「歩くだけ」より効果アリ。正しく覚える“インターバル速歩”。

ただ歩くだけじゃもったいない。“インターバル速歩”なら、姿勢が整い、体力もアップ。3分速歩+3分ゆっくり歩きを繰り返し、ブレない体幹を鍛えよう。

取材・文/山田卓立 イラストレーション/三上数馬

初出『Tarzan』No.912・2025年10月9日発売

教えていくれた人

能㔟博(のせ・ひろし)/信州大学大学院医学系研究科。中国・天山山脈の未踏峰であるボゴダオーラ峰(5445m)に医師として同行している。インターバル速歩などウォーキングのみならずトレッキングに関する著書も多数執筆・監修する。

継続は力なり。メリットだらけの歩き方。

心身ともに良い影響が期待できる「インターバル速歩」。やり方は簡単で、「ややきつい」と感じる、最大体力の70%程度のスピードの速歩きを3分、息を整えながらゆっくり歩きを3分ずつ行って、これで1セット。1日計5セット30分として、トータルで速歩を15分確保するようにしよう。

1日30分を週4回。速歩の合計が週60分に達すると、それ以降の同負荷での運動では体力の向上は見られないとされているので、この頻度を目標に継続を。

「3分」というのにも理由がある。2分以上の負荷のかかる運動を続けることで乳酸が出てきて、主観的運動強度(ボルグ指数。下記表参照)が実際の運動強度にマッチするのが2分以降とされている。また習慣のない人でも3分の運動なら継続でき、次の3分は休めるという“ご褒美”はモチベーションにもつながるというわけだ。

このセット数では物足りないという場合は歩行時間やセット数を増やすのではなく、スピードを上げる、坂道を歩くなど「負荷」で調整するようにしよう。

ボルグ指数 感じ方
7ー8 非常に楽である
9ー10 かなり楽である
11ー12 楽である
13ー14 ややきつい
15ー16 きつい
17ー18 かなりきつい
19ー20 非常にきつい

「ややきつい」運動とは、主観的運動強度(ボルグ指数)を目安にすると13〜14の指標。やや息切れをしながらでも誰かと話せる程度の強度に相当。

速歩で踏み出したときの各部位の注意ポイント。【速歩3分+インターバル3分×5セット】

速歩で踏み出したときの各部位の注意ポイント。

  • 視線:25m先のやや斜め下を見る。背すじを伸ばすのを目的に遠くを見る。
  • 肘:90度に曲げて肩甲骨が上がらないように後ろに引くことを意識。
  • 姿勢:肩の力を抜いてリラックス。背すじを伸ばして胸は張りすぎない。
  • 足・歩幅:普段より少し大きい歩幅で男性は+5cm、女性は+3cmが目安。

正しく歩くための基本姿勢をおさらい。

ストレートネックで肩が内巻き、胸骨が開いて骨盤が前傾。現代人のデスクワークで凝り固まった姿勢の典型だが、このまま歩くのはあまりにみっともない。正しい姿勢は、壁に背を向けて直立し、後頭部・肩甲骨・お尻・踵が壁についている状態。骨盤の前傾は、下腹部に力を入れて骨盤を「立てる」イメージだ。

壁を背にして立つと、普段の重心が前のめりになっていることに気づくはずだ。これも現代人の傾向で、本来の重心はやや後ろになる。横から見たときに耳から踵までの床から垂直に一直線になるのが正しい重心の位置だ。

ただ、この姿勢を意識しすぎて両肩が上がり、過度に胸を張った(胸骨が開いた)状態にならないよう注意。

基本の姿勢。

基本のポジション

壁に背を向け直立し、後頭部・肩甲骨・お尻・踵が壁についている状態が理想。これだけでもつらいが上体はこの姿勢をキープする。

正しい歩き方

歩き方のイラスト

  1. 前足の足の裏を前方から来る人に見せるようにして膝はまっすぐ伸ばして踵から着地。爪先はまっすぐ前に向けて、頭は上下運動がないように。
  2. 体重を移動するときに姿勢が前傾・後傾しないように。そのまま体重移動し最後に後ろ足の親指で蹴り出す。太腿よりも大臀筋を意識する。
  3. 次の一歩を踏み出すときは太腿の位置がカラダより前にあり、大臀筋でカラダを支える。上体は最初の姿勢をキープして自然な重心移動をする。
  4. 歩幅は大股を意識しすぎて膝が曲がった状態で接地してしまうのはNG。伸展した状態で接地。踏み出した足と反対の腕を自然と前に振る。
「正しい姿勢」で歩くための簡単チェック法を実践する。

歩くペースや速歩きを意識するあまりフォームが崩れてしまっては元も子もない。美しく走るためには、美しい歩き方をキープできるようにしよう。

正しい姿勢の簡単なチェック法

  1. 両手でタオルを握って軽く頭の上に伸ばす。
  2. そのままゆっくり頭の後ろにタオルを下ろしてその姿勢で歩いてみよう。こうすることで、自然と胸を張ることができ、肩と肩甲骨も正しい位置をキープすることができる。

長く歩くためのポイント・足の着地方法。

歩くのはヒール、走るのはミッドorフォアフットで。

着地方法はトップランナーでさえ走法によってさまざまだが、ヒールストライク、ミッドフット、フォアフットの3つに分けられる。

「インターバル速歩」では踵から接地する「ヒールストライク」が推奨。というのも、速歩では普段よりやや大股になるので、踏み出した足への体重移動が遅れ、自然と踵着地になるのだ。踵からの着地で膝への負担も懸念されるが、足裏の体重移動が示すように、前足では親指に抜けるように、後ろ足では爪先で地面を蹴るように意識することで、シューズの推進力も借りることができる。

