに、今のSNSではリテラシーが求められる。テレビとか特にそうですけども、リテラシーありきでやるとなると困っちゃうところはあると思うんです。だから一応リテラシーある風に見せる方法を考えなきゃいけないんですよね。当然犯罪とかはダメですけど。改めて自分も考えなあかんなと思ってYouTubeでそういう企画をやったりはしますね。
白武
植田さん自身はSNSとの向き合い方はどうですか?
植田
自分らが1位になることがあんまりない人生だったんで、それは小田もなんですけど、お互いに何かの1番になれることがなかなかなかったんです。だから『THE W』で優勝した時、「うわっ、1位になった!」って喜んで、祝福の言葉がもらえるのが当然だと思ってたのに、24時を超えたくらいからえらい叩かれ出したんですよ。よくわからんけど炎上してるっていう。でもそこからバグっちゃいまして、エゴサーチした時に批判の言葉があると、「なんか書かれてるやん」「なんか言われてんねんけどおもろ」みたいなん言うてますね。脳の変なシナプスが繋がっちゃって、快楽物質が出るようになってるんですよ。
白武
『THE W』以降で向き合い方が変わったんですね。
植田
変わっちゃいましたね。『THE W』を獲ったあと、ご褒美番組に出るたびにめっちゃ色々書かれたんですよ。クイズ番組で「祝日を並べ替えてください」っていう問題が全然できなくて非国民って言われたりして。でもその非国民と言われた話を他のところでするとウケる。そこで色々バグっちゃって、エピソードとして持っていけるなと思ってシナプスが繋がったんです。元々そういう傾向はあったんですけど、なんかもう笑っちゃうんですよね。もうダメなのかもしれないです。感覚がバグっちゃって。
白武
でもそこでより強くなったわけですもんね。
植田
強くなったんですかね。生き物としてはもうワヤ(関西弁で台無し、ダメの意)になったというか。もう審査員とかできない身体になりました。

『THE W』で優勝してとんでもなく巨大化してしまった。

白武
身体のしんどさや健康についてはいかがですか?
植田
ダメですよ。30分喋ったぐらいでこんなに汗かいてるような人間はもうおしまいですよね。いや、ほんと運動せなあかんなって思うんですけどね。全然できてなくて。助けてください。白武さん助けてください。
白武
(笑)。理想はどういう運動をしたいですか?
植田
もともと歩くのが好きなんですよ。で、コロナ禍の緊急事態宣言の時ってお店に行っちゃいけなかったじゃないですか。でも散歩OKやったんで、散歩だけが許されてるから散歩しようと思ってぐるぐるぐるぐる中野区を歩いてたんですよ。で、やっぱ歩くの好きやなって。で、「歩く」の上に「走る」があるらしいぞと思って、もうちょっとしたら走ろうと思った頃に『THE W』で優勝してとんでもなく巨大化してしまったので、もう歩くことすら困難になっちゃったんですよ。本当は走りたいし、駆け出したいんですよね。
白武
『THE W』で巨大化したというのは、何が原因だったんですか?
植田
わかんないです。気がついたらこの身体になってました。カフカじゃないですけど化け物になってしまったみたいです。考えられるのは、ありがたいことにバイトをしないでよくなって、それが体を動かす清掃バイトだったので動かんなって、そのぶん酒を飲むようになったってことですね。ほとんどトイレもできないような体になりました。
白武
朝起きたときはどんな状態なんですか?
植田
全てが腫れてる感じです。腫れてるな、膨らんでるな、って。
白武
歳を追うごとに、ちょっと体を引き締めようとか考えたりしますか?
植田
思ってます。吉本の劇場の楽屋は「いかに健やかに過ごすか」っていうテーマでみんな喋ってるんです。
白武
どんなテーマが多いですか?
植田
えっと、心臓病? 本当に怖いです。ほんまにちょっと最近、全員が歳を召してきてるので気をつけないといけないんですよ。私と同じくらいぽっちゃりで酒もよく飲むおふろというコンビの井上ステーキって子がいるんですけど、飲み過ぎて横になって寝るのもしんどくなって、病院行ったら心臓がハムスターの心臓ぐらい弱まってたんですって。
白武
えっ!
植田
そこから縛りが多い人生になってしまって。その井上にも「あきません、そんなんじゃ僕みたいになりますよ」って説教を食らいましたよ。なんで助けてほしいです。
オダウエダの植田さんと白武ときおさん