大人になって始める人も急増。歯の矯正にまつわる基本のQ&A。
子どもの頃に矯正を断念した、という読者も多いのではなかろうか。だが、まだ遅くはない。大人になってから矯正をはじめる人が増えている。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/ハニュウミキ 監修・取材協力・資料提供/平井友成(日本審美歯科協会会長) 編集/CAPSTAR
初出『Tarzan』No.913・2025年10月23日発売

教えてくれた人
平井友成(ひらい・ともなり)/日本審美歯科協会会長。九州大学歯学部臨床教授、水上歯科クリニック副院長を経て、平井歯科クリニックを開設。院長として歯周病治療などに携わる傍ら、インプラント専門医としても研鑽を積み、患者に最適な処置を提案している。
Q.矯正が必要な歯並びとは?
A.代表的な不正咬合は5つあります。
歯に対する美意識が高いアメリカ人と異なり、芸能人のように完璧な歯並びを持つ日本人は案外少ない。そしてひと口に歯並びが悪いといっても、その内容はさまざま。
「歯並びが悪いことを歯学の世界では〝不正咬合〟と呼びます。原因はさまざまですが、生まれつきのものと生活習慣やクセなどによる後天的なものがあります」(日本審美歯科協会会長・平井友成さん)
まずは代表的な5つの不正咬合の特徴を見ていこう。
1.出っ歯

専門用語では上顎前突(じょうがくぜんとつ)と呼ぶ。比較的数多くの人に見られる不正咬合で、上顎が前方に出ているだけでなく、下顎が成長不足で小さいケースや上の歯が前に傾斜している場合もある。
2.受け口

専門用語では下顎前突(かがくぜんとつ)、または反対咬合。出っ歯とは逆に下の前歯、もしくは下顎全体が前に出ている状態。不正咬合の中でも矯正治療に時間がかかる難しいケースとされている。
3.乱杭歯(らんぐいば)

専門用語では叢生(そうせい)といい、八重歯はその一種。不正咬合の中で最も多いのがこのケース。歯が生え揃うスペースがないため歯同士がおしくらまんじゅう状態で凸凹してしまう。または歯の生える方向がバラバラの状態。
4.開咬(かいこう)

開咬奥歯は嚙み合っているが、前歯の上下間に隙間がある状態。原因とされているのは幼い頃の指しゃぶりや口呼吸の習慣など。口の中が乾燥しやすいのでむし歯や歯周病のリスクが高くなる傾向がある。
5.すきっ歯

歯の間に隙間がある不正咬合。専門用語では正中離開(せいちゅうりかい)、または空隙歯列(くうげきしれつ)。上唇と歯ぐきの間にある筋の発育異常などで起こることがあり、サ行やタ行の発音が不明瞭になりがち。
Q.歯並びを悪くする主な原因って?

A.子どもも大人も原因はさまざま。
考えられる不正咬合の主な原因は下に示した通り。
「子どもの頃の永久歯の生え替わりのタイミングが悪くてすきっ歯になったり、顎の骨のサイズに対して歯が大きくて乱杭歯になることもあります」
成長期だけの話ではない。大人になってからも不正咬合が生じることもあるという。
「食いしばりの影響で受け口を引き起こしたり、むし歯や歯周病で失った歯を放置して歯の生える方向が変わったりするケースも少なくありません」
被せ物が取れたり、年月の経ったインプラントが自前の歯と合わず不正咬合を招くことも。
不正咬合の主な原因。
- 成長期の歯の喪失
- むし歯や歯周病による歯の喪失
- 歯と顎のサイズのアンバランス
- 食いしばり
- 不良補綴物
- インプラントなど
Q.悪い歯並び、放置してちゃダメ?

A.心身の不調に繫がることもあります。
・心理的ストレス。
歯並びが悪いと人前で歯を見せたくないという意識が働き、笑う機会が減るケースも。とくに容姿が気になる若者は不正咬合がコンプレックスになりやすい。ストレスによる歯ぎしりでますます不正咬合が進むこともある。
・消化器への負担。
きちんと食物を嚙めないくらいの不正咬合では、咀嚼されていない食物が直接胃に送られるので通常より消化の手間がかかりがち。胃腸の負担が増え、美味しく食べられるものの選択肢が減る可能性も。
・歯を失うリスクが高まる。
右下で説明したように、口腔ケアが難しいということは、むし歯や歯周病のリスクが高くなるということ。どちらも歯を失う大きな原因となる歯科疾患。歯を失った場合、その状態を放置するとさらに不正咬合が促される。
・社会的印象度。
海外では歯並びが悪いとデンタルIQが低い人と見なされてビジネスで相手にされない。歯並びの良さは教育レベルの高さと豊かさの象徴。日本でも同じプレゼンをするなら歯並びのいい人の方が好印象を得られる。
・口腔ケアが難しい。
床に溝があればそこに埃が溜まる。同じように凹凸が激しい歯並びの場合、そこかしこにプラークが溜まりやすい。よほど頑張って磨かないと歯を清潔に保てない。逆に歯並びがいいとケアをしやすい。
Q.大人になってからも矯正はできるの?

A.大人でも矯正で歯は動かせます。
放っておいたら百害あって一利なしの不正咬合。改善策は歯列矯正一択だが、子ども限定の対策というイメージがある。でもこれ大いなる誤解。大人になってからも不正咬合は起こる。ということは、大人の歯も動く余地があるということ。つまり、大人の歯列矯正も可能なのだ。
「インプラントは動かないのでもうその位置は不動です。だからインプラントをしている人の方が矯正は難しい。逆に手付かずの不正咬合であれば矯正は十分に可能です」
Q.矯正治療の流れって?

A.最低でも4年はかかります。

歯列矯正の治療は一朝一夕で終わらない。全体矯正の場合、動的治療で2〜3年、さらに動いた歯を安定させる経過観察で2〜3年はかかる計算。腰を据えて取り掛かる必要がある。現在のところ、代表的な矯正治療の方法はふたつ。
「昔からあるワイヤー矯正はエラーは少ないのですが、見た目的なマイナス面が大きいと思います。それを避けるために裏側からのワイヤー矯正が一時はやりましたが、舌が引っかかるなどのデメリットがありました。現在は新たに登場したマウスピース矯正が注目されています」
確かにマウスピース矯正は目立たないが、自己管理で22時間装着し続けるなどハードな条件もある。医師と相談して自分に合った方法を選びたい。
矯正の二大潮流
【ワイヤー】
メリット
- 適応範囲が広い
- 高い効果が望める
デメリット
- 矯正装置が目立つ
- 口内を傷つけることがある
- 硬いものや粘着性の高いものが付着しやすい
- 金属アレルギーのリスクがある
【マウスピース】
メリット
- 目立たない
- 口内が傷つきにくい
- 違和感が少ない
- 飲食中に取り外せる
- 歯磨きがしやすい
デメリット
- ワイヤーよりコストが高い
- 自己管理能力が必要
- 治療期間が長くなる可能性がある
Q.でも、実際の効果ってどうなの?
A.期待以上の効果が望めます。
下の写真のように、すきっ歯の歯と歯の隙間はぴったり閉じ、前方に傾いた歯の向きはストレートに矯正され、ガタガタだった乱杭歯はきれいに整列。
時間をかけただけの効果が期待できる歯列矯正治療。自由診療なので費用は歯科医院によって大きく異なるが、全体矯正で数十万はかかると見ておくべし。




