“夢”を売るエセ再生医療に要注意?肝腎脾の最新研究レポート。
日進月歩の検査・治療や研究において、いま最もホットな情報を“医療の翻訳家”こと市川衛さんがナビゲート。
取材・文/オカモトノブコ イラストレーション/川崎タカオ
初出『Tarzan』No.916・2025年12月11日発売

教えてくれた人
市川衛(いちかわ・まもる)/東京大学医学部卒業後NHKに入局し、医療・福祉・健康分野での取材多数。現在は“医療の翻訳家”として、メディア発信や団体運営などで幅広く活躍中。
オルガノイド研究と生体移植の現在地。
「臓器(organ)のようなもの)」を意味するオルガノイドは、幹細胞を培養して作られる生体の臓器に似た立体的な組織のこと。あらゆる生体組織に分化・成長できるiPS細胞などの多能性幹細胞が発見されて以後、現在、特に盛んな研究が進められている分野だ。
臓器の再生にも期待は広がるが、「最先端の研究でも現時点ではマウスによるもので、人間への応用はまだ夢の段階。臓器の先端医療でより現実味があるものでは、アメリカで既に実施しているブタの異種腎移植などが挙げられるでしょう」と解説する市川さん。そこで腎臓の専門医である福井さんに、国内での現状を聞いてみよう。
「異種腎移植は注目される研究分野ですが、感染対策を徹底した専用施設で遺伝子改変ブタを飼育する必要があり実用化にはまだ多くの課題が。一方、生体腎移植は身近に提供者がいれば適切な治療により早期の実施が可能です。生体ドナー以外では待機期間が平均で15年ほどかかりますが、万一に備えて臓器提供の意思表示と家族との共有が広がれば、移植の可能性は大きく広がると考えられます」
オルガノイド(ミニチュア臓器)のモデル解説

ミニチュア臓器としてのオルガノイドは、ヒトやモデル生物から組織幹細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を採取し、適切な条件下で培養することで作られる。
現在さまざまな臓器のオルガノイドが作製され、将来的には臓器移植への活用、病態の解明、薬剤のスクリーニング試験などへの応用が期待されている。
これが肝細胞オルガノイド

慶應義塾大学医学部の研究チームは、代謝機能を再現した肝細胞オルガノイドの作製に成功。
写真提供/慶應大学医学部・佐藤俊朗教授
膵がんの早期発見が可能に。
年間の罹患数と死亡数がほぼ等しく、早期発見が課題の膵がんに、胃カメラを使った簡便かつ高精度な検査法が新しく開発されている。
「大阪大学大学院・がんゲノム情報学の研究グループは、胃カメラの検査中に採取した膵液から膵がんで見られる遺伝子変異を極めて高い精度で測定。検査に必要な膵液の分泌を促す合成ヒトセクレチンの薬事承認や保険適用という課題はありますが、目に見えないレベルの膵がんも早期診断できる検査として尾道方式のような形で将来の実用化が視野に入ってきています」
さらに、下図のような九州大学による検査法にも期待が集まる。

九州大学病院・同大学大学院医学研究院が開発した検査法では、胃の内視鏡検査の際にカテーテルから十二指腸液を採取し、ここから膵がん細胞が産生する特定のタンパク質を解析。共同研究を実施した福岡赤十字病院における本年度の導入予定が発表されている。
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“夢”を売るエセ再生医療に要注意!

ここ最近、“肝機能を取り戻す再生医療”などを騙る医療機関が存在する。果たしてその実態は?
「こうした“再生医療”は脂肪幹細胞などの“体性幹細胞”を用いたものが多く、組織の炎症を抑えるなどの作用は期待できるものの、肝臓そのものを再生させるエビデンスは限定的です。つまり、世にある“肝臓再生医療”とは“再生医療を使った肝臓の治療”により肝臓の再生をイメージさせる、言葉のトリックのような一面も感じられ、個人的にはその効果についても疑問を感じざるを得ません」
こうした再生医療のほとんどは自費診療で、多額の費用がかかるのも大きな問題。医学的な根拠をよくよく見極めることが肝心だ。



