「街乗りも山遊びも。“やりたい”をすべて叶える、グラベルバイク​」|生活と自転車 vol.07 田中史織(靴下デザイナー)

自転車のある暮らしは楽しい。歩くよりも早くて、車よりも小回りが利く。有酸素運動にもなるし、街を見る視点も増える。こだわりの愛車との生活をドキュメントする連載。​第7回は、山遊びが好きな、靴下デザイナーの田中史織さん。

取材・文/山田さとみ 撮影/田上浩一

Profile

田中史織(たなか・しおり)/文化服装学院卒業。2013年より靴下メーカーにて勤務。企業デザイナーとして靴下の企画デザインを学び、2019年に独立。メーカー時代に立ち上げた靴下ブランド〈laceflower〉を再スタート。趣味の山好きが高じて、2021年より、本格的なスペックを備えた登山靴下〈高山植物図鑑〉をセカンドラインとしてスタートする。

靴下デザイナーの田中史織さんは、夫の影響で登山を始め、週末はアウトドアを満喫する日々を送っている。昨年は、山で遊ぶための自転車も新たに手に入れた。

「夫が出店の手伝いで〈OMM BIKE〉に参加したとき、出場者の走る姿に刺激を受けて“自転車が欲しい”と言い出し、買いに行くことに。わたしもお店について行ったら、思わず欲しくなってしまったんです(笑)。ふたりでよく登山をするので、自転車も一緒に楽しめたらいいなと思い、わたしも購入を決めました」

登山に自転車にと、アクティブな趣味を持つようになった田中さん。普段は高崎の自宅で仕事をしているが、月に数回は前橋まで自転車で出かけ、仕事をしたり、お気に入りのカフェやショップに立ち寄ったりする。

「行動範囲がぐっと広がりましたね。前橋までは片道10kmあって少しキツいかなと思っていたのですが、走ってみたら全然そんなことなくて。気分転換にちょうどいい距離なんです」

仕事場としてよく利用するのは、〈つどにわ〉。60年ほど前に建てられた旧前橋信用金庫の建物をリノベーションした複合コミュニティスペースで、信用金庫を軸に、コーヒースタンドやライブラリー、コワーキングスペースが併設されている。

「仕事に集中したいときや、本を読みたいときに、この〈つどにわライブラリー〉を利用しています。〈REBEL BOOKS〉による選書の本が並んでいて、思いがけない出会いがあるのも魅力です。たとえば、ブランディングに関する本。〈laceflower〉を立ち上げた当初から、物語を紡ぐようにブランドを育てることを大切にしながら、自分なりに学び続けてきました。ここで出会った2冊の本は、そうしたブランドの伝え方への理解を、さらに深めてくれました」

ライブラリーでは本の貸し出しを行っていないため、この2冊は購入し、時間をかけて読み込んだ。

都市の中の森をイメージした館内には、たくさんの植物が置かれている。

もちろんフリーWi-Fiや電源も完備。静かで落ち着いた空間のなか、デザインや事務作業もはかどる。

つどにわライブラリー

●群馬県前橋市千代田町2-3-14。月曜日〜金曜日9時~19時、土曜日9時~18時、日曜日・祝日9時~17時。年末年始休。@tsudoniwa

1階にある〈SHIKISHIMA COFFEE STAND〉もお気に入りスポットのひとつ。

自家焙煎にこだわり、サイフォンやハンドドリップで丁寧に淹れるため、雑味のないクリアな味わいのコーヒーが楽しめる。気軽に立ち寄れるスタンド形式で、仕事や読書の時間をちょっと贅沢にしてくれる。

「もともと敷島町の本店によく行っていました。ライブラリーでは飲み物を持ち込めるので、カフェラテを片手に仕事をすることが多いです」

SHIKISHIMA COFFEE STAND

●群馬県前橋市千代田町2-3-14。月曜日〜金曜日9:00~17:00、土日祝9:00~16:00。@shikishima.stand

〈つどにわ〉から自転車でほんの数分。小さな角を曲がると、古い大きな木製ドアが印象的な生花店〈givré〉が見えてくる。前橋に来るたび立ち寄るほどお気に入りの店。田中さんの生活に、花は欠かせない存在だ。

