“インターバル速歩”はなぜカラダに良いのか?

ある程度の運動強度を担保しながらの「インターバル速歩」。速度アップで得られるメリット、インターバルをつけることのメリットを理解することで、より実践のモチベーションをアップ!

取材・文/山田卓立 イラストレーション/三上数馬 撮影/山田 陽

初出『Tarzan』No.912・2025年10月9日発売

教えていくれた人

能㔟博(のせ・ひろし)/信州大学大学院医学系研究科。中国・天山山脈の未踏峰であるボゴダオーラ峰(5445m)に医師として同行している。インターバル速歩などウォーキングのみならずトレッキングに関する著書も多数執筆・監修する。

斉藤昌彦(さいとう・まさひこ)/ 〈シダス〉のアスリート担当として5000ペア以上のインソールを製作。同社がサポートするトップアスリートの駆け込み寺として、その確かな技術から多くの信頼を得ている。

「歩く」で覚醒スイッチがオンになる理由。

足裏の刺激

歩くことで脳が刺激される仕組みはさまざまな研究で証明されている。その効果はコーヒーやタバコの一服よりも強いといわれている。

スティーブ・ジョブズが新しいアイデアを生み出すために歩きまくったという話は有名だが、これにはきちんとした理由がある。カラダ中の筋肉には「メカノレセプター」なるものが多く存在し、歩くことでこの感覚受容器が刺激される。

これらのセンサーは、睡眠と覚醒を作用する「脳幹網様体」にも作用し、足の裏では特に親指に多くある。

脳幹網様体への刺激は、いわば「覚醒の信号」。五感が統合され集中力が増し、コーヒーを飲んだりタバコを吸ったときのように、脳が覚醒状態に入るといわれている。歩くときは親指でしっかりと蹴り出し、覚醒のスイッチを押すこと。

筋肉の活性化で脳が元気に。

脳が機能しなくなると当然筋肉は動かない。そういう意味では、脳が筋肉を支配しているともいえそうだが、筋肉(骨格筋)から分泌されるホルモン「マイオカイン」は脳機能の向上にも作用している。

運動することで、脳の指令によって分泌されるテストステロンなどのホルモンは筋力向上に寄与するが、筋肉から分泌される「マイオカイン」は、血流に乗って全身を巡り、脳だけでなく、臓器や組織にまで効果を生んでいる。

つまり、筋肉は全身にホルモンを分泌するもっとも大きい臓器ともいえる。だから、歩くだけでも分泌される「マイオカイン」で脳も元気になるのだ。

歩く速度アップで持久力が向上。

さっそく歩いてみよう!と思い立ってみたものの、「どこどこまで歩こう」「○分歩いたら帰ってこよう」と目標を立てることは重要だ。しかし、大事なのは距離でも時間でもない。一番心がけたいのは「スピード」だ。いくら長距離を長時間歩いても、ペースが遅ければ運動効果は乏しい。

体力には個人差があるが、目安となるのは「息が弾む」程度のスピードが効果的とされている。言い換えれば「短い会話を続けていられる」速度。ここに関係してくるのが「乳酸」だ。血中乳酸濃度が急激に上昇し始めるポイント(乳酸閾値)を越えることで初めて持久力の向上が見られるのだ。

加齢による歩行速度の変化。

加齢による歩行速度の変化

縦軸に「歩くスピード」、横軸に「年齢」をとると、男女ともに緩やかな逆U字曲線を描く。速度は変化するものの、持久力を高めるために、「ボルグ指数」に基づく「ややきつい」強度で歩きたい。

出典/アシックススポーツ工学研究所

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「歩くだけ」より効果アリ。正しく覚える“インターバル速歩”。

「1日1万歩」では運動強度が足りない!

以前からよく「健康維持のためには1日1万歩」と繰り返されてきた。だが、「1日1万歩」では体力向上効果は見られず、その結果、生活習慣病の改善効果も期待されるほどではなかったという研究が発表されている。

その要因として「運動強度」が低すぎるということが挙げられる。これは最大酸素摂取量で計測され、きつい運動をしたときに最大限消費する酸素、つまりどれだけきつい有酸素運動ができるかという数値で求められる。

欧米の研究では「最大酸素摂取量の60%以上でないと体力は上がらない」とされ、1日1万歩では30%〜40%の運動強度にしかならないのだ。

ハムストリングスの筋力変化。

ハムストリングスの筋力変化

1日1万歩歩くグループ、インターバル速歩を行ったグループに分け、ハムストリングスの筋力を測定。5か月後にはインターバル速歩のグループの筋力が平均17%アップした。

『ウォーキングの科学』(講談社ブルーバックス)より

体力アップには“インターバル”が重要。

インターバル

速歩など高負荷の長時間運動はケガのリスクを誘発。インターバル運動のメリットとしてケガの防止も挙げられる。

「ややきつい」と感じるスピードで歩かなければ、持久力・体力ともに効果は得られないが、それも単発で終わってしまっては意味がない。そこで速歩きとゆっくり歩きを繰り返す「インターバル速歩」に着目したい。

ゆっくり歩きをはさむことで、速歩きで上がった心拍数の回復を促し、心肺系の回復力そのものを高める効果もある。その結果、速歩だけを続けるよりもトータルの運動時間を延ばすことにもつながるので、疲労を溜めずに運動量を稼げることにも。したがって、インターバル速歩は「ランに直結するウォーキング」とも言える。

“インターバル速歩”で得られる8つのメリット。

インターバル速歩とは、速歩きとゆっくり歩きを交互に繰り返すトレーニング法。このシンプルな運動には驚くほどの効果があることが知られている。

速歩きのパートでは、全筋肉の約60%が集中する下半身をフル稼働させる。カラダに「酸素が足りない!」という大きな負荷がかかることで、全身の持久力向上にもつながり、乳酸閾値の向上や代謝の活性化といった効果が期待できる。

一方、ゆっくり歩くパートでは、速歩きで疲労した筋肉の回復を促進し、筋肉に溜まった乳酸を洗い流す効果がある。こちらも3分が目安で、その間速歩きの脂肪燃焼効果も維持される。この2つを長く繰り返すことができるのがインターバル速歩のいいところ。

他にも、下のイラストに記載されているように、フィジカル面のみならずメンタル面でのメリットも享受できるインターバル速歩。さあ、実際に実践してみよう。

熱中症や睡眠の質改善につながる

信州大学の研究では、体力の向上だけでなく、熱中症の予防や睡眠の質の改善、生活習慣病の改善などさまざまな効果が認められた。

BMIの変化による生活習慣病罹患率。

BMIの変化による生活習慣病罹患率

インターバル速歩を5か月間行うと、BMIの変化によって生活習慣病のリスクも軽減。持久力や体力の向上のみならず、健康面のメリットも享受できる。

資料提供/能㔟