ミッドフット、フォアフットはランニングでの効率的な着地方法となる。ランでのエネルギーロス軽減やスピード効果を得られるので、より強度の高い運動をするときに意識してみよう。

歩く(ヒールストライク)|筋肉への負担が少ない着地法。

歩く(ヒールストライク)

踵から着地をすることで、カラダへの負担が少ないのが特徴。後ろ足の爪先で地面を蹴ることで前足へのスムーズな体重移動ができる。ウォーキングだけでなく、トレーニング後のロングジョグやリカバリー時の着地方法。

走る(ミッドフット)|足裏全体で着地し衝撃を軽減。

走る(ミッドフット)

ミッドフット(中足部)から足裏全体で着地するためブレーキ効果が少ない分、ヒールストライクよりも推進力を生む。上下運動が少なくなるのでエネルギーロスを少なくできるメリットも。

走る(フォアフット)|鍛えていないと故障リスク大。

走る(フォアフット)

フォアフット(前足部)から着地。地面との接地時間が短いため膝への負担が軽減されるものの、トレーニングを積まないと筋肉への負担が大きい。長距離のトップランナーに多い着地方法。

正しい重心移動は足の裏を意識して。

正しい重心移動のイラスト

歩行時の重心の流れは、踵から着地して足の中央を通って、親指に移動する。外側を通って小指側に抜けたり、内側だけを使って重心を移動しないように注意が必要。シューズの踵の減り方が左右違う、外側ばかり減っているのは、歩き方の癖によるものだ。長時間の歩行で土踏まずなど足裏の筋肉が過度に疲れてしまう場合は、この重心移動を意識しよう。

ミッドフット、フォアフットは歩行ではNG。

ミッドフット、フォアフットは歩行ではNGのイラスト

ミッドフットやフォアフットで歩こうとすると、かえって不自然な歩き方になってしまうに違いない。膝を伸展して踏み出せば自然と踵からの着地になる。バタバタと足裏全体で着地するミッドフットにならないように注意が必要。

一方で長距離をトップスピードで走るアスリートにはヒールストライクは見られない。前足着地前に、空中動作ですでにカラダの重心が前足の位置に移動しているからだ。

インソールをしっかり交換することの重要性。

ウォーキングでもランニングでも、足部は着地のたびに股関節や膝と連動して内旋・外旋(内転・外転)を繰り返し、地面からの衝撃を和らげる役割を果たしている。したがって着地の仕方次第で下腿(膝から足首までの部分)に負担がかかり、それがケガの原因になることも。そのリスクを少しでも軽減させるのがインソール。

接地時の足裏の体重のかかり方や重心移動の仕方は、人それぞれ異なり足の形状によってもそこには必ず癖がある。購入したシューズのインソールはあくまで「汎用型」なので、自分の足型、歩き方を知ることも重要になってくる。

昨今は厚底機能性シューズの流行でアウトソールに目が行きがちだが、足裏にダイレクトに接するインソールは、アーチの高さやバランスのズレ、左右の誤差を解消してくれるもの。見た目だけでなく「中身」にもケアが必要だ。足の数だけ足型がある。

自分だけのフィット感を手に入れよう。

〈シダス〉の画像

初の直営店〈SIDAS FITTING LAB〉は、足の3D計測や歩行分析を通して、最適なインソールをオーダーメイドで作製する専門ラボ。トップアスリートも通い、パフォーマンスUPを望む人だけでなく、普段履きのシューズや足に慢性的な悩みのある人も多く訪れる新拠点。

東京都港区南青山2-27-7。10:00〜18:00、水曜定休、年末年始、その他不定休。WEBサイト

歩くための筋肉を意識しよう。

「歩行は遅筋」と覚えよう。主に使うのは大臀筋、内転筋群、ヒラメ筋の3つ。それぞれ足を前に蹴り出す「推進」に大臀筋上部、ヒラメ筋。重心を「支持」するときに大臀筋下部、大内転筋を意識しよう。

チェック

正しく歩けていれば、重心は上下・左右とも2cm以上は動かないとされている。安定させるためには、推進/支持の状態で各部位を働かすことを心がけよう。

推進時は踵を持ち上げる(足首を底屈)ときにヒラメ筋が、重心が前に移動するときには大臀筋上部(筋肉の動きとしては足を後ろに持ち上げる)に負荷がかかっていればOK。支持するときは、重心が移動するときに大臀筋下部から大内転筋へと体重がシフトするように。

このときハムストリングスが入力されているのは、踏み出すときに膝が曲がっていたり上体が前後している証拠なので要注意。

大臀筋・ヒラメ筋・内転筋群のイラスト

【大臀筋】
お尻の筋肉のなかでもっとも大きな筋肉。足を後ろに引き上げるため、つまり推進時に蹴り出す力となる。同時に股関節を伸ばす役割を担い、坂道を上るときにも作用する。

【内転筋群】
内側から膝を支え、歩行中に膝が内側に入ったり外側に出たりするのを防ぎ、重心を安定させる役割。支持した重心を推進力として無駄なく安定して出力する。

【ヒラメ筋】
足を宙に浮かし甲を下げる運動(足関節の底屈)、つまり足を蹴り出す運動のときにヒラメ筋が入力される。大臀筋と並んで推進に作用する筋肉は主にこの2つ。