東洋医学のプロが実践する養生術は、意外とシンプルだった。

東洋医学のプロほど、実は“険しいこと”はしていない。味噌汁、掃除、自転車通勤、よく眠る……。特別な道具より、毎日の習慣をちょっと変えるだけ。そんな「続けられる養生」を、プロの暮らしから盗んでみよう。

取材・文/松岡真子 イラストレーション/伊藤健介

初出『Tarzan』No.919・2026年2月12日発売

石垣英俊と平地治美さんのイラスト

背骨ケアのプロが突き止めた、頑張りすぎない6つの習慣。

石垣英俊(いしがき・ひでとし)/あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師。〈ホリスティック・クーラ〉代表。解剖学と東洋医学の知見を融合させた独自のメソッドで支持を集める。

背骨まわりの筋緊張を解放する施術を通して、多くの不調と向き合ってきた石垣英俊さん。自身のケアに目覚めたのは、30代後半のことだという。

「まずは食生活を見直し、味噌汁とバナナを摂ることにしました。おかげでこの15年間は快腸です。50歳を目前に控え、日常でできる薬膳も取り入れるようになりました。冬は温活目的で頻繁に鍋をします。あとはどんなに忙しくても7時間は寝る。養生は継続が大事。追い込みすぎないよう、心がけています」(石垣さん)

1.鼻毛は抜かない。

「健やかな“肺”を守るため、手入れはカットのみ。寒い時期は頻度も落とします。中医学では“肺の入り口”の鼻は、その状態が表れる場所。鼻水や詰まりは肺からの警告であるとも考えられています。毛を抜くと異物を防ぐフィルター機能が弱まり、粘膜も傷つきやすくなる。結果として、肺に余計な負担をかけてしまうのです」

2.旬菜と豆腐の味噌汁で一日をスタート。

旬菜と豆腐の味噌汁を食すイラスト

「手軽に作れて栄養も摂れる味噌汁を、15年近く朝の習慣にしています。主役は季節の野菜。今ならブロッコリーや菜の花が重宝します。そこに豆腐とワカメも加えて、タンパク質とミネラルも補給します。さらにネギと生姜をたっぷりと。味噌の発酵パワーも相まって、風邪をひきづらくなりました。納豆を追加する時もあります」

3.隙あらば肋骨下を揉んで緊張を解く。

隙あらば肋骨下を揉んで緊張を解くイラスト

「3分でストレスを解消する決め技。とても簡単なので座るたびに行っています。イスに腰掛けたら肋骨下に4本の指先を当て、息を吐きながら上半身を前に倒す。横隔膜が緩んで、自然と呼吸が深くなります。すると自律神経が整い、リラックスしやすい状態に。肝臓がある右側は入念に。押して痛みを感じるのは疲労のサインです」

4.室内アーシングでカラダの違和感を察知。

「コンディショニングに躍起になりすぎないようにしつつ、不調の芽は早々に摘み取りたい。そのセンサーとして、部屋の中を裸足で歩きます。着地時に刺激を感じる部分が日によって異なるので“今日はここが疲れているな”と気づける。おかげで20年以上、寝込んだ記憶がない。ただ、冷え性の人は冷えが強まることもあるので、無理なさらずに」

5.動画やラジオを楽しみながら、週イチの60分間ストレッチ。

「肩は力まず、丹田に意識を集め、足腰はしっかり。いわゆる“上虚下実”を保つため、毎日のランジは欠かしません。休日はそれに加えてストレッチも。その間は好きな映像を流しながら、ふくらはぎから足先まで、下半身をマッサージ。土踏まず周辺は整体ツールを使い、湧泉など疲労緩和に役立つツボを重点的にケアします」

6.中府を緩めて強い心を保つ。

中府を緩めているイラスト

「精神状態を映す3種のツボに触れながら、メンタルを整えています。1つ目は鎖骨の下と肩の間にあるくぼみにある中府。凝りがほどけるまでやさしく押します。次に親指と人差し指の付け根付近の合谷を刺激。帰宅後は、足の親指と人差し指の骨が交わる部分にある太衝に圧をかけ、リセット」

漢方薬剤師が実践する、生活に溶け込む養生スイッチ。

平地治美(ひらぢ・はるみ)/薬剤師、鍼灸師。〈和光鍼灸治療院・漢方薬局〉代表。日本東洋医学会代議員。『ととのえ漢方習慣』(永岡書店)など著書多数。

YouTube『平地治美・漢方チャンネル』では養生法を発信。身近な食材の薬膳的視点など、暮らしに寄り添う内容は親近感を集めている。そんな平地さんが大切にしているのは、日常の動作をそのままメンテナンスに変えることだ。

「7km離れた職場まで、30分かけて自転車を走らせます。通勤そのものが有酸素運動です。日課の瞑想も歩きながら行ったり、ときには掃除に置き換えたりも。そんなふうに組み込むと、健康管理が生活になるんです」(平地さん)

1.好きなものを腹八分目で。

「基本は自炊で旬の野菜が中心です。食材が偏らないよう注意しつつも、そのときにカラダが求めるものを選びます。内臓を冷やさないために、口に入れるものは体温以上であることを重視。ドリンクも同様です。外食の焼き肉ではタレは付けず、サンチュと大根おろしをたっぷりと。翌朝は白湯だけにして胃腸を整えます」

2.掃除で集中力を研ぎ澄ます。

掃除で集中力を研ぎ澄ますイラスト

「仕事の効率を上げるために、毎朝30分の瞑想をしています。目を閉じて呼吸を整えているうちに、意識が“いまここ”に向かい、気持ちが静まっていく。この原理は、掃除なども同じ。なかでも湯垢を一心不乱に落としていると、雑念まで洗い流される感覚があります。そのうえ浴槽はピカピカになり、家族にも喜んでもらえる。まさに、一石二鳥です」

3.古い「気」を吐き出して「肺」をアップデート。

古い「気」を吐き出しているイラスト

「呼吸が浅いと感じたら、息を吐き切ります。その反動で、空気は自然と深く入ってくるから。漢方では、呼気の弱さは“肺”、吸気の衰えは“腎”に原因があると考えられます。いずれもストレスが関連しています。後者の強化には腹式呼吸が有効ですが、やり方を誤ると喘息のリスクもある。その点、吐くのは難しくありません」

4.時間割の誤差に目くじらを立てない。

「心身のケアを“きっちり”実践するのではなく、あえて適度にサボる。それこそが、元気でいられる秘訣です。その基盤として、規則正しい生活であることも重要です。ただし、タイムスケジュールを分刻みで守らなくても大丈夫。例えば昼食は12〜14時の間に済ませるといった具合に、一日の流れが極端にずれなければ十分です」

5.“冬”眠暁を覚えずがちょうどいい。

「“腎”を養う季節である冬は、温めることが最優先。日の出以降の起床が望ましく、早朝にカラダを動かすのを良しとしません。だから散歩を休んでも問題なし。この養生術は、約2000年前に編まれた中医学の古典『』にも記されています。一方で、“肝”が司る春は運動がマスト。ゆっくり眠り、来るべきシーズンに備えて」

6.寝室は朝まで15度以下にしない。

「暖房をつけずに床に就くと、冷気を吸い込み、カラダが冷えやすくなります。さらに寒暖差が激しい環境では血圧が急変動し、心筋梗塞や脳卒中の引き金となることも。そうした不安を回避するため、一晩中、適温を保つようにしています。ただ、エアコンだと乾燥しやすいため、パネルヒーターを活用。加湿器も併せて、湿度40〜60%を維持します」