祖母や母が花好きで、幼い頃から家の庭はいつも色とりどりに彩られていた。そんな環境で育った田中さんは自然と親しむようになり、自身の2つの靴下ブランドにも花のモチーフを取り入れるようになったという。

田中さんが手がける〈高山植物図鑑〉の靴下は、登山用の本格スペックを備えた厚手メリノウール製。動きやすく、自転車にもぴったりで、男性も履ける27〜29cmサイズまで展開している。

前橋市の花、バラをあしらったマンホールの蓋が足元でひそやかに咲き、街にさりげなく華やかさを与えていた。

「小さいころの夢は“お花屋さん”でした。大人になってからはファッションへの興味が強くなったけれど、お花のモチーフはずっと好きです。いまは、いつも自宅に生花を飾っています。そうすれば、部屋をきれいにしたくなるんです。散らかっていると、お花に申し訳ないような気がして(笑)。だから、自然と部屋を整えていられるような気がします」

〈givré〉は、金井裕子さんと真吾さん夫妻が営む町の生花店。季節感を大切に、趣深く自然を感じられる花をセレクトし、地元の人々に愛されている。

givré

●群馬県前橋市千代田町2-2-7。月曜日〜土曜日11:00~18:00、日曜日・祝日11:00~17:00。火曜日休。TEL 027-289-2835。@givreshot

田中さんと自転車店の縁を結んでくれたのも、ひとつの生花店だった。

「以前、名古屋にある知り合いのお花屋さん〈アトリエみちくさ〉で靴下のポップアップイベントを行ったんです。そのとき、店主・井本絵美さんの夫である幸太郎さんが、仲の良い自転車店があると言って、〈Circles〉に連れて行ってくれました。当時は自転車にまったく興味がなかったのですが、パーツが整然と並ぶ店内の様子がとてもカッコいいと思ったし、スタッフは本当に良い方ばかりでした。そんな出会いがあったので、夫が自転車が欲しいと言い出したときには、〈Circles〉がいいと思う、と勧めました」

奇しくもちょうどその頃、東京に新店舗〈Circles Tokyo〉がオープン。田中さんは夫とともに、訪れることにした。

〈Circles Tokyo〉は、2024年に東京・虎ノ門にある〈SELECT by BAYCREW’S〉内にオープンした。しなやかな乗り心地と長く使える強さを大切に、“日常の延長として自転車を楽しむ”視点からスチールバイクを中心にセレクトしている。名古屋の本店〈Circles〉で培った世界観を受け継ぎつつ、東京​​では他で見られないブランドやアイテムを集めた、特別なラインナップの店になっている。

そこで田中さんが選んだのは、アメリカ生まれの〈WILDE BICYCLE〉のグラベルバイク。長時間走っても疲れにくく、荷物やアクセサリーを装着しやすい高い拡張性を備え、通勤からツーリングまであらゆるシーンにフィットするオールラウンダーだ。

「山で遊べて、旅もできて、街でも走れる自転車が欲しいとリクエストしたら、ぴったりの一台として勧めてもらったのが〈WILDE BICYCLE〉でした。​​詳しいことはわからなかったのですが、ヘッドバッジにお花のモチーフがあって、一目惚れして決めました」

〈BAYCREW’S〉に勤める吉本直史さんは、自転車好きが高じて、〈SELECT by BAYCREW’S〉内の自転車店立ち上げに抜擢。名古屋の〈Circles〉で1年間メカニックとして研修を受け、経験と知識を身につけた。

自転車の組み付けを担当したのは、吉本直史さん。田中さんのリクエストにどのように応えたのか、こう話してくれた。

 「一見愛らしいルックスですが、実は骨太でしっかり走るよう仕上げました。田中さんとお話しする中で、これから自転車カルチャーに熱中される予感を強く感じました。街乗りはもちろん、〈OMM BIKE〉のようなイベントにも挑戦したいとのことで、太いタイヤも履けるアッセンブルに。いまの最適解でありつつ、将来やりたいことが増えたときも、カスタム次第で対応できる余白を残しています。この一台があれば、街も山も、田中さんのやりたいことをすべて叶えられる。そんな相棒になるように組みました」

