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「走る映画」のプレイリスト|vol10. 走るLudwig Göransson

映画の主人公気分で走りたい! 「走る」シーンが象徴的な数々の名画のサウンドトラックをつないで、ランニング気分を高め、鼓舞してくれるプレイリストを作る試み。第10回は、『クリード』や『ブラックパンサー』、『TENET』、『オッペンハイマー』など、数多の劇伴を手がける作曲家・ルドウィグ・ゴランソンの楽曲だけで構成。名劇伴作家のサントラで走れば、気分はハリウッド俳優?

選曲・文/渡辺克己(サントラ・ブラザーズ) 写真/アフロ

2025年も数多くの映画が公開された。興行収入の統計によると、コロナ禍以降、久しぶりに多くの観客が劇場を訪れ、映画界は活況を呈したようだ。現在、数ある作品の中から、ゴールデングローブ賞やアカデミー賞など、ショーレースに名を連ねる作品が予想されはじめている。

当コラム的に音楽賞を選ぶのであれば、レオ様が自由を求めて疾走する『ワン・バトル・アフター・アナザー』を推したいところだ。しかし、多くの評論家による音楽賞予想では、『罪人たち』が圧倒的な支持を集めている。

舞台はブルースが生まれた1930年代のシカゴ。汚れ仕事で財を成した兄弟が、故郷ミシシッピでダンスホールを開業する──という物語だ。劇伴では、ブルースをはじめとする当時のブラックミュージックを、現代的なテクノロジーを交えて再構築。なかでも、夢が叶ったダンスフロアで、ブラザー&シスターたちが文字通り狂喜乱舞するシーンを言葉で表すのであれば、圧巻の一言。

『罪人たち』のサウンドトラックを手がけたのは、作曲家のルドウィグ・ゴランソン。『スター・ウォーズ』サーガのスピンオフ『マンダロリアン』(映画版は5月公開予定)、『ロッキー』の宿敵アポロ・クリードの息子の闘いを描いた『クリード』(2015年)、『ブラックパンサー』(2018年)をはじめ、クリストファー・ノーラン監督作『TENET』(2020年)、『オッペンハイマー』(2023年)で2作連続アカデミー作曲賞を受賞。現在、ハリウッドを代表する劇伴作家のひとりだ。

『罪人たち』がアカデミー賞を受賞し、再び映画館で上映されることを願いつつ、今回はゴランソンが手がけた劇伴のみでプレイリストを構成した。

まずは、緩やかに走り始めるため、スローテンポの楽曲から。ゴランソンが大きな注目を集めるきっかけとなった『クリード』よりM1を選曲。闘いを目前に控えた繊細な心の機微を、メロウなエレキギターのアルペジオで見事に表現している。

続くM2は『罪人たち』から。物語とリンクしたブルースに、トラップを通過したリズムトラック、酩酊感の強いピアノが融合した楽曲だ。ちなみにゴランソンはヒップホップ愛好家としても知られ、学生時代から縁のあるチャイルディッシュ・ガンビーノのプロデューサーも務めている。

メキシコ人シンガー、フエクッシュをフィーチャーしたM3は『ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエバー』より。体が温まってきたところで、テンションを少し上げるため再び『クリード』からM4を投入。テンポではなく、生演奏とエレクトロニクスを重ねることで音に厚みを持たせ、自然と気分を高揚させてくれるスコアだ。

青春コメディ『エブリシング』(2017年)からは、アフリカ音楽を想起させる軽快なギターが印象的なM5。煌めくギターが映えるカリードをフィーチャーしたM6は『ブラックパンサー』から。オールドスクールやブーンボックスへの愛情が炸裂するM7は『セントラル・インテリジェンス』(2016年)、M8、M9は『私ときどきレッサーパンダ』(2022年)、そして日本未公開のコメディ『Slice』からM10を選んだ。ブレイクビーツの巧みな使い方や、派手なニュージャックスウィングのリズムを、コメディやアクション映画に違和感なく溶け込ませている点も見事だ。

メキシカン・レゲトンのグルーヴがたまらないM11は、再び『ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエバー』から。ここからは走るテンポをさらに上げていこう。

『マンダロリアン』シリーズの途中で制作されたドラマ『ボバ・フェット』(2021年)からのM12。物語とリンクするトライバルなパーカッション、再評価が進むジャズ&フュージョン的なシンセの響きが気分を一気に引き上げる。続く『罪人たち』のM13、M14は物語の重要な局面で使用される楽曲。伝統的なブルースやゴスペルのコール&レスポンスに、強調されたリズムが加わり、自然とステップも弾む。

ハウスミュージックとアフリカ音楽の融合はこれまでも数多く試みられてきたが、そこにラップを取り入れフレッシュに仕上げたのがM15だ。『マンダロリアン』のM16では、反復的なマシンリズムが走るテンポを安定させる。さらに、高音域のパーカッションとシンセのアルペジオでスリリングな場面を演出した『TENET』のM17は、ランニング時の高揚感をここまで引き出してくれるとは意外だった。

『クリード』のクライマックスを飾るM18は、『ロッキー』(1977年)のテーマ曲「Gonna Fly Now」を換骨奪胎し、新たな闘いのアンセムとして再構築した一曲。こうしたリコンストラクションの才能は『マンダロリアン』のM19でも発揮されており、マカロニ・ウェスタンを思わせる静かな立ち上がりから、ホーンとストリングスで一気に飛翔する展開が実に斬新だ。この曲で締めてもよかったが、最後はワカンダ再建への祈りを込めた『ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエバー』のM20で、緩やかにランニングを終えたい。