クラシックな自転車にあしらわれるヘッドバッジはブランドの顔。〈Wilde Bicycles〉では、花をモチーフにしたデザインでその象徴性を示している。

レザーと銅鋲のディテールが、伝統の風格を感じさせる〈BROOKS〉Swift。ロードバイクでもグラベルでも使える現代的な快適性を備え、手作業の仕上げがライドの満足感を高める。

〈SIMWORKS〉のハンドルバー「Wild Honey Bar」は、鳥の羽のようにライズしたハンドルで上体を自然に起こし、安定したハンドルと握りやすいブラケットを両立。視野も広がり、ツーリングをもっと快適にしてくれる。

アーティストユニットGHOOOSTが手がける〈Twist Flower〉は、自転車に遊び心を添えるアクセサリー。田中さんは「他に決めるパーツがたくさんあるのに、まずこのお花を付けることを決めました」と笑う。

田中さんが選んだ〈Wilde Bicycle〉をはじめ、〈BASSI BIKES〉や〈RETROTEC CYCLES〉など、アメリカを中心とした個性豊かなフレームが揃う。

海外で人気のデンマーク発のカーゴバイク〈OMNIUM〉も取り扱う。車を手放し、荷物をたっぷり積んで街中を自在に駆けるライフスタイルを提案する。

自転車ライドに最適化された岡山県産セルビッチジーンズ。ウォッシュ加工モデルは後ろポケットに〈SUGINO〉のコグモチーフ、トップボタンには〈NITTO〉バーエンドキャップを使用。各¥27,500。

バッグブランド〈TEMBEA〉とのコラボトート。定番キャンバス素材で、自転車ラックに簡単に取り付けられ、荷物の多いライドも快適。

〈Bedrock Sandals〉は登山やサイクリング向けのベアフットサンダル。ビブラムソールでペダリングに最適。足の甲を覆うスリッポンタイプなら、冬も快適に履ける。

〈Circles Tokyo〉の取り扱いブランドの中でも象徴的な〈Seven Cycles〉。マサチューセッツ発のハンドメイドで、チタンやスチールのフレームを1台ずつ手作業で仕上げ、ライダーにぴったりのバイクを届ける。

Circles Tokyo

●東京都港区虎ノ門2-6-3 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー3F。TEL 080-4792-5884。11時〜20時。不定休。@circlestokyo

やりたいことをすべて叶えてくれる愛車とともに暮らすようになり、田中さんは視点にも変化が現れたという。

「自転車があると、どこまでも行けそうな気がしてきます。歩くと少し遠いけれど、車だと見過ごしてしまう、中間の距離にちょうどいいんです。これまで行きづらかった場所にも行けるようになりました。山歩きも好きですが、いまは自転車で走るほうが自分の身体に合っているように思います」

山を自転車で走る魅力は、どんなところにあるのだろう。

「まず、自転車で山に行けるという新しい発見が、とてもうれしかったです。歩くと大変な道のりも、自転車なら気持ちよく進める。山を下るときの疾走感も格別で、この自転車のポテンシャルを存分に発揮できる山のルートを、もっと走りに行きたいですね」

〈BICYCLE SPECIFICATIONS〉

​​フレーム:Wilde Bikes – Rambler SL
リム:GROWN
タイヤ:WTB – Byway 650/47
ヘッドセット:TANGE
ステム:GP
ハブ:Shimano
クランク:Bluelug
チェーンリング:Bluelug
ペダル:MKS – BM-7
ハンドル:SIMWORKS – Wild Honey Bar
ブレーキ:PROMAX
ブレーキレバー:MICRO SHIFT
サドル:Brooks – Swift
ドリンクホルダー:KING CAGE